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1

俺が好きで好きでたまらなかったもの。


その1、イケメンの代名詞と言っても過言ではない切れ長の瞳。
その2、淡々とさまざまな言葉を紡ぐ唇。
その3、俺の肩に触れるまるでハンドモデルのような綺麗な長い指。

「カナ」

その4、低く柔和なトーンで、もう何度呼ばれたかも分からない俺の名を刻む声。


そして、


「俺達、結婚しようと思います」


その5、幸せそうなーーー笑顔。



でも、もう好きじゃない。
好きなままではいけない。

嫌いには、なれないかも知れないけど。


もう好きじゃないよ。

だから、幸せになれ。



『 初 恋 の キ ミ は 義 理 の 兄 。 』



そんな感動必須のベタな恋愛ドラマのような経験をしたのがつい数ヶ月前の話。あれよ、あれよと言う間に話は進み、なんの運命の悪戯か初恋の男は俺の義兄となった。

事の発端は約半年前。
話題は俺の1つ上の姉、菜緒( なお )から始まる。

姉のスッピンは俺にそっくりだ。でも女は化粧でかなり変われるだろ?元々どこにでもいそうな可もなく不可もなくな顔付きの俺らだったから化粧を覚えた姉は化けた。それはもう上の中ぐらいだ。上の中。リアルだろ。

かと言って俺が化粧したら同じように綺麗になれるかと言ったらそうではない。一度酔っ払った姉に羽交い締めにされて化粧を施されたが、あれは酷かった。いくら顔が似てるとは言っても男と女じゃ骨格や肉のつき方が全然違って、ただ男が化粧しましたというだけで我ながら本当に気持ち悪かった。

それはまあ置いといて、綺麗になってからの姉は今までが嘘のようにモテた。それなのに誰一人として付き合わず、キモいウザいダルイの三拍子揃った愚痴を俺にぶつけて来るんだから意味がわからない。
多分理想が高いんだろうな、なんて思ってたけどそうは言っても姉は30手前。俺は別に何歳で結婚しようと本人の勝手だと思うが、親からしたらそうでは無かったらしい。
姉が29歳になった頃から、父親がしげしげと見合い写真を持ってくるようになった。

この人なんてどうだ、あっ、こっちの人は大企業に勤めてて将来も安泰で…そうそう!あっちのは公務員だぞ!みんなそろそろ身を固めたいと言っててな…


最初は適当に流していた姉だったが机の上に積まれていく見合い写真の多さに、ある日ついに姉のイライラが爆発した。


「お父さん!いい加減にして!あたし、付き合ってる人、いるから!」


それに対して父を筆頭に母、俺と同時に「ええええええ!?」と大絶叫。
続くように父が「嘘付け!そんなみえみえの嘘付いて恥ずかしくないのか!お前今いくつだ!本当に居るなら今度連れてこい!」と叫んだ。

「いいわ!分かったわよ!明日…は無理だから、明後日!土曜日、お父さん休みよね!?連れてくるからもう二度と結婚結婚て言わないでよね!!」

後半若干ヒステリー気味に叫んだ姉はバァンと派手な音を立ててリビングから出て行った。



そして、2日後に姉が連れてきたのはまさかの俺の友達兼、初恋の相手である凌( りょう )だった。

凌は高校時代からの友人で社会人になってからも仲良くしていたので、よく家にも遊びに来ていて、よく知った顔に両親はたいそう喜んだ。
そりゃそうだ。素性も知らぬ男より、自分の息子とも関係の長い友達なら誰よりも信用できる。

多分複雑だったのは俺だけだったんじゃないだろうか。


高校で初めて出会って、初めて恋というものを知り、相手が同性である事に悩み、時には涙し苦しんだ思春期を経て何とか友人というポストに収まる精神力を備え付けたと思ったのに。

ーーー初恋の相手が姉の恋人って、神様性格悪過ぎじゃない?

