01.幸せの青い鳥
確かに恋だった
『青い鳥』って知ってる?
そう、幸せは結局身近なところにあるってやつ。
「阿部くんと苗字さんって、付き合ってるの?」
隣のクラスの、話したこともない女子に突然投げかけられたその質問は、今まで何度もいろんな人に聞かれたことのあるものだった。
ううん、と首を振る。でも仲良いよね、一緒に帰ってるところ見たことあるよ、なんてその女の子は次から次へと言葉をつづけた。家が近くて、幼馴染なの、その答えを聞いて納得したのかしてないのか、ふうんとその子は返したあと、声を潜めて
「じゃあアドレス教えてくれない?」
なんて言ってきた。
「ごめん、勝手に教えたりするの、嫌だって言われてるの。」
それは本当に隆也に言われた言葉だ。それなのにその女の子は不服そうな顔をしながら、
「いいよね、幼馴染って。」
なんて捨て台詞を残して言ってしまった。
自分で聞けばいいじゃない。
そんなふうに心の中で言い返しながらため息をついた。
隆也のことなんか、好きになったって。
「おい。」
「あっ、隆也。」
肩をぐいと掴まれて、振り返れば不機嫌そうな隆也がいて。
「何か用?」
「そ、用事。お母さんがおばさんに渡しといてって。PTAで話したやつって言えばわかるからって。」
「ごめん、探してくれたの?」
さっきの話、聞かれてないよね。そんなふうに思って冷や汗が出た。
「別に。」
そう言って隆也は教室のほうへと歩いていった。横に並ぶのは気がひけて、少し遅れて私も歩きだす。三歩先を歩く、隆也の背中。いつのまにかたくましくなって、男の子の背中になっている。
物心つく前から一緒に遊んでて、兄と隆也が同じ少年野球だったからってのもあり家族ぐるみの付き合いで、まるで絵に描いたような幼馴染の私たち。
幼馴染と言えば、私を甲子園に連れてってなんて言いながらいつの間にか芽生えていた恋心に気付いてしまう、そんな有名な漫画があるけれど、私たちはそうはいかなかった。
恋心が芽生えてしまったのは、片方だけ。
「あのさ。」
数歩前を歩いていた隆也が突然振り返る。
「ああいうこと言われたら、はっきりと言っていいから。」
その顔は大人びていて、見たことのないような顔だった。
「俺、部活で忙しいから知らない奴とメールする暇なんかない。」
はっきりと言うその言葉が、なぜだか自分の胸にぐさりと刺さる。
やっぱり、聞こえてたんだ。
幼馴染どうこうについて言われたところも、聞いてたんだよね。
気づいたら、私は隆也のことが好きだった。
でも、隆也はどうやらそうじゃないらしい。
幸せの青い鳥が身近なところにいたように、少し前の私はこの恋心がお互いに芽生えるものだと信じて疑わなかった。
いつからだろう。
隆也が名前って下の名前で呼んでくれなくなったのは。
やっぱり、あの時からかな。
モ ドル