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12

「あれだよ、織田めっちゃ接触されて結構痛めてたみたいだから、湿布貼ってやってたんだよ。筋?痛めたみたいな?」

「それだけ?」

「……それだけ!律が心配するようなことはなにもない!」

ということにさせてくれ。嘘なんてつきたくないけど、なんでもかんでも素直に話せばいいってわけじゃないと思う。

それにあれは完全に俺に対する嫌がらせだ。事故だ。話して無駄に律の気持ちをザワつかさせる必要はない。

「………」

「………」


とは言っても…
律の視線が痛いなコレ。

居た堪れなくなって、そろ〜と視線を斜め上に逸らそうとした。

が、ガシッと頭を掴まれて再び顔が律の方へ。無理矢理方向転換をさせられた首が軽く悲鳴を上げた。
織田じゃないけど筋でも痛めたらどうしてくれるんだと文句を言おうと律の顔を見たが、言い掛けた言葉は喉の奥に落ちていった。


目の前の律の表情が暗い。
いつぞやに見た鳥肌の立つような表情にギクリとした。


「………なんで俺から目ぇ逸らすの?」


頭を掴んでいた手がするり、と落ちてきて俺の頬に添わされる。それは同時に織田に噛み付かれた箇所に近付いたことにもなり少し息を飲む。
血が出るくらいだ。きっと跡も残ってる。見られたら終わりだし、これだけは何としてもバレちゃいけない。

咄嗟にバッと律から離れた。

だってもし噛み跡なんて見られてみろ。こんなの上手い言い訳が思い付かない。友達が自分の恋人に噛み付かれたなんて知ったらどう思うんだ?俺だったら意図が分かんないから困惑しかないけど、律はどうだろう。最近たまに律の考えてることが分からなくなることがあるんだよな…

つーか!!織田あいつ!ホントに!何度も言うけどバカだろ!もう意地でも当分魚は食卓に出してやんないからな!なんか腹たってきた!

「智…」

「あの、さ!確かに前約束したし、勝手に織田んとこ行って怒ってんのかもしんないけどさ、俺は2人の仲をどうこうしようなんて微塵も思ってないから!少しは俺のこと信用しろよ!…つーわけだから、もう部屋戻ろうぜ」

正直織田のいるであろう部屋にはまだ戻りたくなかったがこうなってしまってはいた仕方ない。律に質問攻めにされるより、織田を交えて3人で居た方がまだマシだ。

寮の方向に足を向けようとしたのに、またもや腕を掴まれてしまう。

「俺がなんで怒ってるのか…なーんも分かってないよね」

「は?…ちょ、っ」

そのまま両手を取られ力が加わる。抵抗する俺をいとも簡単にねじ伏せて体ごと律の方へ引き寄せられた。
まるで大人が子供の両手を掴んで「だめでしょ!悪いのはこの手!?」と怒ってる時のような図だ。


…待て、それじゃ俺確実に説教コースじゃん。


「り、律!一旦落ち着こう!」

「この手で触ったんでしょ?」

「話せば分かっ………手?」

「智の、手が、玲哉に」

「…………それ、は…」


掴む力が強くなる。じわりと圧が加わる力加減に、たまらず眉間に皺が寄り身をよじるが、律は離してくれない。

「律、ちょっと痛い…」

「どうして俺の言うこと聞いてくれないの?なんで俺の視界から消えて玲哉のとこ行くの?」

律の視線が突き刺さる。そりゃ勝手に居なくなったのは確かに悪いと思ってるが、湿布貼ったぐらいでそこまで怒るか?触れたっつってもほんの少し指先が触れただけだぞ。…まあ実際はそれ以上のこともあったわけだが、律はそんなこと知らないはず。指先が触れた、たったそれだけの事が律には許せないのか…?

めちゃくちゃ愛されてんじゃん、織田くんよ…

いや、感心してる場合じゃないな。分かってるんですけどね、脳が現実逃避しよう!今直ぐ!今夜の晩御飯のこと考えよう!って囃し立てるんですもん。とりあえず律の怒りを鎮めねば…

「……ごめん」

「なんのごめん、それ」

「勝手に居なくなって織田んとこ行ってごめん、の意」

「…1人で勝手にどっか行くからあんなセンパイ達にも絡まれるんだよ、分かってる?」

「うっ…それは、うん…ほんと来てくれて助かった」

「これからはちゃんと俺の言うこと、聞いてくれるよね」

「……うい」

完全なる説教タイムに本気でしょぼりしてしまい項垂れながら返事を返す。よくよく考えてみれば、織田大丈夫かな?なんて余計な気を回さず大人しく律の試合を見ていれば、起爆スイッチを押してドーベルマンに噛み付かれることもなくドMな変態…先輩達にも絡まれなくて済んだんだもんな。律の言う通りだ。

「…以後、気を付けます」

掴まれた腕に視線を落としながら小さく呟くと、やっと律の手の力が緩んだ。見ると握られた跡がほんのり赤い。

それに律も気が付いたのか、残った跡にそっと手のひらで触れる。先程までの不穏な空気が嘘のような優しい触り方に視線を上げると律は何故か微笑んでいた。


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