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8

「はい、終わり」

「どうも」

織田はお礼なのかどうかも微妙な言葉を返して、すぐに上に体操服を着直す。俺も残りの湿布を、拝借した棚に戻した。先生ありがとう。この湿布は先生の愛する可愛い生徒に使ったから許してね。決してパチったわけじゃないからね。

「つーかお前さあ、今まで何してたんだよ」

「昼寝」

「いや!その前!保健室に来る前になんかしてたんじゃないの?だから俺にバトンタッチなんて傍迷惑なこと言ってきたんだろ」

織田の代わりに駆り出される羽目になったことを俺はまだ根に持っていた。昼寝するためだけに犠牲にされたんじゃたまったもんじゃない。そもそも球技大会中に昼寝ってなに?どこの不良だよ。


「…もしかして薫くんと何かあった?」

「カオル?誰だそれ」

「さっき観覧席にいたお前が女みたいって言ったやつだよ」

「あー、あいつカオルって言うの」

織田は胡座をかいたまま後頭部を気怠げにかく。思い出したということは、やはり何かあったのか。

俺は再びベッドに腰掛けて話を聞く体制に入ってみたが、織田が発した言葉はたった一言だった。


「ちょっと遊んだ」


「………」

………い、意味深過ぎる。


「…何やらかしたんだよ」

「さあ?」


ワザとらしいくらい見た目にピッタリな笑顔を作られて逆に鳥肌が立つ。

はい、俺手っ取り早く主犯格を吊るし上げたに一票!

…じゃなくて、何やってんだこいつは。気に食わない奴に対して(俺含め)攻撃的過ぎるだろ、全く。


「…いくらなんでも泣かせることは無かったんじゃねーの」


ここに来る途中に出会った薫くん。
織田の言葉を聞いてやはりあれは泣いた後だったんだと確信を持った。
何をしたのかは知らないが、あんな気の強そうな薫くんを泣かせるなんて相当な事をしたとしか思えない。もちろん薫くんのしたことは最低だ。それは間違いない。だけど、俺だけに対してもかも知れないが、こいつは容易く手が出るから…そこが心配なんだ。

思った事をそのまま口に出すと、織田は一瞬黙って、それから小さく「チッ」と舌打ちをするのが聞こえた。


舌打ちすんなよ、と言おうした声は突如伸びて来た腕によって、首のあたりを無遠慮に掴まれ出すことは叶わなかった。

「!?」

予想していなかった織田の動きに体が後ろに倒れ、いくらベッドの上とは言っても衝撃に一瞬息が詰まった。視界がグルリと回り天井が写り込む視界。意味が分からずとにかく体勢を整えようと腕に力を込めるが、その前に織田の膝と思われる部分が俺の胸部を押さえ付けてきた。

「うっ、」

圧力がかかり眉を顰める。
真上に織田の綺麗な顔が現れた。

「お、い…!?」

痛みの原因である織田の、膝で押さえ付けたまま見下ろしてくる表情は以前も見たような俺に対しての苛立ちと怒りを感じた。

どこにスイッチがあったのか分からないが、その顔を見てようやく怒らせた、と気付いた。


「アンタ、博愛主義者かよ。つまんねぇこと言ってくんな」


「っ、は?誰が博愛主義、だ!…なに怒ってんだよ、足!どけろ」


肺のちょうど上から体重をかけられている為、うまく言葉が出てこない。まどろっこしくて嫌な気分だ。というか、なんで俺が足蹴にされなきゃならんのだ!


「どうせカオルとかいう奴の見た目が、女みたいで華奢だから可哀想とでも思ってんだろ。見た目に騙されてんじゃねえよボケ。ガタイいいやつ使って陰湿なことしてくる奴はそれ相応のことしてでも分からせてやらねえとあとあと面倒臭えんだ。そんなことも分かんないのかアンタは」


織田は怒っているときのほうが饒舌になるし、いつも以上に口が悪くなる。ここ数日で発見した織田のクセみたいなものだったが、今日は一段と饒舌だ。

つまり比例すると一段とキレてる、とも取れるわけで。


「分かんねえ、よ!暴力に、暴力で返して、それでほんとに終わんのかよ…!」

それでもやられっぱなしは悔しいので、しゃがみこむ織田の胸倉を掴んでグッと引き寄せた。ギリギリまで顔を引き寄せ、苛立ちが浮かぶ顔を思いっきり睨み付ける。


「もし向こうが逆ギレして、お前が余計酷い目にあったら、どーすんだ!?俺が言いたいのはそういうことで…うえ、ゲホッ」


言葉の途中で胸部を押さえつける力が強くなり、咳が出た。…だー、もう最悪。分かんねえ。またスイッチ押したわ…

「俺がやり返されるような下手踏むとでも思ってんのか。しかも誰が暴力で解決したなんて言った?さすがにあんな細いの殴るかよ。手が痛いだけで何の得にもなんねえつーの」

「それ、今の俺にも同じ、こと、思えよな!」

薫くんのように華奢ではないが、俺もなかなかに薄っぺらいと思う。そんな俺を足蹴にしたところで何の得にもならないだろ。ストレス発散か?

文句を言いながら顔を起こそうとするとパッと額を掴まれて再びシーツの上に押し戻された。

「っ…!」


「…あー、もうほんと腹立つ」


織田が苛立ちを隠さない低い声で呟く。
その声に一瞬。
ほんの一瞬だけだったがーーー鳥肌が立った。


「…アンタもさ、あのカオルとかいうやつみたいに泣いてみたら?その方がまだ可愛げもあるってもんだろ」


「…っふざけんな!泣かねえよ!つかっ、一番可愛げのないお前にだけは、言われたくないわ!」


強気に言い返してはいるものの、泣けよとでも言わんばかりの台詞にこちらまで苛立ちと、少しばかりの不安が募っていく。ほとんど体格的には同じな筈なのに、この力の差は一体何なんだ。どうしてこうも身動きがとれないんだよ。


「……じゃあ誰の前でなら泣くんだ」

「だから…!」

「律か?」

「は?」


「アンタの大好きな律の前でなら、みっともなく泣くんだろ。どーせ」


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