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3

せっかく出してくれたお茶を口に含みながら、俺は狩吉さんの隣でそれはもうガチガチに緊張していた。あまりにも近い距離は緊張の糸をさらに張り詰めさせる。

しかも狩吉さんもすぐには喋り出さず、室内は静かだ。

なんの苦行だろう、これは。


「ねえ」


そんな中、最初に口を開いたのはもちろん狩吉さんで、急いで顔を向けると目が合った。ここには俺と狩吉さんしか居ないので目が合うのは当たり前だが、いろんな意味でドキリとしてしまう。

「さっき一緒に居たヤツ、だれ?」

「…さ、さっき…?」

「教室で喋ってたヤツ」

「…………あっ。あいつは、友、達です」

叶のことか。何故そんなことを聞くのかと思いつつも素直に答えた。別に隠すこともない。


「好きなの?そいつのこと」

「好…?…そ、そりゃあ、友達だし…あの、嫌いじゃないです」

「俺よりも?」


「…え…!?」

サラリと聞こえた台詞。
ギャルゲでよく見るような女の子が嫉妬して、頬を染めながら気丈に振る舞うアレだ。

あたしよりも、その子のことが好きなのっ?

しかし俺の現実では、目の前にいるのは男で頬を染めるどころか無表情だ。萌えよりも恐怖を感じる。


そもそも狩吉さんを好きかどうかなんて俺には分からない。今まで恐怖の対象だったわけだし、接点も何も無かった。

やっぱり怖いと思うし苦手な部類の人間だ。

しかし、怖くて苦手だからと言って嫌いか、と言われると握り締めたコップを思い出して…嫌いな訳ではないとも思う。


「……その…ま、まだ、狩吉さんのこと、よく知らないから…分からない…です」


だから思ったことをだいぶ勇気を振り絞って言った。
もちろん狩吉さんの前で嘘をつく勇気がないというのもあるし、仮に嫌いだとしても嫌いだなんて口が裂けても言えないというのが本音でもある。


「じゃあ、これから俺のこといっぱい知って」


舐めたこと言ってんじゃねえ、なんて返答される可能性もあったが、狩吉さんからはそんな答えが返ってきた。


「いくらでも教えてやるから、いっぱい知って俺のこと好きになってよ。そんで、安成の一番を俺にして」


ジッと見据えてくる瞳はとても真剣なものに見えた。肉食獣みたいな瞳の力強さと、鋭さに俺は呑まれそうになってしまう。
こんな瞳で、こんな表情で見つめられたら、例えどんなことでも頷いてしまうかも知れない。

狩吉さんが俺の頬に手を添える。


「昨日の、ちょっと軽く見えたかも知んないけど、俺かなりマジだから。覚悟しといて」


そう言って少し意地悪そうに笑う狩吉さんは何だか年相応に見えて、しかもそんな笑い方もできるだと新たな発見に戸惑う。

まだ俺は狩吉さんに関して怖い部分しか知らない。

だけど、少しだけ。
ほんの少しだけ彼の笑顔は好きかもしれない、なんて思ってる自分がいたりするんだ。


「………」

いやちょっと待て落ち着け落ち着くんだ安成…!!俺は夢見る乙女か。いつの間に少女漫画の主人公になったんだ。
俺みたいなどこにでもいるビビリなんて良くてモブだろ。漫画に登場できただけでも奇跡なモブキャラだ…!調子に乗るな俺えええええええええ

己の恥ずかし過ぎるポエミーな思考に顔が真っ赤になっていく。まるであたかも狩吉さんのセリフに顔を赤らめたように見えるが断じて違う。

「?、安成どうしたの?」

「ふへっ…や、なんでもないれす…!」

狩吉さんが顔を覗き込んでくるが、今は勘弁してほしい。顔を背けようとしたが、頬に添えられていた手がそのまま後ろ頭の方にスルリと伸びて引き寄せられた。髪の間に侵入してくる指が擽ったい。


「…ねえ、チューしたい。していい?」

「いっ…え、いや…ん」

それ聞く意味あった?と思うくらい間髪入れず狩吉さんの顔が近付いてきて唇が重ねられた。

これで何回目だろう。3回目…?まだ付き合って1日しか経ってないのに…手が早い…気がする。

なんて思っていたら狩吉さんの方からぬるっとした感触のものが伸びてきて今日一の驚きにバッと顔を離してしまった。


「ふぁっ……!?え?え?」


今の何!?

戸惑いを隠せない俺に、狩吉さんも驚いた顔をしている。

「え、なに?ベロチューだめ?」

「ベロ、ちゅ……ぅ!?」

あれが噂に聞くベロチューですか!?ディープなアレですか!?漫画でしか見たことないよ俺!!

「そんっ…、あ、俺初めてで…」

「初めて?誰かと付き合ったことないってこと?」

なけなしのプライドを削る質問に頷きたくないがゆっくり頷くと、狩吉さんはそれはもう花が咲くようにふわあと華やかに笑った。
叶に暴露した時なんか大口を開けて爆笑されたというのに、なんだこの笑顔の違いは…

思わず見惚れてしまった俺に、狩吉さんは笑顔のまま再び顔を近づけて来る。


「安成の初めて、全部俺にできるんだ」


「は…」

「お前が知らないこと一から教えてあげる。…口開けて」


「……はひ」


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