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3

俺たちの仲の良さはそれはもう教室で机も隣同士という仲の良さである。

2年に上がってからよくあるくじ引きで席順を決めたのだが、当初俺と律はだいぶ離れた席だった。
だけど、俺は必ず律と隣同士になることを確信していた。

そう、人はそれを運命と呼ぶ。

なんていうのは勘弁して欲しいので実際の話をすると、律は己の学校内での人気を利用して俺の隣の席だった石田くんに、石田クーン!俺お願いがあるんだけど聞いてくれる?あのねー、この席と俺の窓際の席変わって欲しいんだけど…だめ、かな?
なんて爽やかな笑顔で拒否権のないしかも相手にとっては窓際という素晴らしい席という好条件を盾にむしり取った運命である。

つまり運命じゃない。
イケメンの顔面権力誇示だ!!

もちろん石田くんは顔を真っ赤にして、勢いよく顔を上下に振ってそそくさと机を離れた。

そして俺たちはまた隣同士という超絶仲良しな状況に陥っているわけである。

律ファンなら泣いて喜ぶ奴のこの行動。律のただイケメンなだけでなく心底面倒くさい部分もたくさん知っている俺としては教室の席くらい離れたいのが本音だ。

しかしこの律の謎の仲良し行為は中学に入ってからずっと続いているので今更特に言うことはない。
俺が何を言ったところで律は言うことを聞かないし聞いた試しがない。
まあこいつは俺のことが大好きなんだから仕方ないか。

「ん?なんか智ちゃん調子乗ったこと考えてた?」

「え…なんで分かんのよ」

「野生の勘?」

怖!!!
つーか野生の勘って…ボンボンの癖になにふざけたこと言ってんだこいつ。どこが野生だよ。完全な温室育ちじゃねえか。

と、心の中で暴言を吐くが口には出さない。もうそろそろしたら朝のホームルームのチャイムが鳴るし先生もくる。

そもそも律と言い合う元気はもう、ない。


「智ちゃん冷たいな〜、もっと俺に優しくして」

ないというのに、律は暇なのか机に片腕を伸ばしてその上に頭を置いた気怠げな状態で俺に話しかけてくる。
なんだ、そのやる気のない格好は。


「はあ?…じゃあ優しくしてくれる可愛い子でも紹介してやるよ」

「俺以外に友達いないのに?」

「もうやだ、なにこいつ。泣きたい」

「泣いて泣いてー」

きゃっきゃと喜ぶ律をギッと睨むと同時ぐらいにチャイムが鳴った。笑っていた律だったが、それを合図にのそのそと面倒くさそうに体を起こす。そのまま、ふわあ…と欠伸をした。

相変わらず自由で呑気なやつめ。


しばらくするとガラッと扉が開いて見慣れた先生が顔を出した。
この先生、名を橋本という。
黒縁メガネのよく似合う橋本先生は、みんなからハッシー先生と愛称で呼ばれてるもののそこまで生徒たちから愛されてはいない。
先日40歳になったばかりのこの先生はとにかく適当だ。
一年の時も担任だったが、とにかく生徒に興味がないというか、生きててくれりゃそれでいいぐらいのノリで接してくる。

俺としてはそれぐらいの方が楽でいいから、嫌いじゃないが、少しは興味ないの隠せよ、とは思う。

そんな、なんで教師になったんだぐらいの無気力ハッシー先生だが、なんだか今日はすこぶる機嫌がいい。
スキップしそうなくらい軽い足取りで教壇に立つと、にっこり笑顔で俺たちを見た。

ハッシー先生のあんな生気に満ちた笑顔初めて見たぞ。今日は雪でも降るのかしら。
ついに結婚相手でも見つかったのか。

なんて律のことを言えないぐらい呑気なことを考えてたいた俺だったが、その予想は俺の遥か上を行った。

「よーし、お前ら。今日も生きてるな。うん、よかったよかった。今日はお前らが生きてて良かったと思うくらいビッグなお知らせがある」

ゴクリ…


「転入生を紹介します!!」




マジかあああああああああ!?!?

一瞬の沈黙ののち教室がドッと興奮状態に包まれた。
先ほども言ったが閉鎖的なこの学校。外からの刺激は通常の10倍ぐらいの威力があると言っても過言ではない。

例え入ってくるのが、吊り目巨乳のアー!あんた今朝の…!とか言って指差してくるような女の子なんかじゃなく、むさ苦しい男だったとしても、だ!

しかも、転入生が入るとなると、どこからともなく事前に噂が風に流れて耳に入ってくるのだが、今回はそれが一切無かった。
もちろんそれはクラスメイトも同じだったようで、驚きを隠せないみたいだ。

教室内が異様な熱気に包まれる。

「転入生ってマジかよ」
「なにあのハッシー先生の笑顔」
「もしかしてやばいくらいイケメンが入ってくるとか」
「イケメンでハッシーが喜ぶわけないだろ」
「え、じゃあもしかしてめっちゃ可愛い系とか!?」
「やべー!それやべー!絶対それだ!」
「たまんねー!!」

教室中がザワザワと思い思いの予想を口にしている。ちなみに俺もハッシー先生の笑顔からして、可愛いメンズが入ってくるに一票だ。

チラリと横を見ると、案の定律もキラキラと期待した目で転入生が待機しているであろう扉を見ていた。
想像通りすぎる反応に思わず笑みがこみ上げる。


「あー、はいはい。お前らちょっとうるさい。…おーい、織田ー。紹介するから入っておいで」

ハッシー先生が扉に向かってそう声をかけた。
俺たちはサッとお喋りを止め、一斉に扉の方を見つめる。一点集中だ。

全員の視線が集中するなか、我が校のスラックスに身を包んだスラリとした足がまず見えた。

ただでさえハッシー先生がハードルを上げていたので、正直俺も相当可愛いメンズが入ってくると想像していたが、それは良い意味で裏切られた。

その転入生は物怖じすることなくサッと教壇まで歩いてくると、顎を上げ俺たちの方に体を向けた。

その瞬間だ。

多分俺だけじゃない。
この場にいる全員が、スッ…と息を飲んだ。

ゴクリとどこからともなく嚥下する音が聞こえる。
それほど、この空間は無音で緊張が張り詰めていた。



「………キ、レー………」



思わず溢れてしまった呟き。

一瞬誰が発したのか分からなかったが、すぐにそれが自分だと気付き俺は慌てて口を抑えた。

しかし、そんな俺の呟きはこの無音な空間では相手まで届いしまったようで、教壇の上の彼と視線が交差した。

「!」

ドキッとはしなかった。

ただ、ギョッとした。

こんな生き物が地球上に存在してたのか…


そんな臭いセリフが脳裏に浮かんでしまうくらい彼はーーー気高く美しかった。



交差した視線は時間にして2〜3秒。
それなのに、その時間は永遠のもののような気がして、だけれど一瞬で彼は視線を逸らせてしまった。


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