「ねえがっくん、今日は何の日だか知ってる?」
突然現れたと思ったら、サイケさんは開口一番にそんな事を言い出した。にこにこといつも以上に無邪気な、というより楽しそうな笑みにつられて、僕も微かに口元を緩める。サイケさんがこんなに楽しそうなんだ、今日はきっととても楽しい事がある日なのだろう。生憎と、僕には今日何があるのかは瞬時に思い浮かばなかったけど。
「えーっと……何の日、でしょう?」
「はい、あと十秒!」
「え、ええっと……」
じゅーう、きゅーう、はーち、陽気な声でカウントダウンを始めるサイケさんに慌てて自分の記憶領域をフル稼働させた。データベースを漁ってみるけれど思い当たる情報が無くて、これはオンラインに接続して情報をネットから拾ってこないと分からないかなあ、なんて思っている内に彼の陽気なカウントダウンが終わりを告げてしまう。
「にー、いーち、ぜろ!はい、がっくん不正解!なので罰ゲーム!」
「へ?」
突然方をぽん、と押されたと思ったらそのまま体が重力に従って後ろに倒れてしまう。咄嗟に目をつぶったが予期した痛みは訪れず、代わりにぽすんと背中が何か柔らかいものに受け止められて恐る恐る目を開いた。
「あ、れ……クッション?」
淡いピンク色のクッションベッドがいつの間にか背後には出現していて、またサイケさんが作ったのかなと思ったらその張本人が僕の上に倒れ込んでくる。ぼすんと覆い被さってきた彼の重さと僕の重さ、二人分の質量にも負けることなくクッションはふかふかとした感触を僕らに返してくれた。
「罰ゲームとして、にゃんにゃんになってもらいます!」
「……はい?」
「今日はね、二月二十二日で猫の日なんだって。んでもってにゃんにゃんする日らしいよ?」
臨也君がそう言ってた!と明るく笑うサイケさんの言葉が理解できなくて、思わずそのピンク色の虹彩をまじまじと見つめてしまう。
えっと、猫の日っていうのは理解できる。けど、にゃんにゃん、って何?
「にゃんにゃんって……どういう意味ですか?」
「分かんない?……こういうコト、なんだけどな」
その瞬間、無邪気に笑むばかりだったサイケさんの瞳がすぅっと細められ怪しく輝いた。その視線に晒されて反射的に背筋にぞくりとした悪寒が走る。サイケさんがこういう顔をするときは、つまりその、……そういう、時だ。
「ちょっとごめんね」
サイケさんがすっと僕の額に手をかざす。ばちりと彼の掌から光がスパークしたのに驚いて目を閉じると、ぽんっ、と頭の上から小気味いい音が聞こえてきてすぐさま目を開けた。開けたり閉じたり自分でも忙しい瞼だなあなんて思う余裕を持てたのは、思えばこの時が最後だったかもしれない。
「は、え……?」
「ふふ、似合うよ、学人」
みみとしっぽ、怪しく囁くサイケさんの声にまさかと思い頭の上に手をやれば、そこにはひくひくと動く毛の感触。同じように視界の端でぱたぱた揺れている、多分僕の下半身辺りで揺れているだろうそれは……
「ちょっと学人のデータ書き換えて耳と尻尾付けちゃった。うん、思った通りすんごいかわいい」
「え、え、なに……」
「あ、ちゃーんと神経も通してあるから……ほら」
サイケさんがふう、と僕の頭の上、にあるのだろう三角形の猫耳に息を吹きかける。するとその感触が本当に感じられて、ひゃっ!と変な声を上げてしまった。
「サイケさん、なんで、これっ」
「だーかーら、今日はにゃんにゃんする日なんだって」
くすくす笑うサイケさんはもう無邪気なだけのサイケさんじゃない。その瞳の奥に確かな欲望を灯らせた、男の顔をしている。その瞳に射抜かれてしまえば僕はもう抵抗なんて出来なくて、うっ、と反射的に息を詰める。
