「ほら、学こっち!」
「わ、まって、サイケさんっ」

腕を引かれながら道を走る。サイケさんは何を急いでいるのか、実に楽しそうな笑顔のまま僕を引っ張った。

遡ること数十分前、データ整理の最中に突然サイケさんが「いいもの見せてあげるから来て!」と半ば無理矢理僕を連れ出したのだ。いいものとは何なのか、尋ねても「ついてからのお楽しみ」と可愛らしい顔で微笑まれるだけで教えてはもらえず、けれどサイケさんに腕を引かれるままに走るこの道には見覚えがあった。
忘れるはずもない、少し前までは毎日のように通った道なのだから。今でも僕のログにはきちんと残されているデータ経路。

(もしかして……)

「ほら、着いたよがっくん!」

僕の推測の通り、そこは僕とサイケさんが一緒に過ごしたあの白い空間だった。ただ、以前までは白いだけで何も存在しなかった箱の中の様な空間は、驚くほどに様変わりしている。

「うわ……」

机やテレビ、本棚や大きすぎるベッド、隅の方にはシステムキッチンと冷蔵庫まで置いてある。通り口も玄関の様なちゃんとした扉になっていて、空間の中には窓までついていた。全てが白で統一されているのは変わらないけれど、そこはもはやただの空間と言うよりは"部屋"と言った方が適切だ。
まるで人が住んでいるかのような、人間じみた生活感にあふれた部屋。何もなかったはずの空間が別世界のように感じられて、僕は目を輝かせながら室内を見渡した。

「気に入ってくれた?」
「はい、すごいです!でもこれ、どうしたんですか?」

隣に立つサイケさんを見上げると、彼は心底嬉しそうな笑顔でえへへと笑って見せた。

「帝人君のパソも居心地はいいけどさ、やっぱりがっくんと二人きりの場所が欲しくって。新居?ってやつ作ってみたんだ!がっくんと俺だけのマイホーム!」

誰にも邪魔されない、誰も知らない、俺と学人だけの家だよ。

サイケさんはそう言って僕の体をぎゅうと抱きしめた。僕は恥ずかしくてでも嬉しくて、サイケさんの真っ白なコートに縋りつく。サイケさんは嬉しそうに笑って、僕もつられて笑った。

「ありがとうございます、サイケさん……僕、すごく嬉しいです」
「うん。学が嬉しいなら、俺も嬉しい」

そうしてどちらともなくキスをした。好きな人と交わすこの行為がとても幸せで気持ちの良いものだと知ったのは、最近だ。

「時々二人でここに来ようね」
「そうですね、帝人君達が心配するから、頻繁には無理でしょうけど……」
「えー、大丈夫だよ。オートでパソは動くんだし、学はただでさえ働きすぎなんだから。少しは休まないと」
「でも……」
「それにさ、」

サイケさんの唇が、不意に耳元にかかる。

「クリーンアップも小まめにしてあげないと、ね」

その囁きが甘い響きを持っていて、僕の顔は瞬時に赤くなった。

「さ、いけさんっ!」
「ははっ、がっくん顔まっかー」

笑いながら、サイケさんは僕をひょいと抱き上げてそのままぼすんとベッドに倒れ込んだ。やけに広いベッドは僕ら二人が寝転がっても十分すぎる広さで、しかもふかふかのもふもふだ。まるでサイケさんのコートのもふもふのよう。

「ね、少しお昼寝しよう……ずっとこれ作ってたからさ、疲れちゃった」
「……そうですね。ゆっくり休んで下さい、サイケさん」
「うん……がく、お休み……」

少しもしない内に聞こえてくるサイケさんの寝息。シーツと同じくふわふわでもこもことした触感の毛布を手繰り寄せて、それを彼の体にかけてあげた。
そして頬に口付けを一つ。

「お休みなさい、サイケさん」




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