泣かせることしやがって、颯斗の読み上げた送辞に俺は不覚にも涙腺を刺激されてしまい、送辞の最中は涙をこらえるので必死だった。けれどその後に俺が読んだ答辞の間、颯斗も俯いて唇を噛んでいたのが分かったからお互い様だろう。

今日、俺は卒業する。




「颯斗!」

門の所にいた現生徒会長は俺の声にくるりと振り向いた。その瞬間を狙ってがばりと真正面からその体に抱きつく。うわっ、と彼にしては珍しい焦った声が聞こえて俺は笑いをこらえる事ができなかった。

「なんですか会長、危ないです」
「いや、だってさ」
「……何がそんなに面白くて笑ってるんですか」

まったく、呆れたように肩をすくめてはいるが、その手つきは思いの外優しい。背中に回された手にまた俺の心は浮ついた。

「会長」
「会長はおまえだろ」
「そうでしたね。けれど、一応今だけは許して下さい」

少しだけ体を離す。眼前に迫る颯斗の瞳は心なしか潤んでいるようにも見えたが、それは錯覚なのかもしれない。それを口にする前に、颯斗の唇がすぅっと息を吐いて、動いた。

「一樹生徒会長、今までありがとうございました」

瞳を伏せた彼は静かにそう告げる。俺はこの後颯斗が泣き出してしまうのではないかと危惧したが、それは杞憂に終わる。
颯斗は、笑顔だった。

「僕を生徒会に誘ってくれた事、本当に感謝しています。あの日、あの時から、会長は僕にとってのヒーローになりました」
「ヒーローとはまた大袈裟だな」
「足りないくらいですよ……僕は本当に、貴方と過ごせたこの二年間、楽しかったんですから」

それが常々、颯斗が思っていた俺に対する本心、なのだろう。送辞を読んでいる時も思ったが、こいつは本当に俺の涙腺を刺激するのが上手い。目頭が熱くなった。

「会長、泣かないで下さいよ」
「泣くかよ。お前と違って俺は泣き虫じゃないしな」

笑って言う、颯斗も笑った。
卒業式、三月一日ってのは涙の日だとずっと思っていた。別れを惜しむ、それに涙する。卒業式と言う式典の雰囲気がそうさ感じせるのかもしれない。けれどどうだろう。

俺も颯斗も、今間違いなく笑顔だった。

「なあ颯斗。謝辞を述べるのは結構だが、何か大事な事忘れてないか?」

こほんと咳払いを一つしてわざとらしく尋ねる。すると彼は本気で分かっていないのか、きょとんと眼を丸くした後、

「……ご卒業おめでとうございます?」
「違う。それはさっきの送辞の時聞いた」

相変わらず肝心なところで抜けてる奴だ。
離していた体をまた寄せる。この体温が、愛おしい。

「これからもよしろく、だろ?」
「……はい」

颯斗は微かに頬を染めて笑った。その目元が若干赤らんでいるのには気付かない振りをして、俺は空を仰ぐ。

今日という日は別れではなくスタートなのだと、俺は思った。










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