2 あり得ない台詞につい大きな声が出た。 周りで洗濯の終わりを待っていた生徒が何事かと振り返る。 それに対してすんませんすんませんと謝りながら薫くんに向き直った。 「ちょ、ちょちょっと待って。誰が誰を好きだって?」 「だから、キミが!律くんのことを好きなんでしょ?キミがしつこくしてるから律くんも仕方なく一緒に居てあげてるんだよね。それならあの転入生のことだって憎いんじゃないの?」 「えぇ………」 見当違いも甚だしい。 てか、俺って周りからそんな風に見られてたの? 1年生の時にも律ファンだと思しき薫くんのようなチワワ男子ーズに「あんた邪魔なんだよ」とか「目障りだ」とかよく言われたけど、俺が律のこと好きで纏わり付いてるから邪魔だってことだったのか。 なんで友達として傍に居るだけで見ず知らずの人間にそこまで言われねばならんのだコンチクショーいつか痛い目見ろ!と思っていたが… なるほど。それなら納得だ。 気持ちいいくらいの勘違いだけど。 「あのさ…悪いけど俺、女の子が好きなんだよね。律とは小さい頃からの幼馴染で一緒に居るだけだよ。律が織田と付き合おうが君とヨリを戻そうが俺にはなんの関係もないよ」 「……ふーん」 ちょっと感じ悪いかな、と思いながらこれ以上勘違いされては困ると思ったことを全て言った。 薫くんは大きな目をパチクリとさせ、それからスッと冷たい表情になる。 「!」 一瞬のうちに変わった顔付きに、驚いた。 同時に薫くんの前にあった洗濯機が洗濯の終了を知らせて、自分の使用していたものだったのか電子音に反応して薫くんがゆっくりと立ち上がった。 「使えないやつ…」 ボソリと呟かれた台詞。 女の子みたいな容姿から発せられたとは思えない低い声に薫くんを見上げると、汚いものでも見るかのような冷たい目で俺を見降ろしていた。 織田にもよく冷めた目をされるけど、あれとはまた違う、凄く嫌な気持ちになる目だ。 「キミが役に立たないことはよく分かったよ。…でもぼくはあんな顔だけのやつ認めない…絶対に」 酷く抑揚のない声で言うと、薫くんはすぐに俺の傍を離れて洗濯物を手早く取り出すと、この場から姿を消した。 「………なんだ、あれ」 1人残された俺は呆然とするしかない。 認めないって何をする気なんだ? 俺は平凡野郎だったから、呼び出されて文句、罵倒を浴びせられる程度で済んでいたが、織田はどうだろう。 織田のような飛び抜けて顔の綺麗な奴がそれだけで済むだろうか。 ああいう奴らは集団でやって来るから厄介なんだよな。 閉鎖的な空間でターゲットにされる顔が良く可愛い奴らは、下品な苛めを受けたりもするらしい。実際見たわけじゃないけど、この学校ならあり得そうでゾッとする。 男は男の中で磨かれる、なんて上辺だけだと思う時がある。 磨かれればいいが、潰れてしまう子だっていっぱいいるんじゃないかと陰湿な話を聞くと感じてしまう。 ーーー織田は、大丈夫だろうか。 もちろん潰されるようなやわなメンタルはしてないと思うし、何かされると決まったわけではないが、俺は薫くんの冷酷なまでの表情を思い出して、どうしようもなく胸がザワザワするのを感じていた。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |