星空を背負って立つ後姿が綺麗だと思った。
寒々しい冬の空気、夜色のカーテンを纏う屋上庭園で見上げる星空がとても綺麗だと、初めて気付いたのはいつだっただろうか。

「少し冷えてきましたね」
「そうだな。寒くないか」
「ええ、僕は平気です」

暗い中でも艶やかなピンク色の髪は輝きを失わない。さらりと一房手に取ると、冷え切っていて冷たかった。

「今年も盛り上がったなあ」

言えばそうですね、と返される。互いに視線は絡まない。見上げるのは、空だ。

「……なあ、颯斗」
「なんですか」
「もう、卒業だな」
「……そうですね」

寂しくなりますね、呟かれた言葉に俺はこっそりと隣に視線を当てた。真っ直ぐに空を仰ぐ颯斗の瞳は心なしか潤んでいるようにも見えて、それが気のせいなのか星と月の灯りのせいなのか、俺には判別がつかない。
ただ、隙間を埋めるように静かに寄せられた体を抱きとめるように、肩を引き寄せた。

「生徒会役員は参加できないのが、今年は少し残念でした」
「今年は?」
「ええ。去年まではあまり思わなかったんですけどね」

男がほとんどのこの学園で、盛り上げるために催されている二月十四日のイベント。主催進行である俺達は当然参加は出来ない。

「何か願いでもあったのか」

問うと、颯斗はそこでようやく俺に視線を向けた。はい、と淀みない声が返事をする。

「会長が、ずっと、いてくれればいいのに」

叶いっこない、願い事ですけどね。

そっと唇を寄せる。言い切ると同時に肩を震わせ始めた痩身を抱き締めた。
確かに、叶いっこない願いだ。時間は容赦なく離別をもたらす。

「泣くなよ、颯斗」
「……泣いて、ませんよ」
「ずっとここにいる事はできないけど、」

こつん、と額を合わせる。赤くなった目元と鼻の頭。
ああ、好きだ。

「ずっと一緒にいるつもりだからさ、俺は」

頼むから泣くなよ、言い聞かせるとはい、と涙声で颯斗は頷いた。
背伸びして大人らしく振舞っている普段の姿が信じられないくらい、子供みたいな姿だった。
それでいいと思う、今はまだ。
いつか絶対、彼が泣き顔ではなく笑顔を浮かべていられるように、してやりたい。


この学園で過ごす最後のバレンタインの夜に誓った、願いだった。










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テーマ「人外ファンタジー」
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