1 部屋干しはあまりしたくないが、朝する時間が無いので俺は洗濯物を誰でも使える洗濯機コーナー、要はコインランドリーみたいな所に持ってきていた。 本物のコインランドリーとは違い、コインは要らない。空いてたら勝手に使えるシステムだが、みんなここをコインランドリーと呼ぶので俺も見習ってコインランドリーと呼んでいる。 放課後ということもあり、見渡すと何人か既に使用しているようで中央のベンチで各々携帯を弄ったり本を読んだりして終わるのを待っていた。 空いてないかも、と一瞬不安になったが奥の方が一つ空いているのを見つけて直ぐさまそこに向かい、バコッと透明な蓋を開ける。 1年の時からお世話になってるメーカーの洗濯機だ。使い方はもう完璧。 持ってきた袋の中からどんどん洗濯物を入れて、そばに置いてある洗剤や柔軟剤など必要なものを入れ蓋を閉めた。 あとはいつものようにボタンを押して完了だ。 「よいしょ」 俺は空いている場所を探して、お爺ちゃんのような声を出しながら腰掛けた。 この階は2年生専用のコインランドリーだから、下級生も上級生も居ない。だから気が楽でいいのだが、見知った顔は1人も居なかった。 とは言っても俺がフレンドリーに話しかけられる相手なんて、律くらいしか居ないが……あと、織田? 織田を頭数に入れるのは悩むな。 あいつ、友達って感じじゃ無いし、ただの同室にしては俺ちょっと世話焼き過ぎって感じもするし。冷静に考えると我ながらオカン感が凄い。 でも、昨日俺の作る飯は美味しいって言ってくれた。 普通に美味い、と。 普通に、といちいち付けてくるのが可愛げのない感じがするが、それはそれで逆に信用できる。あいつ素直じゃ無さそうだしなー。 昨日の出来事を思い出して、つい頬が緩みそうになっていると、突然横から声を掛けられた。 「キミ、ともちゃん、でしょ?」 「へ?」 パッと顔を上げると隣にめちゃくちゃ可愛い女の子が座った。美少女だ!…とテンションが上がりそうになった俺だが、直ぐにここが男子校だと思い出す。 訂正しよう。 めちゃくちゃ可愛い、男の子だ。 男だと分かった途端、正直あまり可愛いと思わなくなったが、織田には劣るものの充分整った顔立ちをしていて可愛いと分類される、律が好きそうな顔をしていた。体つきも女の子のように小さく華奢だ。 律ならまだしも、俺にこんな可愛い系の知り合いなんていないけどな…なんて首を捻っているとそいつはもう一度俺の名前を口にする。 「やっぱりその顔、ともちゃんだ。ぼくのこと、覚えてない?」 「え、…うん。ごめんけど、思い出せない」 申し訳ないね、という顔を作りながらその子を見ると、チワワみたいに首を傾げた。律がいつもやるようなやつとは違い本当に可愛いやつだ。目が大きいから本当にチワワみたい。これで目が潤んでたら完璧だな。 「ぼく、律くんの元カレの薫だよ。キミとも挨拶したことあるんだけど」 「薫、くん…?」 薫、かおる、カオル……そういえばそんな女みたいな名前の子がいたような。律の元カレ多過ぎて覚えてないんだよな。 腕を組んで考えていると、薫くんは少しイラついたように身を乗り出してきた。 「一応この高校で律くんと、最初に!付き合ったんだけど」 「あ!あ〜〜わかった!わかった!カオルちゃんね!そうだそうだ。思い出した。スッキリした〜」 「…薫ちゃん、か。律くんがよくそう呼んでくれてたっけ…」 少し寂しそうな顔をして遠くを見るカオルちゃん、もとい薫くん。 というか、いきなりそんな感慨深い顔をされても…。なんなら律は基本みんな、ちゃん付けで呼ぶし。 そういえば、抵抗されたからとはいえ、織田だけだな。ちゃん付けしてないの。 遠い世界に行きそうになっていた薫くんだったが、再びぐっとこちらに近付いてきた。男の匂いとは思えないようなフローラルで甘い香りがする。女物の香水でもつけてるんだろうか。 「ねえ!キミいいの?あんなポッと出に律くん取られて」 「ポット?de?何言ってんだ?」 「何言ってんだじゃないよ!キミのところに入ってきた転入生!本当は律くんと付き合ってるんでしょ?」 「あ、そうそう!そうなんだよ!俺じゃなくてね、律と付き合ってんの」 本当は、と言ってくるということは俺との噂も聞いたということだろう。 意外と早く俺と織田の仲が誤解だってことが広まってるみたいで嬉しくなった。 律がちゃんと言ってくれてるってことだな!ナイス律!と心の中で喜んでいると薫くんはキッと俺の顔を睨んだ。 「しっかりしなよ!…ぼく律くんがまたフリーになったって聞いたから、ヨリ戻そうって言おうと思ったのに…あんな突然表れた人に取られるなんて…」 「お、おう…それは残念だったね」 まあそれを俺に言われてもどうしようもないんだけどな。 それに律が今まで誰かとヨリを戻したことなんて一度もない。別れたらそこで終わり。逆にそんなことを言われたら余計に冷めるって言ってた。 「……キミはそれでいいの?」 「?いいもなにも、律の勝手だろ」 「え……キミって律くんのこと好きなんじゃないの?だからいっつもくっついてるんでしょ?」 「…はあ!!?」 もどる | すすむ | 目次へもどる | |