「今日の学人は猫なんだから……かわいく啼いてよね」
かちゃりとズボンのベルトを緩められて、僕の顔は一気に青褪めた。
「っ、ぅ、あぅ……」
くちくちと水音を立てるのは僕の後穴で、サイケさんは先程から指を差し入れてひたすらそこを解している。スボンと下着は剥ぎ取られ、やりやすいようにとうつ伏せにされた態勢でそこを彼の目の前に晒しているんだと思うと羞恥で脳が焼き切れそうだ。
内壁を指で擦られる度にひくんひくんと肩が跳ねるのに連動して、やはり僕の尾骨辺りから生えているらしい猫の尻尾もぴくぴくと揺れていた。ぱたぱたと肌を叩いている感触が自分でも分かって、本当に生えているんだと場違いな感想を抱く。そんな場合でないのは、分かっているけれど。
「……はぅっ!う、ぁ、あぁ、ぃ、ぁ……」
ぐりゅ、と指が深くまで差し込まれてぎゅっとクッションを握り込んだ。するりするりと緩い動きで中を擦られる感触はもどかしいような気持ち悪いような、変な感覚を体に植え付けていく。サイケさんはまるで遊ぶように中で指を回したり引っ掻いたりするだけで、いつものような性急な動きが感じられない。焦らしている、のとも違う。
サイケさんが何をしようとしているのかも分からなくて、微かに怖くなった。
「あ、……あぅっ……サイケ、さん……」
「物欲しそうな声出しちゃって……可愛いね、学」
「あああっぅっ……!」
中で蠢く指が一本から急に三本に増やされて、急な質量の増加に後ろを締めつけてしまった。サイケさんの指の形をまざまざと感じ取りまた羞恥で涙が浮かぶ。気付けば顔の下のクッションは涙と涎でぐちゃぐちゃだ。
「あ、んぅぅっ……ひっ、ああぁぁ……!」
指が内部の性感帯を引っ掻いて、擦って、中を広げるように動き回る。断続的に体を襲う電流みたいな刺激に跳ねる腰を自分ではどうしようも出来なくて、ついでに言うなら勝手にぱたぱたと暴れる尻尾やひくひく動く耳も僕の意思通りに動いてはくれない。いや、むしろ既に思考なんて出来なくなりかけているけれど。
「こんなもんかなあ……」
呟きながら、サイケさんが後穴から指を引きぬく。それだけでくたりと体に無意識に込めていた力が抜けて、はふはふと息を整える事に集中した。もう挿れるのかな、そう予期してまた体に力を込めなおしたけれど、僕の腰を抱えたサイケさんはそのままいつものように挿入しなかった。熱くて固い性器じゃなくて、入り込んできたのはぬめりとした物体で、不自然に喉が引き攣る。
「っ、あ、ああ、あっ、あぁぁ!」
くちゅりと後ろに差し込まれたのは多分、サイケさんの舌、だ。顔だけを後ろに向けてみれば案の定、僕の後穴に顔を埋めているサイケさんが視認出来て、目の前が本当にくらりとした。
「いや、だめっ……あ、ゃあ、やぁ……!」
淵を丁寧に舐めたかと思ったら、指で十分に解されたそこに舌が根元まで差し込まれる。ぐにぐにと中を進む舌の感覚は指とも性器とも違って、気持ち悪い。けれどどうしてか体はぞわぞわと震えて、高まっていく熱を抑えきれない。先程から張り詰めたままの自身がますます膨張した気がして、自分の体はなんて浅ましいんだろうと声を上げて不意に泣きたくなった。
「さっ、けさん、だめ……ひゃ、あっ、いゃっ!」
いやいやと首を振ってなんとかサイケさんから逃れようと腰を引く。けれどそれは簡単に引き戻されて、さらに舌が激しく動き回る。
「あぁぁ!……ひっ、あ、ああ、んっ、ひゃ、あぅ……」
