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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

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『バスケ優勝者は2年B組です!代表者は前にお願いしまーす』


マイク越しに反響する声を聞きながら俺は保健室の窓からグラウンドを見下ろしていた。
あの後戻る気にもならず、保健室でひとしきり泣いていたら、球技大会の閉会式の時間になっていた。
途中先生が戻って来たが、ほんのり血のついたシーツを握りしめて乱れたベッドのうえでビービー泣いている俺を見てソッと肩に手を置くと再びどこかに消えてしまった。おい、勘違いすんな。違うからな。

でも折角なのでここから閉会式を見て今日はもう部屋に帰るのは晩飯ギリギリの時間にしよう。先程のアレは俺には衝撃がデカすぎる。


グラウンドの集団の中から、一際背の高い生徒が立ち上がりその長い脚を活かしながらあっという間に先頭に歩いていく。

律の姿に集団の特に可愛いグループの奴らがキャッキャ色めき立つのがここまで聞こえたてきた。

『バスケ選択者にも食堂一ヶ月食べ放題券をプレゼントします!しっかり食べて精力…じゃなかった、体力をつけてくださいね〜』

よく見たら司会をしている生徒も律好みの可愛い系の男子だ。ナチュラルに精力って聞こえたんだけど。怖。
でも律、無事に勝てたんだな。良かった良かった。まあ律が負けるなんて思って無いけどね俺は!


司会の生徒から食べ放題券が入っているであろう封筒が律の手に渡る。そこへ突然体格の良いジャージを着た先生が躍り出てきて、グワッと律を抱き締めた。
確かあのヒゲモジャの強面はバスケ部の顧問だったはずだ。まるで美女(男)と野獣のような組み合わせに周りからギャアと悲鳴が上がった。


「さすが、我が部のエースだ!わはは!浅倉が優勝したということは、それ以外のバスケ部員は全員ペナルティーだな!放課後サボらず来いよお!」


律に肩を回してバスケ部顧問が集団に向かって指を指し、ガクッとこうべを垂れたのがきっとバスケ部だろう。
…そうか、ペナルティーってそうなるのか。ということはペナルティーを免れたのは律と織田だけ?

流れで織田の姿も探したが、集団の中からは見つけ出すことが出来なかった。あの言い方からしてもう部屋に戻っているのかも知れない。


ーーーあいつはほんとに何がしたいのか分からない。会った時から謎だったが、さらに謎が深まったというか、謎しか残して行かなかったというか。


バスケ部顧問に肩を抱かれながら律が少し困ったように笑っているのを見ていたら、不意にバチッと目が合ってしまった。すぐに保健室の窓から見えた俺にブンブンと手を振ってきて、その他の生徒たちがこちらを振り返ろうとする。
あんな大人数に見られてたまるか…!視線で穴が開くわ!と慌てて窓から引っ込んだ。

「あっぶね…よく気付いたな、あいつ」

あとで会った時に、智ちゃんさっき無視したー!ヒドイー!なんて言われるのが目に見えているのがちょっと面倒臭いが仕方ない。

というか、律にどう言えば………



いや、言えないな!

織田にチューされたなんて、例えどう考えても俺に対しての嫌がらせだったとしても仮にもチューだ。キスだ。唇と唇をくっ付けるアレだ。


「律、ブチ切れるだろ…」

それはいくらなんでも怖すぎる。

織田のせいで俺は悩まなくてもいいことに悩む羽目になってるし、腹立つから今日の晩御飯は何が何でも肉料理にしてやろう、と我ながらささやかすぎる反抗を考えているとガラリと保健室の扉が開いて数人の生徒がガヤガヤと入ってきた。


「はー、疲れたあ〜!」

「久々に真面目にやったべ」

「薫の頼みだししょーがねーけどさー疲れんだよなー」

「もう若くねえんだな」


なんて大きめな声が聞こえて振り返るとそこには先ほど織田にワザと接触してきた3年の先輩達の姿があった。全員では無いが数にして4人。

このあまり広く無い保健室にガタイのいい男子生徒4人+俺はなかなかに窮屈だ。


「つーか、信ちゃん居ねえじゃん」

「あれ、ほんとだ。冷感スプレー貸してもらおうと思ったのに使えねえー」

「まあいいじゃん。勝手に使っちまおうぜ」

先生、あなた信ちゃんって言うんですね。そして俺が言うのも何ですが、またもや生徒に勝手に備品を使われようとしていますが…ドンマイ信ちゃん。

そんなことを考えていると先輩のうちの1人が俺の存在に気付いて顔をこちらに向けた。


「ありゃ、先客?………あ、お前さっきレイヤきゅんと一緒に居た奴だろ」



ーーー…


ん?


レイヤきゅん?


聞き間違えかな、と思い「はい?」と聞き返すと他の先輩達も本当だ、本当だと騒ぎ出し周りを囲まれた。


待って!!怖いんですけど!!?


「お前いいよなあ、あんな美人の傍にいられてよ〜」

「レイヤきゅんあのチャラそうなイケメンと付き合ってるんだろ?」

「イケメンマジ滅びろ!」


「え、い、いや、は?確かに付き合ってますし、イケメンですけど…あれチャラい部類に入るんですか?…あ、じゃなくて…」


あなた方、先ほどそのレイヤきゅんに接触アタックしてましたよね?


という俺の疑問が伝わったのか先輩の1人が俺の肩をガシッと掴んだ。


「ひょえ…!?」

「さっきのは悪かったな!ある奴に言われて仕方なくやったんだけど、レイヤきゅん思った以上に頑丈で倒れてくんなくてさあ」

「そうそう。あんなに細いのにどこにそんな力があるのかって感じだよな〜」

「だから、かなり強めにやっちまったんだよ…レイヤきゅん怒ってる?」


「………はあ、まあ」


あなた方というより、それをけしかけた主犯格の薫くんに激おこでしたけど。


「マジかあ〜〜〜だよな〜〜〜。じゃあこれからすれ違うたびにレイヤきゅんに蔑むような冷たい目を向けられるってことかあ」

「ふおおおそれはそれでたまんねえ…!」

「レイヤきゅんとお近づきになりてえけど蔑まれて足蹴にされるのもいいなあ…」


「…………」


ねえ、正直に言っていい?

気持ち悪っ。


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