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狩吉さんと歩いていると様々な視線に出くわす。

「狩吉春だ…!……あの連れられてるやつ下僕とかかな。…可哀想に…」

という両手を合わせて南無とでも言わんばかりの同情の目や、

「あれ狩吉さんじゃね!?そういや、この前、北高の奴らとの喧嘩見たか?…そうそう狩吉さんの1人勝ち!マァジあの人カッケーよなあ!!!」

という俺の嫌いな不良達の明らかに狩吉信者の憧れの眼差し。さらには、

「あ〜!春さんだ!また遊んでくれないかなぁ…」

なんていう狩吉さんに好意を抱いている派手ギャル達の熱い視線だ。彼女達は怖いもの知らずなんだろうか。それとも狩吉さんは女の子には優しいとか?俺はやばい噂しか聞いたことないけど…

ちなみに狩吉信者とギャル達には睨まれた。すごい理不尽だと思う。


そんな理不尽な視線を受けた俺は今、教室を出た時と変わらない手を繋いだまま狩吉さんに連れられて歩いていた。
行き先なんて怖くて聞けないが、お願いだから不良の溜まり場のような所にだけは連れて行かないで欲しいと願うばかり。

俺より背の高い狩吉さんの後ろ頭をチラリと見上げる。根元までしっかりと染め上げられた金髪は本当にサマになっていて、きっと俺なんかが同じ色にしたら似合わなくていい笑い者にされるんだろうな、なんて思ってしまう。叶にいたっては数ヶ月はネタにしてくるのが目に見えている。

もちろん金髪なんてそんな目立つこと俺は一生しないけど。

俺は生まれた時からこの黒髪で、きっと死ぬまでずっと黒髪だ。……まあ高齢になったときの白髪は別として。


そんなことをボンヤリと考えているといつの間にか狩吉さんは目的の場所に着いたのか、俺の手を離…してはくれなかったが、こちらを振り向いた。

「着いた」

狩吉さんがふわと笑う。表情の硬い俺を安心させてくれようとしてるのか柔らかな笑みに顔を上げると、目の前にはなかなかの高さのマンションがあった。

「こ、ここは…?」

嫌な予感がするぞ。


「俺のウチ。行こ」


狩吉さんのお家いいいいいい!!?

待って!無理!いきなり狩吉さん家へのお宅訪問は俺にはレベル高すぎる!昨日知り合ったばっかですよ!?…まあ俺は入学したときから知ってはおりましたが…っじゃなくて!嘘…!?誰か嘘だと言ってええええ

脳内が大混乱の俺を気にせず狩吉さんは引きずるようにズルズルと手を引いてマンションの中に入っていった。



自宅であろう部屋の前に立つとようやく狩吉さんは俺の手を離して制服のズボンから銀色の鍵を取り出しドアを開ける。
この隙をついて逃げようかと一瞬だけ脳裏をよぎったがその後が恐ろしすぎるし、逃げ切れる自信もなくその考えはすぐに消えてしまった。

ガチャリと開いたドアに、狩吉さんが部屋に入って行く。ドアの前で固まる俺に狩吉さんが再び手を掴んで引き入れた。

「何してんの?おいで」

「うっ…はい。お、お邪魔します」

狩吉さんのお家か…。家の人は居るんだろうか。兄弟とか、いるのかな。
家族構成は何も知らないが、ヤンキーみたいなお父さんとか出てきたらどうしよう…。俺より背の高いもう1人の狩吉さんみたいな弟とか。

む、無理…怖過ぎる…。

怖い想像しか出来ず震える俺を振り返り、狩吉さんがそ、と頭を撫でた。


「親、帰るの遅いから誰も居ないよ。安心して」

「あ、そう、なんですか…」

安心、してもいいのか。
まだ怖い弟の線も残っているが。

それでもヤンキーパパの登場にはなりそうにないので、少しだけ肩の力を抜いて部屋の中を見渡した。
かなり広い部屋だ。外観からしても結構いいところなのかと思ったが想像通りだ。何人で暮らしてるんだろう…少し気になる。

しかしあまりジロジロ見るのも気が引けて、狩吉さんの後について1つの部屋に入った。


部屋の先は狩吉さんの部屋だったようで、多分何も入っていないカバンを床に放り投げる。…何も入ってないってのは失礼か。

そのままローテーブルの近くにストンと腰を下ろした。
狩吉さんの部屋は何て言うんだろう。特に言うべきことがない。散らかってるわけでもないが、物がないと言うわけでもない。どちらかというと普通の男子高校生のような部屋だ。俺との違いといえば机の上に煙草と灰皿が置かれてるくらいだろうか。

未成年、煙草、ダメ絶対!とは思うが、狩吉さんなら煙草とかも吸ってるんだろうなとは思っていたので想定の範囲内だ。


「安成、座って」

「あ…、はい…!」

言われた通り狩吉さんの向かいに座ろうとしたら、違う違うと首を振られ自分の横を指差した。

「こっち」

「え…………」

俺は俺でイヤイヤ無理無理と心の中で首を振るが本人目の前にして拒否など出来なるわけがないので、恐る恐る狩吉さんの横に座った。
やっぱり俺、狩吉さんの中で恋人としての位置にいるんだな、と恐ろしい認識をしてしまう。

隣には座ったものの少し距離を開けて座ると同時に狩吉さんがガバッと腰を上げた。

「!?」

ビクッと怯える俺をよそに狩吉さんはスタスタと部屋を出て行き、少しして両手にコップを持って戻ってきた。

「忘れてた。はい」

麦茶だろうか。飲み物の入ったコップを渡されて、慌ててそれを受け取りながらお礼を言うと、先ほど開けた距離より断然近い距離に腰を降ろしてきた。

………ひーん、近いよお…

それでもまさかお茶を出してくれるという気遣いができる人だとは思わなかったので、良い意味でびっくりしてしまった。


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