すべてはこの世界のせい


「…ナ……ツ…ツナ!」大好きな名前の声さえも届かないほど考えこんでいた。いや、違うな。何も考えられないほど、頭の中がまっしろになっていた。「どうしたの?」俺の顔を覗き込んで心配そうに問う名前に俺は大丈夫だよ、と力なく作り笑いで返した。でしょ。だって、顔色悪いし、声だって震えてるし…」そう言う名前の表情は俯いていてわからなかった。それに、と続けられた言葉に俺は申し訳なさを感じられずにはいられなかった。「任務から帰って来てからずっと、暗い顔をしてるから…」

そう三日前、俺は任務に出ていた。ザーザーと雨の降る夜だった。人を殺すことに抵抗のある俺は話し合いで解決をはかろうとした。…この考えが甘かったのだ。話し合いの途中でそこのボスの男に逃げられてしまったのだ。追いかけようとしたが、どこからか手下がやって来て囲まれてしまった。ざっと見て300人くらいか…。このくらいだったら大丈夫だとたかを括るっていた。俺の予想以上に手下達は強く、殺さないように手加減をして全員を倒しきるのに10分もかけてしまった。くそっと舌打ちをし、だだっ広い屋敷の中を走りまわり、1つの大きな扉の前で立ち止まった。俺の超直感がこの中に男が居ると告げている。バンッと勢いよく扉を開けると暗い部屋の中には、ちいさなこどもを腕に抱えた男がいた。こどもはおとうさん こわいよ と泣きじゃくっていた。「お前らの言いなりになるくらいなら死んでやる」男の後ろで稲光。こどもの頭へと銃を持ってい引き金を引く。スローモーションに動く男の手。俺は金縛りにかかったように動けなかった。鈍い音がして、男に抱えられたこどもが床に落ちていく。男は涙を流しながら笑っていた。我が子を撃った銃を震える手で持ち、自らのこめかみに宛がい、一言呟く。鈍い音とともに男は床に倒れ込み息絶えた。「Arrivederci」俺は復唱したのか男に返したのかわからないが、無意識に言っていた。遠くで隼人の声が聞こえた気がしたが、俺の意識はそこで途切れた。次に目を覚ましたときにはもう車の中だった。



「そう…だったんだ…」名前がか細く呟く。「俺が…俺が殺したも同然なんだ…!あの男も…罪のないあのこどもも…!」ふわり、名前の香りが舞う。それと同時に感じる心地よい体温。名前が俺に抱き着いたのだ。名前は俺の胸板に顔を押し付け呟いた。








(そして、俺は汚れた手で君を抱きしめる)




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