舌が前立腺を舐めていく。じゅるじゅると唾液が送り込まれて、ふやけるくらいにそこばかり吸いつかれる。羞恥と快感とで、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「さい、け、さ……もぉ……ゃぁ……」
ひぐひぐと喉を鳴らして湧きあがる涙を我慢せずに流せば、ぷはりとサイケさんがようやく舌を抜いてくれた。それにほっとしてくたりと体が倒れる。もうサイケさんの支えなしに腰を上げている事も難しい。そのくらい僕の体力は限界だった。
「もういいよね」
「……、ん……?」
「学人、体ごろんてして」
サイケさんに促されるまま横向きから仰向けに態勢を変えると、労わるようなキスが額に落とされる。それにほっとして唇に降りてきたサイケさんの唇を受け止めると、優しいキスに自然と目を閉じた。
けれど、後穴にそれが触れた瞬間、僕ははっとして口を離す。
「やだ、さいけさん、なにっ……!」
「なにって、挿れるんだけど?」
「っ、いや、やめてっ……」
サイケさんが挿入しようとしているのは、サイケさん自身ではなく。
彼の手に握られていたのは、先程まで愛撫にぱたぱたとクッションを叩いていた、僕の尻尾、だった。
彼はあろう事か、それを僕の後穴に擦りつけてくる。
「なんで嫌なの?だって尻尾も気持ちいいでしょ、学人」
「っ、ふぁっ!?」
サイケさんが握っていた僕の尻尾をぎゅうと強い力で握り締める。そのまま尻尾の先端を親指の腹で擦りながら、まるで性器に愛撫を施すのと同じ手つきで扱き始めた。
「ひゃ!あ、あっ……なに、だめ、へんっ……!」
「はは、だから言ったでしょ?神経通したって。ちゃんと尻尾も性感帯になってんだよ」
「あ!ぅぁっ、ひっ……!」
両手で擦られればまるで性器に愛撫を受けているかのような直接的な刺激が背筋を這いあがって、自身がさらに熱を持っていく。先走りを零している性器がひくんひくんと震え、直接触られてもいないのに射精の予感に震えていた。
「だからさ、これ学人の中に挿れたら絶対きもちいいよ?」
「っ、……やあ……やだ、やめて……」
ちゅ、と尻尾の先に口付たサイケさんはにこりと微笑んで、
「やーだ」
悪魔の様な、笑みを浮かべた。
「はぅっ!っ、ぁ、ゃああぁぁぁぁっ!」
ふわふわの尻尾の先端がくちゅりと浅く入口を潜ったかと思うと、そのままぬぷぬぷと力任せに押し込まれる。芯の通った固い物体とは違く奥まで押し込めるのは中々難しい様で、サイケさんは尻尾を固定しながらゆっくりとそれを僕の中に沈めていった。けれどそのゆっくりとした動きのせいで尻尾の感触をはっきりと感じ取ってしまい、ぴゅく、と小さく僕の自身から精液が飛び散る。
「なに、イったの学人?」
「あ……ぁぅ……う、ぅ……」
「やっぱり気持ちいいんでしょ、尻尾」
奥まで尻尾が入り切ったのを確認して、サイケさんが手を離した。僕はといえば今まで感じた事のない奇妙な感覚に翻弄されていて、とてもじやないけどサイケさんの言葉をまともに聞きとる余裕は残っていない。
ふさふさのやわらかい毛に内壁がまんべんなく刺激され、それに反応して後ろをきゅっと締めてつけてしまう。そしてまた毛が内壁を擦って性感帯を刺激され、また締めつける。快楽の無限ループとはこの事かもしれない。サイケさんはただ僕の体を上から見下ろしているだけで何もしていないのに、体は勝手に快楽に追い込まれていった。
「あ、ゃっ、やだっ!ひ、やぁぁっ、んぁっ!」
「がくと、すごい気持ちよさそうだね……」
「ひっ、あ、!……やだっ、やめて、だめぇぇっ……!」
