『なあサイケ』
「んー?なあに、臨也君」
『いや、最近お前機嫌いいからさあ。なんかあったのかと思って』
「えー?それはねー……やっぱ、ナイショ!」
『なんだそれ……もしかして、最近お前が大事にしてるフォルダに関係あるのかな?』
「えっへへ、ナイショ!」
ぴょこんと跳ねてデスクトップから飛び降りる。臨也君はさすがだなあ、観察眼が鋭い。でもこれは俺だけの秘密、だから誰にも教えない。もちろんマスターである臨也君にも。
秘密の方が、楽しいから。
(今頃、なにしてるのかなあ)
ぴょんぴょん駆けながらディレクトリを辿っていく。目指すのは奥の奥、普通なら目に入らないような場所に作ったフォルダ。管理権限は俺が握っているから、臨也君でも開ける事は出来ない厳重なロックのかかったフォルダ。ああでも、多分臨也君なら本気になれば開ける事は出来るんだろうな。臨也君はそういう技術と能力を持っている人だし。
けどきっと臨也君があそこを開ける事は無いだろう。臨也君はあのフォルダの中に何が入っているのかを、きっと知っているから。知っていて、黙認しているから。
『大事なものは、誰にも見つからない場所に閉じ込めておかないと』
そう言ってくれたのは、臨也君だ。だからそうした、誰にも見つからない場所に、俺だけの宝物をしまっておくんだ。
誰にも、とられないように。
辿りついた最下層。ロックのかかったフォルダは先にも言った通り俺にしか開けられない。外からはもちろん、中からだって、開けられない。俺の許可なしには開かれない場所。空間。
フォルダのロックを解除する。開いた入口から体を滑り込ませて、そしてまた自動でロックがかかった。中はただただ白い空間。白い壁と床と天井。その空間の奥に無造作に積み上げられているのは白いふかふかのクッション達だ。床にただ転がしておくのでは体が痛いだろうと思って、たくさん作ったクッションのデータ。
その中に埋もれている緑色。
(いた、)
近づいて、クッションの海に沈むようにして眠っている彼の体を満足気に見下ろす。白いクッションにも負けない白い肌。涙の跡が伝う頬。真っ赤に腫れた目元。肌よりも白い粘液で汚れた体。剥き出しの下肢。
「おはようがっくん、いい子にしてた?」
俺だけの宝物。俺だけの学人君。
ピンク色のコードで腕と足を縛られて逃げられなくなっている、可愛い可愛い俺だけの、学人君。
「さ、い、け……さ……」
額や目元にキスを落とすと、ゆるゆると碧眼が顔をのぞかせる。涙でうるんだきらきらのその瞳に堪らない愛おしさが募って、この子が俺だけのものなんだと思うと充足感で心が満たされていく。満面の笑みを浮かべながら開かれたままの唇にキスをすると、ひくんと彼の体が跳ねあがった。
「んっ、んん……」
鼻から抜けるような吐息が可愛い。赤い頬が可愛い。恥じらう様が可愛い。
ああもう、なんでこんなにがっくんは可愛いんだろう!
