金平糖を両手一杯に
「こんにちは、銀朱さま」
「こんにちは、名前」
坂守神社に仕える巫女といっても私は銀朱さまお付きの巫女ではないので、接点は廊下ですれ違うときなど極僅かしかない。
名前を覚えていらっしゃるのはとても嬉しいが、どうも最近銀朱さまの元気がない。
「あの!鶴梅さま…」
「ん?なんだ?」
「最近、銀朱さまの元気が無いように見えるのですが…」
「そうか?…そういえば最近、姫様は寝る間も惜しんで仕事をしているようだな…」
「そう…ですか…」
通りかかった鶴梅さまに聞いてみたもの、鶴梅さまから見たら銀朱さまは普通通りらしく、ただ仕事がお忙しいから少し疲れているんじゃないか、ということだ。
「鶴梅、どうしたのです?」
遠くから銀朱さまの声。
「姫さま、今行きます。それじゃ、もう行くぞ」
「お引き止めしてすいませんでした」
鶴梅さまは私を一瞥して銀朱さまのもとへ行かれた。
銀朱さまのお側で仕えたい、そう思う巫女は沢山いる。
例外でなく私もその一人だ。
しかし、私は此処に来てからまだ日が浅い。
だから、仕えることなど到底無料なのだ。
それに、有能な鶴梅さまがいるのだ。
私が銀朱さまの為に出来ることなどない。
それでも、元気のない銀朱さまのお力になりたい。
「銀朱さま、名前です」
銀朱さまのお部屋の前で言う。
今は夜遅くなので、大きな声は出せない。
あと、他の巫女たち、特に鶴梅さまに見つかってはいけない。
深夜徘徊は規律として駄目なのだ。
「どうぞ、入りなさい」
「夜分遅くにすいません。失礼します」
仕事が一段落ついたのか、茶をすすっている銀朱さま。
机には沢山の巻物。
「あの、お仕事中でしたか…?」
「いえ、一段落ついたので休憩していたところですよ。ところでどうしたのです?貴方が此処に来るなんて珍しい」
「…最近、銀朱さま、元気がないようでしたので…」
「……ばれてましたか。鶴梅にも真朱にもばれてはいなかったのに」
苦笑する銀朱さま。
やっぱりお疲れなんですね。
「それでですね、金平糖を持って来たんです」
袖から袋を出して銀朱さまを見ると、何故金平糖と言わんばかりに不思議そうにこちらを見ていた。
「金平糖、ですか?」
「はい、甘いものは疲れたときに良いんですよ。銀朱さまがお疲れのようだったんので持って来たのです。…手を出してもらってもいいでしょうか」
差し出された銀朱さまの手の中に袋からさらさらと色とりどりの金平糖を転がせる。
「…綺麗、ですね」
「一粒食べてみてください。疲れが吹き飛びますよ」
「ふふ、ありがとうございます」
この無邪気な銀朱さまの笑顔が大好きだ。
この笑顔を見られて本当に良かった。
「美味しいですね。疲れたときに甘いものが良いというのはあっていますよ。疲れが吹き飛んだみたいです。…それに」
幸せもおすそ分けしてもらったみたいです
金平糖を両手一杯に
両手一杯の幸せを貴方に
(20090803)