不器用と不器用


 好きなヤツが自分のことを好きになってくれないということが、これほどまでに腹立たしいことだなんて。

 入学式の日に同じクラスの苗字に一目惚れし、運よく席も近くて決意を固めた俺は、たくさん話しかけて仲良くなって、あいつは試合も見に来てくれるようになって、毎日他愛ない話で笑い合って。オレは他のどの男より苗字と仲良くなったという自信があった。
 しかし、それが災いしてあいつの心の変化なんか、すぐ気づいてしまったわけで。

「なあ、苗字ってあいつのこと好きなの?」
 思わず口を出た言葉。
 言わなければよかったと、すぐに後悔するほどに。
「……うん。」
 苗字は今までに見たことないくらいかわいい顔をして頷いた。

 しかし、それも片思い。
 隣のクラスのあいつは苗字とたいして仲良くもなかったし、はっきり言って話が合うタイプではないと思う。オレのほうがいいだろ、って何度も何度も悪態をついた(声には出さなかったけれど)。
 そんなこんなで、オレの片思いはまだ報われそうもないし、苗字の片思いだってまだ終わりそうにないまま何か月もの月日が経ってしまった。


「あ、泉。」
「よっ。苗字も今帰り?」
 オレたち野球部は普段練習で帰りが遅が、週に一度ミーティングだけの日がある。さらに今日は珍しく寄り道もせずに帰った結果、偶然ばったりと校門を出たところで苗字と会った。……次から寄り道やめようかな。
「今日早いんだね。」
「まあな。そっちはすぐ帰ったにしては遅くね?」
「グラウンドでちょっとだけ、練習見ていたの。」
 ああ、あいつサッカー部だっけ。終業後すぐに教室からいなくなったと思ったら、グラウンドであいつのこと見てたってわけね。無性にイライラする。熱っぽい表情であいつのことを見つめていたのだろうか。
「なあ、なんであいつなんだよ。」
 耐え切れず、言葉が溢れた。
「わかんないよ。」
「そんなに仲良いわけでもないし、話合うタイプでもなさそうだし。」
「知ってる。」
「しかもあいつ彼女いるし。」
「……知ってる。」
 
 ああ、オレはいったい何がしたいんだろう。
 こんなこと言ったって、こいつは傷つくだけなのに。
 でも、早くこんな不毛な想いを捨ててオレのこと好きになればいいと思う。そしたらこんな回りくどいことしなくたって、すぐに両想いになれるのに。

「いつまで片思い続けるつもりなんだよ。」

 あ、しまった。
 そう思ったときにはもう手遅れで、苗字の瞳から雫が一粒零れ落ちた。

「なんでそんなこと言うの。そんな簡単に、好きな気持ちなんて捨てられるわけないでしょ!泉のバカ!!」

 苗字は叫ぶようにそう言って、走って去ってしまった。
 オレは追いかけることもできずにその背中を見ていただけだった。

 さっきの言葉は、オレ自身にもキツイ言葉だったな。
 それでも、俺がこんなふうに苗字に対して苦しくなるのと同じように、苗字もオレではない誰かに胸を痛めているのだろうか。そう思うとやっぱり腹立たしくて仕方なかった。




(130420)



モ ドル



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