星に願いを

 一週間に一度だけ会える、あの人。
 笑っていたり、眠そうにしていたり、そんな横顔を見られるのが嬉しくて嬉しくて。


「名前、早く行こ!」
「待って、すぐ行くから。」
 買ったばかりのリップクリームを唇に塗る。苺の香りの可愛いリップ。ほんの少しだけでも、可愛くなりたいと思う。

 週に一度の芸術の時間。
 美術か音楽か書道のどれかを選ばないといけなくて、絵も字も下手くそな私は音楽を鰓んだ。隣のクラスと合同で行われるその授業で、私は彼の斜め後ろの席に座る。

「あー眠い。」
 あくびをしながら彼は席についた。
「水谷、でけえあくびしてんな。」
「朝練すげー早いんだよ。だめだ、絶対五分で寝る。」
 今日の彼は眠たげだ。目をこすりながら大きなあくびをしている。

 先生が来て授業が始まり、先生が作曲家の話を始めた。今日は先生の大好きなショパンです、彼はピアノの詩人とも呼ばれるように、とそんなふうに先生のソプラノの高くて綺麗な声が音楽室に響く。ちらりと目をやると、水谷くんはあくびを手で隠していた。

 優しげなショパンのノクターンの調。彼はこくりこくりと居眠りの最中。
 音楽の授業で一緒になった水谷くん。友達の多い彼はいつも周りの席の子たちと楽しそうにおしゃべりをしている。へらへらと笑いながら冗談を言ったり、授業中はうとうとしていたり。
 引っ込み思案な私は、そんな彼に憧れていた。いいなぁ、私もこんなふうにみんなと打ち解けられたらなぁと、そんなふうに思いながら目で追っていた。そんなうちに、笑ったときの目とか、意外と気が利くところとか、眠たげな横顔とか、そんな水谷くんのひとつひとつがきらきらと眩しくて、恋しくて、ああ好きになっちゃったんだな、と。


「みなさん、眠気覚ましに一曲歌いましょうか。」
 先生の声で水谷くんや、居眠りしていた何人かがはっと目を覚ました。
「そうね、これがいいかしら。教科書の20ページを開いてください。これならみんな知っているでしょう。」

 そういって、先生が選んだ曲。
 そういえば今日は七夕ね、ぴったりだわ。なんて先生が言って、今日が七月七日だと気づいた。

 あいにくの曇り空だけど、彦星と織姫は無事に会えたかしら。
 一年に一度しか会えない彼らに比べたら、一週間に一度会える私は幸せものだ。

 
 歌い終わるくらいに、ちょうどチャイムが鳴った。
 ざわつく音楽室、突然斜め前の背中がくるりと振り返った。

「苗字さんって、綺麗な声してるんだね。」

 それは聞き間違いではなくて。

「ごめん、変なこと言った! 忘れていいから!」

 そういって、水谷くんは足早に行ってしまった。
 ばくばくと心臓がうるさく鳴り続けて、私は動けずにぼんやりと彼がいたところを見つめていた。







モ ドル



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