×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

7

コン、コン、コン

礼儀正しくきちんと3回ドアを叩いて耳を澄ませる。

「………」

中からの反応は無し。保健の先生も球技大会中だから忙しくしてるのかもしれないな。

でも俺は保健の先生に用があるわけではないので、躊躇うことなく引き戸のドアを開けると中から保健室独特の消毒液の匂いがした。ガランとした室内。やっぱり先生は居ないみたいだ。

体調の悪い生徒が体を休められるように室内にはベッドが3つ並んでいて、その中の一つだけ白いカーテンが引かれている。
多分、織田がいるんじゃないかとは思うのだが、違ったら気まず過ぎるので恐る恐るカーテンの隙間からソッと覗いてみた。


目に入ったのはサラリとした柔らかそうで艶のある蜂蜜色の髪。


ーーーやっぱりここに居たのか。


カーテンの中では、織田が片方の腕で目を覆うように横になっていた。やはり思った通り清廉な白がよく似合う。

静かに上下する胸を確認して、ただ寝てるだけだとホッとした。色々と気を揉んでいたが、杞憂だったみたいだな。

無事にスヤスヤ寝てるのならばなんら問題はない、とカーテンを閉じようとした時ピクリと織田の腕が動き、運悪く目を覚ましてしまった。


……いや、別に運は悪くない。

織田の寝起きは昼寝であったとしても、あまり遭遇したくないと思っているからか、無意識に腰が引けてしまった。トラウマだらけだもんな、俺。可哀想に。


「………」


腕を少しだけずらして、長い睫毛の下で織田の瞳が、カーテンの隙間から覗く俺を見上げた。腕の陰になってるというのにその瞳の色は強く、初めてこいつを見た時のハッとするような感情を思い出す。

そういや、こういうの映画とかで見たことあるな。

天界から地上に落ちてしまった天使が、初めて下界の人間と出会うという幻想的でかつ印象深いシーン。ただ2つ違うのは、映画で天使は女性だけど目の前の天使は男だし、周りには真っ白な羽が落ちてるはずだけど現実はただのシーツだった。


「よ」

「…ストーカーかよ」

「…………お前なあ…」


目を覚ました途端にこれだ。どう思う?ほんと可愛げねーよな。

「何が嬉しくてお前のストーカーなんてしなきゃならねえんだ。ただでさえ部屋も教室も一緒なのに」

…よく考えたらほぼ丸一日一緒じゃん。
離れるとしたら織田が部活に行ってる数時間だけで、約20時間程は寝食を共にしていると言っても過言ではない。律より多い。マジかよ。

「じゃあなんでアンタがここに居るんだ。普通こういうのって恋人が現れたりするんじゃねえの?」

今まで気付かなかった事実に愕然としていると、織田が寝転がったまま足を組んだ。凄く偉そうな感じがしてちょっとムカつく。

「律じゃなくて悪かったな!生憎律は今決勝戦で手が離せないから俺が来てやったんだ。有り難く思え」

「…あ、そ。じゃあ、アンタでもいいや。ちょっとそこの湿布取って」

反動をつけてガバッと起き上がった織田はベッドの上で胡座をかきなが、奥の棚を指差した。ポリポリと怠そうに頭をかきながら、という美少年に有るまじきおっさんぶりだ。

「湿布?」

そんな織田の態度にゲンナリしつつ、言われた通り棚に向かって湿布らしきものを手に取る。
勝手に使っていいのかな。まあ備品は使うためにあるからいっか。管理すべき人間がこの場に居ないのが悪い。

先生が聞いたら怒りそうな理由を並べて、織田の元に戻るといつの間にか奴は上半身裸になっていた。綺麗に筋肉のついた滑らかな肌が目に飛び込んできてガタッと態勢を崩す。

「うわっ」

「…喜ぶなよ」

「誰が喜ぶか。つか毎日お前のパンツ姿目にしてるから」

もはや見慣れたもんだわ。ただ突然の肌色にビックリしただけだ。呆れ気味に返すと、織田は特に反応もせず俺に背を向ける。

「アンタはいちいち反応がうるさい」

「反応がうるさい!?喜怒哀楽が豊かだと言って欲しいね!」

「はあ」

「はあ、じゃねえ!なんで俺が呆れられてんだよ!そもそもそれが人にモノを頼む態度か?んなことばっか言うんだったら貼らねえぞ」

今、主導権は俺にある。強気で言い返すと織田はクルリ、と顔だけこちらに向けた。

「か弱い同室者がガチムチにガンガン接触されたの誰かさんもしっかり見てた筈なのになあ?そんな冷たいこと言うんだ」

聞くからに棒読みだし、誰がか弱いって?と聞き返したくなるが、非情だと言われているようで何だか心が痛みそうになる。


「……その手には乗らないからな?」

「親友の恋人が困ってんのになあ」


恋人の親友は他人なのに、親友の恋人は他人じゃないのかよ。日本語って難しいな!


「………あー!もう分かった!分かったよ!貼ればいいんだろ?…ったく、どこが痛いんだ?あいつら遠慮なしだったし、筋でも痛めたんじゃないのか」


ベッドの端に腰掛けて湿布の透明なフィルムを剥がしていると、俺に向けていた背が小刻みに震えているのに気付いた。

「そっ、そんな震える程痛かったのか…!?」

青冷めそうになった俺だったが、背中越しに笑い声が聞こえ、そのまま体を震わせながら笑い出した。以前も一度だけ見たことのある織田にしては珍しい爆笑ってやつだ。

突然笑い出した織田に気でも狂ったのかと引いていると、再び肩越しにこちらを振り返る。何が面白かったのか嫌味のない笑顔のままの美人に、心底悔しいがドキッとしてしまった。


「アンタさ、チョロいって言われない?」

「………そんな皮肉ばっか言うんだったらホントに湿布貼らねーぞ」

「とりあえずここと真ん中らへんに貼って」

「あ、はい」

さっきまで爆笑していたというのに、あっという間にいつものふてぶてしい表情に戻って俺に貼る場所を指示してきた。仕方なく言われた場所にひんやりとする湿布を貼ったが、織田は冷たさに驚くことも身をよじらせる事もなくただ俺に身を預けていた。


もどる | すすむ
| 目次へもどる |