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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

初めての放課後デート

「もー、元気出しなよー。いいじゃん、公式にお付き合いしてることがあれで知れ渡ったんだから。今日から安成の学校生活は安泰だよ!ヤッタネ!」

「………」

「いやぁ、でもいいもん見たわ〜。狩吉ってあんな風にチューするだね。ちゃんと身を屈めて自分からしてくれるなんて、愛されちゃってるね、安成くんは」

「………」

「てゆか俺らのことアウトオブ眼中過ぎじゃない?みんなが注目してる中でするなんて…待てよ。もしや、あれは俺らに対する牽制…?やば!狩吉って独占欲強めなのかも!」

「叶」

「あっ、やっと喋った」

「ちょっと黙ってて」

「はーい」

叶は言われた通り黙ったが、魂の抜けたようにボーとしている俺の頬を人差し指でぷにぷにと突いてくる。声は出さないのに、うるさいなんてすごい奴だ。


狩吉さんの教室公開キスの後、本人が居たから反応できなかったクラスメイト達は狩吉さんの姿が見えなくなったのを確認すると一斉に騒ぎ出した。
それもそうだろう。猛獣の餌だと思って居たもやしが、猛獣の嫁だったわけである。驚かない訳がない。

好奇な目と、哀れみの目を同時に向けられる日が来るとは思わなかった。しかもこんなにジロジロ見られて何を言われてるのかビクビクしてしまう。耳をそばだてて聞いてみると、狩吉さんの男の趣味の意外性と、俺の今後がどうなるのかという話ばかり。
ちなみに一番の話題は、狩吉春は笑うことが可能だったのか、という内容だった。やっぱりみんな思うことは同じみたい。


あと俺の今後は、女とは違って妊娠しないのをいいことに所構わず中出しされ、女よりは頑丈なので時には人間サンドバック、そして狩吉さんの仲間周りに輪姦されて、飽きられてポイされる未来らしい。

「……駄目、吐きそう」

「えっ?吐くの?こっちには向けないでね。トイレ行ってね」

叶の冷たい対応に嗚咽をグッと堪えた。
出来れば飽きられてポイされるとこだけ実現してくれたら嬉しいんだけど…それ以外は全部却下したい。特にサンドバックと輪姦は嫌だ。でも絶対無いとは言えない未来予想図に胃が押し上げられる感覚に襲われた。



「狩吉と初めての放課後デートだもんね。緊張して吐きそうなの?初心〜」

なにが、うぶ〜だ。他人事だというのを隠しもしない叶の態度に虚しさを覚える。

「緊張ね…まあ、緊張もしてるよ。そりゃあね…」

狩吉さんどころか、放課後に誰かとデートをするなんていう行為自体が初めてのこと。
というか、デートなのだろうか。俺は一緒に帰ろうとしか言われていない。

叶が放課後デートだなどと言うから無駄に緊張してしまうし、緊張の原因である叶はそんな俺を見てニタニタと笑っていた。


「………なんだよ」

「い〜や?大変そうだなあっと思って」

「絶対嘘だろ!顔、笑ってるじゃん」

「ふひひ」

「………」

美少女アイドル顔が下卑た笑いを浮かべるのは正直見るに耐えない。

「それはいいとして、安成くん。狩吉とはどこで待ち合わせしてるの?」

俺の気持ちを察したのか気味の悪い笑みをサッと引っ込め、いつも通りの表情に戻った叶は机に両肘をついて尋ねてきた。

「桜の樹の下だよ。校門前の」

「いつ?」

「16時だけど…なんだよ一体」

他人事なのにそこは詳しく知りたいのだろうか、と不思議に思っていると叶は自分の体をずらして俺の視界を広げると、教卓の上に設置してある丸い時計を指差した。


「もう16時過ぎてるけど。行かなくていいの?」

「は……」

壁掛け時計を見ると、確かに短針が4の場所にあり、長針が3を丁度越えた辺りに居た。簡潔に述べると16時16分。


事態に気付いた瞬間、顔から血の気がひいた。

「ううう嘘だろ…!!!??」

驚きと焦りで勢いよく立ち上がると、反動で床に倒れた椅子が盛大な音を立てた。突然鳴り響いた衝突音に残っていた数人のクラスメイト達から痛い視線を送られる。
俺はというと自分で立てた音に自分で驚き心臓が止まりそうになっていた。

「もー、安成。落ち着いて…」

叶が呆れ気味に席を立とうとするのと同時ぐらいに、教室のドアがガラガラと開く音がした。

いつもの調子でドアの方に目を向けると、そこには今最も会いたくない、でも走ってでも会いに行かないといけなかった人が立っていた。当たり前のように目が合うが睨まれている気がしてならない。

やばいよね、やばすぎるよね。
何やってんだ俺の馬鹿あああ…!!


「あ、…か、狩吉、さん……えと」

モゴモゴと口籠る俺に、狩吉さんは怠そうではあるが迷いの無い速度でこちらへ向かって歩いて来る。咄嗟に俺は机の上に置いてあった自分のカバンをギュッと抱き締め身構える。
そして、何やってんだ、遅ぇぞ!クソが!俺様を待たせるなんてコロスぞ!と罵声を吐かれる覚悟を決めた。

しかし、既に半泣きの俺に振り降りた言葉は予想外で、


「だいじょうぶ?大きな音、したけど」


という俺を心配するものだった。

正直拍子抜けしてしまったが、内心物凄くホッとしていのも事実。

「だい、大丈夫…!椅子をひっくり返してしまっただけで…その。ごめんなさい」

とりあえず謝る。
主語もないのに狩吉さんは、コクンと頷いてくれた。

分かったんだろうか…?約束の時間に行かなかったことについてだったんだけど。

「帰ろ」

狩吉さんはそう短く言うと、俺の手を握って歩き出すのでカバンを胸に抱いたまま、引っ張られるように後をついて出る。
叶は未だにニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべ頬杖をついてこちらを見上げていたが気にしないことにした。

俺達が教室を出て少し立つと、背後からざわめきが聞こえてきたが、それもこの際気にしないことにした。


ほんとはすっごい気になったけど。


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