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「やっべ、超オシャレじゃん。超高そう」


席に着いた途端丘川は興奮したように声を上げた。丘川の言う通りここ最近で来た中で一番センスのある上品な内装だ。オープンしたばかりということもあり、店内はどこもかしこもキラキラと新品なことをアピールしてくる。薄暗い店内だというのに眩しいくらいだ。

「でも、いっか!柴の奢りだし」

「お前、それめっちゃ強調してくんね。まあ、そのつもりだけど。さっさと飲もうぜ」

「キャー!柴くん男前!俺今日お前になら抱かれてもいいよ?」

「俺は今日じゃなくてもお前なんか抱きたくないデス。気持ち悪いからやめろ」

いくら俺が男もイケるといったって、こんなガタイのいい男抱きたくたくない。想像しただけで吐き気もんだ。

それに俺には男ではなく同い年の女の恋人がいることになっている。なかなか人に言える関係でもないし、わざわざ言いたいとも思ってないから別にいいんだけどね。


それから俺は丘川の愚痴を聞きながら、居酒屋には置いていないようなアルコール度数の高いものをぐいぐい飲んだ。

酒には強い方だが、丘川はそれ以上に飲み、酔うのも早い。丘川のペースに合わせて飲んでいたら、いつの間にか視界がふわふわしていた。

ガクンッと頭がテーブルに落ちそうになる。そんな俺を見て既に出来上がっている丘川は何が面白いのかゲラゲラと笑った。


「柴くぅん、いい感じじゃないですか〜!ほらほら、普段言えないようなこと言っていいのよ?珍しく飲もうだなんて言ってきて、柴だって、なぁんかあったんでしょっ!丘川ちゃんに話してごらんなさいよ」


「……何かあったかだって?…チッ、俺も浮気されたんだよ!」

「え!?」

「丘川クソ」

「なぜ、俺が罵倒されなければならない、柴よ」


大胆になった思考回路の中、もう黙っているのが面倒臭くなって丘川の言葉を引き金に漏れてしまった。

俺にだって少しくらいは愚痴る権利はあるはずだ。
丘川の為になんて言って飲みに連れ出したけど、本当は俺が飲みたかったんだ。傷心してるのは俺もなんだぜ、丘川。


「柴と彼女超ラブラブだったじゃん!昨日だって彼女の手作り弁当持ってきてて、なんだ羨ましいなこのクソ野郎って思ったのに」

「んなこと思ってたのかよ。つーか、俺だって知りてえわ。俺の何が不満だったってんだ…」


そりゃあ、俺は静史みたいに街を歩けば誰もが振り返るような整った顔立ちをしてるわけでも、あの写真のオンナみたいに柔らかい体をしてるわけじゃない。

でも自分で言うのはなんだが、営業してるくらいだからコミュ力はバカ高いし、そのおかげか静史と付き合う前まで彼女が途絶えた事はなかったし、会社は違えど、俺は静史と同じくらい稼いでる。
記念日には欲しがってた高いブランドもののカバンやらスーツやらだいたいは買ってやった。
憧れだったSUVは同棲を始めてすぐに静史に先を越されてしまったが、運転は率先して俺がやるし結構スマートな方だと思う。
料理はあんまり得意じゃないから、静史に任せてしまう部分も多いが、任せっきりじゃない。ちゃんと手伝ってる。

セックスだって、静史が下になるのは嫌だなんて我儘言うから仕方なくおれが下になってやってるんだ。本当なら静史みたいな顔のいいやつが下の方が見栄えするはずなんだよ。…いや、体格的にはやはり俺か。


「俺だって…俺だって結構尽くしてるつもりなんだぞ…?なのに、なんで浮気なんてするんだよ」


やばい、泣けてきた。


「おぉ〜柴が弱ってる。珍しいこともあるんですねェ。丘川ちゃんが慰めてやろっか?ん?ほれほれ、おいで」

いつの間にか隣に移動してきた赤ら顔の丘川が、両手を広げてその逞しい胸を開け広げてきた。それをジロリと睨んだつもりだったが、緩んだ涙腺からはポロリと熱い液体が零れ落ちてしまった。


「しっ、柴…!?」

「ううう、丘川ぁー!なんとかしろお!俺はどうすりゃいいんだ!…クソ…」

「泣くか怒るかどっちかにしてよね。いくら万能な丘川ちゃんでも対処しきれねえよ?」


男泣きをする俺の頭を丘川は、おーよしよしと抱え込んで背中をあやすように叩く。なんでよりによって、静史でもなく可愛い女の子でもなく、男の中の男みたいな丘川なんだ。丘川によしよしされたって1ミクロンも嬉しくない。1ミクロンもだぞ。


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