3 晩飯がいらないと言っていた通り織田は部活が終わる時間を過ぎても部屋に戻らなかった。 時計を見ると21時を回ろうとしている。 俺は晩飯を適当に終わらせ早めにシャワーを浴び、今は自分のベッドの上で寛ぎ中だ。 始めは薫くんのことを悶々と考えていたが、あまりにも帰ってこないので本人が帰って来てからでいいや、と考えることを放棄した。俺が今あーだこーだと考えたって仕方ないし。 久々に1人でのんびり過ごせる時間にんんんーと伸びをする。 「はー、暇だ…」 織田と言い合うこともなく、部屋で気まずい思いをする事もない。意識してみると、なんと素晴らしい時間だろう! 素晴らしいんだけど、ここ最近騒がしくしていたぶん暇に感じる。律からも何も連絡が来ないことを見ると、やはり織田と共にいるんだろーな。 「律、幸せなんだろうな〜…」 織田の横で嬉しそうに笑う律が安易に想像できた。 律は恋人ができた途端に、親友である俺との時間が極端に減るような冷たい人間じゃない。かと言って俺との時間を優先させるほど親友ラブでもない。 教室で隣にならないと気が済まないとか、智ちゃんのご飯が食べたいからデート早めに切り上げて来た、とかたまに頭のおかしいことを言ってくるときはあるが基本恋人は大事にする。聞きたくもない惚気話を聞かされるときもあるくらいだ。 そのおかげで、というかそのせいで俺は男同士のやり方を知ってしまった。男同士でやる時ってそこ使うんだ…と肝ならぬケツが冷えたのを今でも覚えてる。 律はどっち役なの?と恐る恐る聞くと、いつもの爽やかな笑顔で「俺?俺は突っ込む方に決まってんじゃーん。てか、どんなに好きな人でも突っ込まれるのは無理かな〜」と返事をしてくれた。 そうか、突っ込むのか。それを。 小さい頃から一緒なだけあって、律の律とは顔馴染みだ。(下品でごめん) さすがに勃…元気を出している時のサイズを直視したことはないが、まあだいたい想像はつくよね。 そんなアレをアソコに……? 想像しただけで身震いをしてしまった。 「いやー、無理でしょ。無理無理。確実に切れて痔になる未来しか見えないわ」 もちろん痔になるような関係になる未来など来る予定がないので安心はしている。 「ハッ、そうか!ということは、織田が………?」 あの強気で俺に対して鬼のようにキツく当たる織田が女役をしているのを想像………できなくもないが、あまりしたくないな。どちらかというと織田もガンガン攻めそうな性格してるし。 でも顔だけなら中性的で絵画のように綺麗だから、きっと絵にはなると思う。 「……」 絵になるなんて思ってしまったからだろうか。 想像力とは恐ろしいもので、一瞬、律の下で律を受け入れる織田を思い浮かべてしまった。織田の端整な顔が淫らに歪む。 「わーー!!やだやだ!何考えてんだ!ヒーー俺のバカ!!」 やばい、欲求不満なのかな… 数秒前に想像したくない、とか抜かしてたのにこのザマだ。ついに俺にも男子校の魔の手が忍び寄ってきたのか…? 己の思春期真っ盛りな想像力に自己嫌悪していると、タイミング悪く玄関から物音がした。 「げ」 ガチャっと開く扉に目をやると、話題の織田と、その後ろから律が入って来るのが見えた。 何故、2人でー!? 俺は咄嗟に持っていた携帯を手離し、壁際に向いて寝たフリを決め込んだ。 不埒な想像をしてしまった後に本人達と顔を合わせるのが気まずかったから、というしょうもない理由である。 「あれ…智ちゃん寝てる?早くない?」 律が気を遣ってか小さな声で囁くのが聞こえた。 確かにまだ21時過ぎたばっかだしな。 織田のことをお爺ちゃんだと揶揄したばかりだというのに、これでは人のことを言えない。 「起こすか?」 織田の淡々とした声。 起こすのはやめてくれ。 「いや、いいよ。可哀想だし」 「そう?」 織田の俺に対する適当さが浮き彫りになる会話だな、これ。そう?じゃねーし。どう考えても可哀想でしかないだろ。 微かに床を踏む音が聞こえ、嗅ぎ慣れた清潔感のある優しい香りが鼻腔を包み込んだ。この香りは律がいつも使ってる香水だ。 俺のベッドの傍まで来たようで、手が髪に触れる。 「……ほんとうに、寝てるの?」 もどる | すすむ | 目次へもどる | |