それに、凌と姉が付き合ってるなんて全然気付かなかった。どうして言ってくれなかったんだろう…

なんて打ちひしがれていた俺にその後さらなる悲劇が待っていた。
凌が両親に向かって俺の好きな切れ長の目を向けキリッとし、姿勢を正す。


「俺達、結婚しようと思います。お嬢さんを僕にください」


そして、机すれすれまで頭を倒した。
その横で姉は凌の肩を叩いてもういいわよ、と頭を上げさせる。そして、ポカーンとしている父親に向かって、盛大に性格の悪そうなドヤ顔を向け、

「というわけだから、お父さん。あたし結婚するわ」

と笑みを浮かべた。



「うわ〜、広いな。よくこんなデカイの建てたもんだよ。何年ローン?」

「10年かな」

「え!?みじか!そんなんで、家建てれるのか…」

「まあ、俺達結婚式も挙げてないし、お互い貯金だけはすごいしてたから頭金にかなり入れたんだ。でも10年も掛けるつもりないけどね」

「…姉ちゃんもお前もいいとこ勤めてるもんな。俺とは大違いだ」

「何言ってるんだ。カナだって仕事、頑張ってるじゃないか」

「そりゃそうだけど…俺とお前らじゃ稼ぎが違いすぎるってーの!」

買ったばかりだろうソファーの背もたれにヤケになったように腕を伸ばす。そんな俺に苦笑を浮かべながら凌が近寄って来て「ん」と白ワインの入ったグラスを手渡してきた。

「お、ありがと。…てかさ、折角結婚したのに、式も新婚旅行も行かないなんて、姉ちゃんらしいっちゃらしいけど、凌はそれでいいのか?しかも今日は姉ちゃんだけ友達と旅行行ってるって言うし…」

姉ちゃんに無理矢理捩じ伏せられたんじゃない?なんて不安と心配を口にすれば、アハハと笑いながら凌が俺の横に腰を下ろす。

「俺も菜緒さんと同じ考えだよ。結婚してもお互い今まで通り友達とは過ごそうって決めてるんだ。それに今後に金がいるんだし、余計なことに使えないよ」

「あ…そうだよな。…子供とか、出来たら、いるもんな」


未だ俺の好きな人の口から姉の名前が飛び出す事に慣れない。結婚したんだから、さん付けやめたらいいのに、と思うけどそれを言うと凌の口から「菜緒」と出るのかと思うと…言えない俺は意気地なしだ。
それに割り切ったつもりだったのに、子供なんて。子作りをする2人を想像してしまいグイッと手元にあったワインを飲み干す。

「カナ?お前弱いんだから、そんな飲むと…」

「っ、…姉ちゃんだって今頃友達といいもん食ってたらふく飲んでんだ。俺達も飲もうぜ!」

「…じゃあカナが持ってきてくれたワイン全部開けちゃう?」

「いいねー!あ、もちろん新築で吐くなんてことはしないから大丈夫!」

「別にいいよ。あ、でも吐くならトイレでよろしく」

そう行って笑う凌。ああ、ほんとイケメン。初恋が一目惚れっていうほど凌は俺の好みドストライクの顔だった。人生で惚れたのは凌しか居ないから、果たして自分がゲイなのかどうかは分からないが、好き過ぎて目の前の凌の顔がぐらりと揺らぐ。

俺の好きという気持ちが溢れないか心配するほどのグラつきだ。


あれ、

なんか凌以外の部分も渦を巻いている気がする。

これ、そんな強いお酒だったかな。

ダメだ、意識が遠のく。せっかく凌と2人で過ごす時間だったのに、勿体無い。今日を境に当分は凌には会わないようにしようと決めていたのに。

ーーー凌を好きでいるのは今日で終わりにしようと思っていたのに。


ああ、勿体無い。

勿体無いな…



「…カナ、可愛い俺の奏多。やっとこの日が来たよ。もう我慢しなくていいんだよね…?」


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