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問題の試合相手は、俺たちからすれば先輩にあたる3年生だった。


皆一様に体格が良く、俺なんて突進されたら吹き飛ぶ自信があるような相手だったが、トーナメント方式なのでお互い勝ち進めばやりづらい3年生とも対戦することは避けられない。ただそれだけならまだ良かったのだ。

「あれ、明らかに当ててんじゃねえか!」

可愛い系の奴らが非難していたように、対戦相手の3年生は審判から見えないように律たちに幾度となく接触を繰り返していたのだ。1人だと言うのに思わず声に出るほどカッとなってしまったが、接触は反則の筈。

しかも律たち、というか何故かターゲットにされているのか織田への接触が嫌に目立つ。

とは言っても審判はこの競技に一番詳しいバスケ部員。おかしいことは気付いているのか何度かホイッスルを鳴らして注意を促すが、上下関係の激しい男子校のガラの悪そうな最高学年から「やってませーん」「勘違いでーす」と言われてしまえば相当強い精神力が無いとそれ以上言い募れないみたいで審判も軽く涙目だ。体もあまり大きく見えないしもしかしたら1年生なのかも知れない。
公式試合ならまだしも校内の球技大会で、こんな訳のわからない試合の審判をさせられて君も可哀想にな…


「あっ、また!」

声変わりのしてないような声が一斉に悲鳴を上げた。

同情の意味を込めて審判を見ていたがいつの間にか再び織田に接触が起きたらしい。
当たりが強かったのか、いくら見た目より筋肉が付いている織田とはいっても基本的に細い体だ。無様に倒れるようなことは無かったが衝撃に耐えきれず床に両膝がつく。さすがにこれには審判が笛を鳴らし、すぐに律が駆け寄ったがその手を無視して織田は立ち上がり、忌々しそうに3年生の元へ歩いて行く。

え…おい、マジか。相手3年だぞ、まさか織田の得意な暴言を吐き散らすつもりか?気持ちは分かるけど、ちょっと落ち着けよお前!

普段の織田を知っているだけに内心ヒヤヒヤして見ていると、3年生の前で立ち止まった織田は何かを口にする。苛立ちを隠しもしない顔立ちから想像するに多分「なんのつもりだ?ふざけんな。伸すぞコラ」かな。最後の言葉は俺の勝手な予想。

「ーーー」

それに対してやはり何を言っているのかは聞こえないが、当の3年生達が、嫌らしくニヤニヤ笑いながら織田に言葉を返していた。


…なに?
なにを言われたんだ?

居ても立っても居られず俺はベンチを離れ、コートのある下へ階段を駆け下りる。試合中なのは自分のクラスだし、近寄るのは問題無いはずだ。コートの傍まで降りると、そのまま再びホイッスルが鳴りハーフタイムに入った。要は休憩であるが、ちょうど良かった!

律達がコートの外へ出てきたので俺もすぐに駆け寄っていく。

「おい!大丈夫か?」

ドッチに励んでいるはずの俺の突然の登場に2人とも驚いたようだったが、織田はすぐに機嫌の悪そうな顔に戻る。

「これが大丈夫そうに見えるのかよ」

「玲哉、俺ちょっと審判と話してくるよ。さっきの以外にも結構接触あったでしょ」

「いや、無理だろ。接触っちゃ接触だけど、あんな分かりづらいやつ。よくやるよ。それにあいつ1年だろ?」

「ん〜、そうなんだよね。ちょっと気の弱い子で…まあとにかくちょっと相談してくるから」

困った顔をしながら律は織田の元を離れ、同じ部員である審判の元へ駆けて行った。自分の恋人の痛々しい姿に胸を痛めてるんだろうな。分からなくも無い。


「なあ、織田さっき先輩達に何て言われたんだ?」

「さっき?」

1人残った織田に尋ねるが、無表情で首を捻る。つい先程のことをもう忘れたのか?とドン引きしそうになったが、俺の言っている意味が分かったのか、ああ、と言葉を続けた。


「律と付き合ってると痛い目見るぜ。はやく別れろよ、つってた」

「……ほう……また典型的な…」


さして興味も無さそうに、録音したように3年生の言葉を繰り返してくれたが、一体どういうことだろう。

なんでここで律の名前が出てくるんだ?

痛い目見るぞなんて、俺が良く可愛い系に呼び出されて言われていたような脅し文句じゃないか。

あんな律信者でもなさそうな先輩の口から飛び出す言葉としては違和感しかない。……それとも、実は律が好きとか?その場合彼らは律をどうしたいんだろう。多分掘らせては貰えないよ?先輩たちがそっち側?


…いや、ちょっと待てよ。

ーーー可愛い系?

どうでもいいことを考えていた俺の脳裏に、数日前に絡んだ美少女と間違えるような可愛い男子生徒と交わした言葉がよぎった。


『…でもぼくはあんな顔だけのやつ認めない…絶対に』


バッと勢い良く先程まで居た観覧席に目を向ける。
ハラハラしているバスケ部員達や、俺の悪口を言って居たやつら、そこから少し離れた場所に先日不穏な言葉を吐いてきた薫くんの姿を見つけた。

壁に背を預けるように佇んでいる姿はどこからどう見ても美少女なのに、立ち姿がニヒルでアンバランス。それが余計に俺の目からは目立って見えてすぐに分かった。

薫くんもこちらを見ていたのか観覧席を見上げた俺と目が合うと、にんまりと気分の良くない笑みを浮かべる。


…あ!

あーーーー!!あいつ…!あいつか!
なにお約束なことしてんだよ!?

あまりにもベタな悪役のような笑みを浮かべるものだがら、瞬時に薫くんの仕業だと理解してしまった。もう少し推理めいたことでもしようかと思っていたのに。
どうせ可愛い薫くんに頼まれて3年生の先輩たちは織田にちょっかいを出してきたのだろう。あんだけ可愛けりゃちょっと目を潤ませてお願いすりゃイチコロだ。明解も明解。俺は引っかからないけどね!

でも俺に対してあんな台詞を吐き捨てておいてバレないとでも思ったんだろうか?それかバレてもいいと思ってるのかもしれないな。


とにかく原因が分かったのならば善は急げと織田に言うのを忘れてい……不確定要素が多すぎて、敢えて!敢えてまだ言えてなかったことを伝えた。


「織田、お前律の元カレから逆恨みされてるわ!」

「……ハァ?」


突然の言葉に意味がわからないと顔を歪めるので、仕方なく先日あった事を掻い摘んで説明していく。

最後に解決策として「薫くんは律の元カレだから律が戻ってきたら止めさせるよう俺から言うよ」と言うと織田はまた無表情になって、先程俺が見上げた場所を見上げ、

「あの壁際にいる女みたいなやつか?」

と聞いてきた。

女みたいってお前が言うか?という言葉を飲み込んで俺が頷くと、織田は口角を上げて面白いものでも見つけた子供みたいに笑った。

「…!」


ーーー言葉を間違えた。
子供はあんな邪悪に笑わない。

被害者なのは織田なのにその悪魔の笑みを見た瞬間「あれ?俺もしかして言う相手間違った?律にだけ言ったほうが良かった?」なんていう思いと共に「薫くんがやばい」という加害者を心配するなんていう感情が湧き出て変に焦った。


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