慣れない種類の快感に堪らなくなって泣きながら尻尾を抜こうと手を伸ばすけど、それはあっさりサイケさんに捉えられしゅるしゅると伸びてきたピンク色コードに手を縛られてしまう。コードはそのまま僕の腕をひとまとめにして頭上に押さえつけるように固定してしまい、僕はただ泣くしかできなくなってしまった。
「……それじゃ、俺も」
「ひっ!?」
「俺もきもちよくしてね、学人」
今度こそサイケさんの性器が入口に押し付けられる。けれどそこには当然まだ尻尾が入ったままで、そんな事気にも留めずにサイケさんは腰を進めた。
「あ、あ、ああああ、あ……!」
「っ、はあ……しっぽ、ふさふさしててきもちーね……」
「……っ、あ、うっ……」
うごくよ、と猫耳に息を吹きかけながら、サイケさんが僕の両足を肩に担いだ。腰をしっかりと抱えて、そのまま勢いよく奥まで突き上げる。
「っ、にゃあぁぁっ!」
その瞬間体を襲った凄まじい快楽に、僕の性器からびくんと精液が飛び散った。二度目の絶頂に息を整える事も忘れて、僕は今自分の口から無意識に飛び出した嬌声にを見開いた。
なんだ、今の声は。これでは、まるで、今のは、
「っ、ああ、さっき学人のデータ書き変えた時に言語データもちょっと弄っちゃった」
「、にゃ、に……?」
「せっかく猫になったんだから、にゃんにゃん言ってた方が猫らしいだろう?」
そんな、なんて理不尽だ。猫の耳に尻尾だけで僕はもう羞恥の許容量が限界を超えているというのに、それに加えてこんな、みっともない猫みたいな言葉で喘がなくてはいけないというのか。そんなの、酷い、無理。そんなの耐えられない、精神的に無理。
けれどもう僕にはそれを訴えるだけの余裕も残っていなければ、サイケさんは僕に文句を言わせる余裕も与えてはくれない。そのまま乱暴な動きで腰を揺すり始めたものだから、僕は耳をふさぎたくなるような言葉で啼かされる羽目となった。
「ひゃっ……ぁ、にゃぅっ!にや、あ、ぁぁっ、にゅぅ……!」
「、やっばいなあ、これ……クセになりそ」
「みゃあぁぁっ!」
突然繋がったままぐるりと体がうつ伏せに返されて、その衝撃で性器がごりごりと前立腺を抉る。尻尾も変な風にまきこまれてうねり、中の性感帯を容赦なく擦った。
「にゃっ!っもやらっ、らめっ、にゃ、ああんっ!」
バックからの態勢で動きやすくなったのだろう、それからのサイケさんは本当に容赦がなかった。腰を抱えて好き勝手中を穿って、尻尾と内壁を擦って、快楽の渦に僕を突き落とす。僕はもう気持ち良くて熱くて何が何だか分からなくて、自分の口から飛び出す猫語に羞恥を覚える事も出来なくなって、本当に、ただ啼いていた。
「あんっ、ああっ!んゃ、にゃぅっ!ひゃ、ああ、っ」
「、がく、きもち、いい……?」
「っ、あうっ……いい、れすっ……にゃ、ゃっ、きもち、いぃ……!」
「……おれも、きもちーや……」
「ふにゃぁっ!……あ、うっ、やっ!、あ、うっ、んあぁぁぁっ!」
そこからの記憶は、僕には無い。ただ、にゃあにゃあとまるで猫のように啼いていた自分の声だけがおぼろげならも残っている記憶だった。
「臨也くん!」
『ん?どうした、サイケ』
「あのね、猫の日楽しかったよ!臨也君の言ったとおり、がっくんすごく可愛かった!」
『……って、本気でやったのか、お前』
「? うん、もちろん?」
『…………』
「来年の猫の日も楽しみだなあ!」
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(08/21)