きす、してみないか。


甘い低音が紡いだ言葉にうっかり抱えていた紙束を落としそうになった。声の主を見遣る。彼はくつくつと笑うと会長専用の椅子から腰を上げた。笑われるほど、自分は可笑しな顔をしていたのだろうか。

「今、なんて……?」
「だから、キスだよキス。知らないのか?」
「いえ、そういう意味ではなくて……」

キス。接吻。口付。それがどういう行為なのか、一般的にどんな意味を持つのか。それを知らないほど子供ではない。けれど、

「僕は、男です」
「知ってる」

気づけば立ち上がり歩み寄ってきた彼に壁際まで追いつめられていた。間近で凝視される感覚に背筋が震える。

「……っ、そういうコトは、好きな人として下さい。僕は、」
「だから、お前が好きなんだよ。颯斗」

指が頬をなぞり、そして顎にかけられた。え、と思った時には遅く、唇は別の熱と柔らかさに包まれていた。

ばさりと、今度こそ紙束が足元に散った。





091224






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