山奥ともなれば冬場の冷え込みは相当なものだ。いくら暖房設備が整っているからといって寮内が常時暖かいというわけではない。寮生が寝静まり灯りが落とされれば気温も下がり、寒さは室内にも例外なく訪れる。
寒さに強い方ではない、ならば暑さには強いのかと問われても答えは否。だが寒暖に強い弱いが関係ないくらい今晩の冷え込みは酷い気がして、布団の中で体をさらに丸めた。足先から体温が奪われていく寒気に身震いする。眠れてしまえば楽なのに風呂上がりに乾かさなかった長い髪がまた寒気を増長させているようだった。

(寒い……)

暗い室内で一人寒さに震えている、自分だけではなく寮生全員が同じ条件であるはずなのにこういう時は自虐的な、それでいて悲劇のヒロインめいた思考しか浮かんでこない。孤独と寂しさ、両方が募る自分に馬鹿みたいだと自嘲した。

(ただ寒いだけなのに)

不意に芽生えた心細さに支配される。こんな時になって自然と口から漏れた名前は会長、だった。呟いたそれは静寂と暗闇に溶けて消え行くはずだったのに、それだけでは終わらない。まるで夢のようだと、思った。

「呼んだか」

颯斗、と名を呼ばれ独り言だった己の呟きに返事があった事に驚く。目を開けば暗闇の中でも分かる、自分が思い描いた通りの人がそこにいた。覆い被さるように自分を見下ろす彼は濡れた己の髪を撫でながら微笑を浮かべている。

「会長……」
「お前髪ぐらい乾かせよな。風邪ひくぞ」
「え、あの……どうしてここに?」

それ以前にどうやって?問えば彼は俺を誰だと思っている、この学園の支配者だこの俺に入れない部屋などないと誇らしげに言い切った。職権濫用を堂々と告白されても副会長である自分にとっては複雑だ。
だが次に見せてくれた表情は慈愛に満ちた優しい笑顔で、心臓が勝手に高鳴る。

「今晩は寒かったからな……お前が震えてるんじゃないかと思って」

温めにきた。
ああ、今が暗闇で本当によかった、自分の顔は林檎に負けないくらい多分真っ赤だから。

「二人で寝れば寒くないだろ?」
「……会長自ら規則を破るのは、関心しません」
「バーカ、生徒会長だからだよ」

上着を脱いだ彼が断りもなく布団の中へ入ってくる。離れようと動く前に彼の腕に拐われ胸に抱き込まれた。

「か、会長……!」
「俺は離れないから。だから安心して眠れ、颯斗」

胸板に赤い顔を埋めながら鼓動がさらに速くなるのを感じた。けれど不思議と心地のよいどきどきは、頭を撫でてくれる掌の心地良さも合わさって眠気を運んでくれる。ぎゅぅ、と彼の服を掴んで恐る恐る体を寄せれば確かな温もりと、彼の匂いを感じることができた。

「……会長」
「ん?何だ、颯斗」

ありがとうございます。
夢と現の狭間で告げた言葉は彼に届いただろうか。
孤独と寂しさは、もう感じなかった。





091229






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