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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

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「………つーか、友達ってどうやって作るんだよ…」


友達の作り方が分からない現役男子高校生。
特に何もできず1日の学校生活が終わろうとしている。

放課後の誰もいない教室の窓辺にもたれかかり、俺は小さく溜息をついた。


まずはクラスメイトからだ!と意気込んでとりあえず気が合いそうな奴を探してみたが、なにせ名前と顔が一致しない。俺が唯一、一致してるのは何気に1年のときからクラスが一緒の石田くんくらいだが、彼は多分律が好きなので俺はあまりよく思われてない空気が伝わってくる。
やっぱ最初の「席交換して」事件が一番の要因だろうな…。これ律のせいじゃん。

あとは当たり前だが既に系統ごとにグループができていて、どこに声をかければいいのかもイマイチぴんとこない。


おかしいな。俺、別にコミュ障とかじゃねーんだけど。というか、そもそも律以外に友達と呼べるほど親密になれた奴って居たっけ…?


父親の転勤と同時に小学校に上がる前に引っ越してこの町に来た俺だが、ここで一番初めに会話した同世代の男の子が律だった。

いっちょまえに入学式で緊張していた俺に、出席番号順に並んで座ったパイプ椅子の前に居た律。左から右に番号順で座ってたから、ちょうど前後になったんだ。
既に左右の子達と仲良くなって喋ってた律の後ろ頭を、いいなー俺とも話してくれないかなー、なんて思いながら見つめていたのを良く覚えてる。

そしたら、俺の食い入るような視線に何かを感じたのが突然律が後ろを向いたんだ。

テレパシーが通じたのか!?とびっくりする俺の顔をマジマジと見た律は、パッと表情を明るくして体ごとこちらに向き直ると

『きんちょうするね!』

と笑顔で笑いかけてくれた。

あれが記念すべき律とのファーストコンタクトである。

そのあと教室も一緒で、今度は前から番号順に並んだ机で律と横同士になった。あれは半端なく嬉しかったな。ここでも前後の友達に話しかけられていた律だったけど、俺が隣の席なのに気付くと、持ち前の愛想の良さとコミュ力の高さを発揮して来たっけ。

『さっきのコだ〜!なまえ、なんてゆーの?』

『あっ、ぼく、すえなが とも』

『ともちゃん!ぼくはあさくら りつだよ』

『りつ、くん』

『よろしくね!』

『うん!よろしく!』



「…律、昔は可愛かったなあ…」

今はあの頃の可愛かった姿は見る影もなく、デカくなってしまった。ほとんど変わらなかった俺の身長を越えたのは何年生の時だっただろう。

ボケーと、青空の広がるグラウンドに見ながらすごい懐かしい気分になってしまう。
あれから、俺、律以外にまともな友達できたことないわ。理由はなかなか黒歴史だから、あまり思い出したくない。

とりあえず、あれだろ?名前聞いて、自分の名前名乗ってこれからよろしくと言えばお友達…なわけねーわな。


「お友達か〜」


窓辺に設置されている転落防止の手すりに両手を添え体を預ける。

お友達なんてな…そもそも作ろうと思って作れるもんじゃねえしな…と根本的な結論に辿り着いて、溜息とともに顎を腕に乗せた。

階下に広がるのは綺麗に剪定された緑と、陸上部が走幅跳をしていたり、ウォーミングアップを行なうグラウンド。

「……ん?」

みんなこの暑いなかよくやるわ、なんて呑気に見ていたら、1人ホワイトとネイビーのユニフォームに身を包んだ生徒がフラフラしながら歩いていることに気付く。

遠目から見て、多分ーーー俺の得意ではないサッカー部だろう。

あの上下の爽やかなカラーは俺の記憶が正しければうちのサッカー部のユニフォームだ。サッカー部員に間違いは無いだろうが、それにしてもめっちゃ体調悪そう。

もう結構暑いしな、練習がハードなのかも知れない。体育館も蒸されるって律が言ってたし運動部は大変だなあ…と他人事のように見ていたら、その生徒は木にもたれかかる様にしてズルズルと倒れ込んでしまった。

「えっ……」

ガバッと顔を起こして勢いよく下を覗き見る。
ただの休憩で木陰に入ったんならまだしも、座り込み方が異常だった。熱中症とかで意識失ってたりしたら心配なんだけど。

少し様子を見ようと思ったが、どうやら俺は根っからの世話焼きのようで気付くと足は校庭に向かって走り出していた。



行くまでに居なくなってくれてたら動けるという事で安心なのだが、先ほどの場所まで降りてくるとまだ彼は木陰で座り込み、片膝を力無く立てたまま項垂れていた。

えー!?
ちょっとやべーんじゃねえの!


「おい!きみ…えーと、先輩だったらすみません、大丈夫?…ですか?」

傍に寄って肩に手を掛けると、ものすごい熱い。体が熱を吸収してしまっているようだ。

しかし俺の声に反応するように、ゆっくりと顔を上げたのでほんの少しホッとした。生きてて良かった。

「ぁ…あ〜、だいじょ、ぶっす」

具合が悪いのか声が掠れている。

「大丈夫って…顔も、結構赤…い…」


そこまで言って彼の顔に一瞬驚いた。


黒髪の無造作ながら清潔感のあるさっぱりした髪型の下にそれはまあ整った顔立ちが見えた。
整えられた釣り気味の眉にスラッとした鼻筋。目は一重だが、とても大きな瞳だ。はあ、と辛そうに息をする口元は不謹慎ながら色っぽい。なんて言うんだろう、こういう人。

あ、あれだ。いつぞや流行った塩顔イケメン!今も流行ってるのかは知らないが、さらりとした顔付きは好感を得る。

と、塩顔イケメンの実況をしている場合じゃない。


「頭痛とか、吐き気とかする?」

「うぅん…?…頭痛ぇかな…」

「熱中症だろ!保健室行こう!歩けるか?…ますか?」

「いや、ここで…休んでたら多分だいじょぶ…」

大丈夫だと遠慮する彼の顔を見る限り大丈夫ではない。なにを呑気なことを言っているのかと無理矢理肩を掴んで自分へもたれ掛からせるように立ち上がらせた。

「んなこと言って、大変なことになったらどうすんだよ!運動部なら熱中症がやべーの知ってるだろ!?いいから行くぞ…ますよ!」

何年生なのか分からず、タメ口と敬語の入り乱れる俺は、わりとテンパってる。気迫に押されたのか、彼は相変わらず辛そうな声で「…悪い」と呟いて俺に合わせて足を踏み出した。


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