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5

「おい、アンタ」

「ん!?」

先程までの不機嫌面が嘘のように、楽しそうな笑みを浮かべたまま織田が俺に向き直り、腕を掴んで手のひらを上に向けさせられた。

「バトンタッチ」

「痛!?」

バチィンッと割と容赦無い力で手を叩かれ、足取り軽くあっという間に織田は体育館を出て行ってしまった。その姿に慌てたのはもちろん俺だ。

「え!ちょっと待てって!どこ行く気だよ!?」

「智ちゃん?」

追い掛けようかどうしようか迷っているとタイミング良く律が戻ってきた。あわあわと慌てる俺を見て不思議そうに首をかしげる。

「お、織田が、織田が行っちゃった!」

「ほんとだ、どこ行ったんだろ?保健室かな。…でも大丈夫だよ〜。審判に選手交替の許可貰ってきたから。むしろちょうど良かったかも」

「選手交替?」

「うん。球技大会だし、明らかに向こう接触多いし。大怪我しても駄目だから玲哉にはこの試合下がってて貰うことにした」

「マジか…なら、良かったけど」

そういうことであれば安心だが、俺は織田のあの笑顔が気になる。俺の予想が正しければ薫くんの元へ行ったような気もするのだが。大丈夫かな、薫くん。

もちろん織田じゃなくてね。


「てか玲哉なにも言わずに出てったの?」

「いや、なんか言ってたよ…何だっけ。あ!バトンタッチっつってたな」

「バトンタッチ?智ちゃんと?智ちゃんがこの試合出るってこと?」

「いやいや無理だろ。俺バスケ選択してねーし」

「でもここにいるってことはドッチもう負けたんでしょ?」

織田の行方に不安を感じていると、律がなんだか嬉しそうに聞いてきた。だんだんと嫌な予感しかしてこなくなりジリ…と律から距離を取る。

「そりゃ…まあ…初戦敗退したけど…バスケ他にも選択してたやつら居たろ?」

「えー、でも玲哉直々に選手交替希望されたんだから…智ちゃん!楽しもっか!」

「やだよ!?」

「ハーフタイム終了です!3Eと2Bはコートに戻ってください!」

審判の声に、律が逃げ出そうとしていた俺の腕をガシッと掴む。

「ひいっ」

「よぉーし、頑張って勝つぞー!オー!」


律の元気な声にズルズルと引き摺られて俺は泣きそうになりながらコートインすることになった。

何故だ…意味がわからない。
俺がわざわざドッチを選んだ意味を聞いてはくれないのですか…?


こんなことなら織田のこと追い掛けてれば良かった。




「口ほどにも無かったねー」

「…俺は役に立った、のか…?」

「んー、全く!」

「ですよね!!」

フォローもなく笑顔でそう言われ俺は項垂れた。

例の3年生達との後半試合は織田が居なくなってちょっかいを出す必要が無くなったのか、誰も怪我することなく無事に終わった。なんなら余裕で勝った。
織田が酷い目にあったせいか、表面上は変わりなかった律が今までのは手加減してましたばりに本領発揮したのだ。

実は怒ってるのかも知れない。律は笑顔だけど内心キレてるなんてことたまにあるし。

先輩だということを気にすることなく容赦なくボールを奪いどんどんシュートを決めていった。俺がしたことと言えば、律から2〜3回パスを貰って石田くんに渡したくらいだ。

てか石田くん実はバスケ部向いてんじゃねーの?何気に上手い。律に良いとこ見せたいのかもな。


「なあ…織田帰ってくるの遅くない?」

「うん、さっきから電話してるんだけど、全然出ないんだよねえ」


3年生達との試合を勝ったことで、次の試合が決勝戦となった。
俺と律は決勝戦の相手が決まるまで観覧席で時間を潰すことにしたのだが、バトンタッチと出て行った織田が全然帰って来ない。

一応薫くんを探したが、薫くんの姿も見えなかった。


「……律」

「んー?」

隣で律が携帯を見ながら清涼飲料水を口に含んだ。

「お前の元カレでさ、薫くんってやつ居ただろ?」

「薫クン?……さぁ、誰だっけ」

「お前が一番最初に男に目覚めた相手だよ!」

「言い方。…あ、思い出した!薫ちゃんね〜、居たね〜。そんな子。てかなんで智ちゃんが覚えてるの?俺の元カレ覚える気ゼロだったくせに」

ペットボトルから口を離して律が不思議そうな顔をした。

「この間会ったんだよ。お前のことまだ好きみたいだったぞ」

「マジー?もしかしてヨリ戻したいって言ってた?」

「その通りだ。よく分かったな」

「なんか最近そういう子多いんだよね。でもそれがなんで智ちゃんに?関わりないよね?てゆかこの前っていつ?」

お、おお?なんかすごい質問責してくるな。
自分から話題を出しておきながら少したじろいだ。

「ほんと数日前だよ。洗濯機回してたらバッタリ。でもそれはどうでもいいんだよ!それよりあいつ、織田のこと逆恨みしてそうな感じでさ…ちよっと律から言ってやってくれない?」

俺の恋人に手を出したら許さない、とか。臭すぎだろうか。

「それは別にいいけど…俺がそんなこと言っても火に油を注ぐようなもんだと思うよ?」

「…マジ?」

「多分。ていうか、あの子そんなこと言ってたんだ〜、なんか小狡そうなとこあったもんねぇ。…うん、そっか。今度それとなく注意しとく」

「ホントか!」

体を前のめりにさせて律に顔を寄せた。
律に注意して貰えれば薫くんも少しは目を覚ますかも知れない。元恋人とヨリを戻せないと分かるのは悲しいかも知れないが、それとこれとは別だ。あんな他人を使って陥れるようなやり方、例え子供染みた内容だったとしても正直最低だと思う。


「顔、近…。でも智ちゃんがそんな心配してるなんて意外〜」

俺の急接近に驚きながら律が、俺のほっぺを親指と人差し指でギュッと潰す。

「んむ!?」

「やっぱりなんだかんだで仲いいんでしょ〜?玲哉が俺の恋人なの忘れてない?妬いちゃうよ?」

とは言いながら、律を見ても怒ってはいないようで笑顔のままだが、頬を挟む指が割りと痛い。たまらず両手で律の手を掴んで無理矢理離す。

離れる際に律のどちらかの指が、俺の唇を掠めた。


「仲良いとかそんなんじゃねーよ…!でもお前の恋人だから、俺も一応、気になるじゃん」

「えー、そーかなあ。俺は智ちゃんの恋人なんて気にならないよ」

「俺恋人いねーし」

「あっそうだった!ゴメンゴメン」

「おい」

ワザとらしく目の前で手を合わされ謝罪のポーズを取られるが、嫌味にしか聞こえない。喧嘩売ってんのかコラ。


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