「っん、サイケさんっ、だめですぅ……」
「ふふ、やーだ、やーめない」
「ひゃぅ……あ、う……」
恥じらいながらも俺を拒絶しない学人君。いや、腕を縛られているから拒否したくてもできないのかも。どっちでもいいや、どのみち拒絶なんて許さないから。
学人君の胸を口に含みながらするすると太股をなぞる。ああ、ズボンは脱がせない方が良かったかも。履いたままイかせてやって恥ずかしがる顔も見たかったなあ。
「学人、腰上げて」
力が入らず弛緩したままの腰を抱えて、その下にクッションを詰め込む。足を大きく開かせて固定させるようにコードを巻き付けた。コードは俺の意思どおりに動いてくれるから、学人君を縛るのにはとても便利だ。本当なら縛って学人君の肌に傷を付けたりはしたくないんだけど、この方がやりやすいし学人君も暴れないし。
そういえば、最初にこのフォルダに学人君を閉じ込めた時は抵抗も酷かったなあ。でもがっくんは優しいから、最終的には俺の事を許してくれた。だって、俺と学人君は愛し合ってるから。だから、学人君は俺を受け入れてくれる。何をしても、どんな俺でも、俺を受け入れてくれる学人君。そんな学人君だから、俺は大好きなんだ。
「ん……ふあ、あっ!だめ、ですっ……さいけさん……!」
腰を高く上げさせて顔を下肢に近づけた。べろりと性器に舌を這わせた後、そのまま後ろの方へ滑らせていく。いつも俺を受け入れてくれるその入り口を丹念に舐め上げて舌を押し込むと、ぶるりと学人君の腰が震えて、涙で濡れた悲鳴が飛び出した。
「あふっ……ふあ、あ、だめ、ああっ……う、ぅっ……」
「がくと、ひもちいい?」
「ひゃんっ!ぁ……しゃべら、なっ、で……!」
ぐにぐにと舌で内壁を擦りながら、唾液をたっぷり送り込む。異物の侵入にそこは無意識にだろう、俺の舌をぎゅうっと締め付けてくるけれど、そんな反応も誘っているようにしか思えない。ひくひく震える中へ無理矢理舌を押し込んで、前立腺を見つけたらそこをひたすら舐めしゃぶった。
「はぅっ!ひゃ、ああっ、ゃぁ!だめ、です、あ、ああっ」
耐えられない、という風に学人が泣き喚くものだから、さすがに可哀想になってそこから舌を抜いた。唾液を拭いながら学人の顔をのぞきこめば、酷く苦しそうに喘いでいる。
「ご、ごめんねがっくん?苦しかった?大丈夫?」
慌ててその額の汗を拭ってやると、学人君はすごく苦しそうに息を吐きながら、涙でおぼれた瞳を俺に向けてきた。
「……、きもちよ、くて……へん、に、なりそう、です……」
はあはあと息のままならないがっくんはそう言って、またぼろぼろと泣いた。
忘れてた、この子は快楽にめっぽう弱いんだった。休みなく膨大な快楽を与えると、それを理性が処理しきれなくなってすぐに泣きだしてしまう。過ぎる快感にこわいと言って赤ん坊のように泣いてしまうのだ。
その姿もとても可愛いから、めちゃくちゃにしてやりたいと思わなくもないけれど、俺はがっくんの事が大好きだから。だから、あまり学人君を泣かせるような事はしたくない。気持ち良くて流す涙なら別だけど、セックスが怖くて流す涙は見たくないから、だから。
「ごめんね、学人。今度はゆっくりやるから……ね?」
「ん……サイケ、さんっ……」
頬を寄せればすりすりと擦り寄ってきて、ああやっぱり学人君は可愛い。優しくしたい思うけれど、逆にめちゃくちゃにしたいとも思う。愛しすぎて相手を壊したくなる時がある、って臨也君がいつか言っていたけれど、それってこういう気持ちの事なのかもしれない。
(でも学人を壊すのは、やだなあ)
だから壊さない程度に、愛してあげるのだ。大事に大事にしまって、閉じ込めて。そうして俺だけが愛でていく、俺の宝物。
俺だけの、学人君。
「学人、臨也君に呼ばれちゃったからちょっと行ってくるね。いい子にしてるんだよ?」
今日も彼を閉じ込めて、鍵をかけた。俺だけしか開けられないように、逃げられないように、奪われないように。
(そうだ、今度学人を一人にする時は、寂しくないように玩具でも使ってあげようかな。学人もその方がきっと楽しいだろうし。そうと決まれば早速、データを作ってあげないと)
『ねえサイケ、あのフォルダ、何をいれてるの?』
臨也君は俺にそう尋ねてきた。だから、俺は満面の笑みで、言ったんだ。
「もちろん、俺の宝物だよ!」
答えると、臨也君は何もかもを見透かしたように、嗤った。
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(08/21)