2 俺の親友はイケメンだ。 なんでこんな平凡な俺の友達なのか、何か弱みを握られているんじゃないか…と周りから疑われるレベルで男前なのだ。 身長も184cmとかなり高く、筋肉も程よくついている。女の子がよく好きだと言っているソフトマッチョってやつだ。 少し垂れた二重の瞳に、綺麗に整えられた眉。少し鷲鼻気味であるが高い鼻と、形の良い唇。よく芸能人に間違えられるレベルのオーラを放っている。 俺も男の嗜み、と眉毛と髪の毛はそれなりに整えているのだが、どうしてか親友のようなイケメンにはなれない。よく言って小綺麗な普通の人、だ。 く、そ…………イケメン滅びろ…… おっと。つい本音が。 とまあそんな感じで俺の親友は腹が立つほどに見目麗しいのだが、はて。俺は何故こんなにも律のことを褒め称えてるんだ?というかそもそもなんで俺はこんなこと考えてたんだっけ。 脳が現実逃避してる。 今日はなんの日だっけ? 「智ちゃーーん」 つい無視したくなる声に俺は、ああ、そうだった、と気付く。脳が急速に現実に戻される感覚だ。 「智ちゃん待ってよ。置いてくなんてひどくなーい?もー」 間延びした問い掛けに、チラリと横に並んだ男を見て「わりぃ、忘れてた」と返した。 そう。今日は親友(ウザイ)ーーー浅倉 律と一緒に登校すると約束してしまった日だ。 「忘れないでよ」 「すまんて。おは」 学校規定の制服に身を包んだ律は相変わらず格好いい。腹立つから口には出さないが、多分この学校で一番着こなしてるのはこいつだと思う。親友という色眼鏡無しで見てもスタイルは抜群だし何着せても似合ってしまうやつだ。 朝から無駄に笑顔を振りまく律に、朝からそんな笑顔の大盤振る舞いして疲れないか、と心の中で思うがいちいち口には出さない。 律に合わせることなく俺はさっさと歩き出す。しかし俺の歩く速度になんなくついてくる足の長さに若干イラッとした。 「なんだよ、その足の長さは。舐めてんのか」 「は?なに?智ちゃん朝からピリピリしてるねー。カルシウム不足?ちゃんと牛乳飲んだ?」 「飲んだよ!毎日コップ3杯は飲んでるよ!」 「やっぱり牛乳飲んで背が伸びるって嘘なのかな〜」 「ころす」 「うそうそー!朝からそんな物騒な単語吐かないで。こわー」 律が隣でわざとらしく口に手を当てて、怖がる仕草をする。それにもイラっとして俺はさらに歩みを早める。 そもそも俺はチビじゃない!やつが高過ぎるだけであって、俺は平均だ!普通だ!170cmこそ無いものの168cmで、……うん、ほんとね。170cmは欲しかったよね。 「ところでさー、智ちゃん」 俺がピリピリしてるのを全く気にして無い様子で律がこちらを見る。 「E組の鈴元ちゃん知ってる?」 「あ?鈴元?………あー、ああ、うん」 「この前初めて話したんだけど、あの子、可愛いよね〜」 【男子校】のE組にいる鈴元くんね。 はい、ここ重要でーす。 男見たって可愛いなんて思わねえつーの。 しかし俺のゲンナリの原因である親友。この学校に染まってしまった律は、この学校に入ってから、もはや何人の男の子と付き合ったか数え切れないほど手を出しまくってる。 俺も律に紹介されて最初の3〜4人は覚えていたが、5人目くらいから面倒臭くなってやめた。どうせ俺とは関わりねえし、そもそもすぐ変わるし。 ちなみに相手はみんな目が大きくてまつげの長い、律曰く可愛い男の子ばっかりだ。 今日も元気に気に入った可愛い男の子の話をしてくるんだから、律ってばほんとお茶目さん☆ まあ、元からそっちの気があったのかもしれないが、中学までは普通だった。 なにをもってして普通というのかと道徳的に語ればキリがないが、まあ社会の大多数と同じ異性である女の子が好きで、女の子と付き合っていた。 中学生で付き合うなんて生意気なやつだが、まああの見た目なのでそれはモテた。同学年はもちろん年上のお姉さま、少々犯罪くさい年齢の方たちとも仲良くしていたような気がする。 「鈴元ちゃん彼氏いんのかなー?ねえ、智ちゃん。どうおもう?俺いけるかな?」 だが、この学校に入った途端これだ。 正直多分こいつは相手が男だろうと女だろうと関係ないんだと思う。 可愛いか可愛くないか、それだけだ。 律は引くほど面食いなのだ。それはもうあからさまに。可愛い子ダーイスキ、だ。 まあ、別に律が同性を恋愛対象なのは問題じゃない。恋愛は自由だし、偏見はない。 ただ、迷惑なのがひとつだけ。 「鈴元に彼氏がいるかどうかは知らんが、まあお前ならいけるんじゃねーの?顔だけはいいんだし」 「顔だけー?体もけっこういい線いってると思、ブッ」 セクハラ発言をサラリと言う親友の顔を持っていたカバンで殴った。 感謝しろよ、勉強道具もなにも入っていない軽〜いぺらぺらのカバンにしてやったんだから。 「イッター!!!智ちゃんひど!!俺の綺麗な顔が潰れたらどうすんの!?」 少々赤くなっている鼻の頭を押さえて律が詰め寄ってきた。 いつも律がつけてる優しい香水が香った。 「責任とってくれる?」 「どう責任とるんだよ」 「俺と付き合うという責任の取り方はどーお?」 ニコッと他人が見ればドキッとするような爽やかな笑顔で律が笑う。 しかし、そんな笑顔を見慣れてる俺はその手には乗らない。伊達に何年も一緒に居ない! 「出たよ。ついさっきまで鈴元がかわいーだのなんだの言ってたのに乗り換え早くね?」 「鈴元ちゃんは可愛いけどー、今は智ちゃんがいいー」 「俺はよくない」 「いいじゃん。一回ヤったら意外といいかもよ」 「ヤッ………!?ヤるとか言うな!!」 「えー、智ちゃん照れちゃって可愛い。ね、キスだけでもしてみようよ」 「は!?しねーし!俺の話聞いてる!?」 「智ちゃん」 さりげなく壁に追いやられた。これはあれだ。よくある、壁ドン的な態勢だ。 なにが嬉しくて同い年の、それも男に壁ドンされねばならんのだ…。逆だろ。 いや、逆もおかしいけど。 「おい…やめろよ…律。落ち着け。最近彼氏と別れたからってご乱心はやめろ」 そう、律は彼氏と別れてフリーになった時が本当の意味で俺の迷惑度数を振り切る動きをするんだ。 「お前ならすぐ次ができる…落ち着け…鈴元もお前がちょっと言えばコロリと…」 「俺は。智ちゃんがいいっていってんじゃん」 「だから俺は良くないって言っ…ギャァァァア!!?」 まじでキスされそうになって俺は慌てて顔を背けた。しかしそれが良くなかった。 避けたことに気付いて、律はそのまま目の前にある俺の頬っぺたにチューしやがったのだ!!! 柔らかい感触にゾワワと鳥肌が立った俺は転がるように律の腕の間から飛び出した。 「やめろって言っただろ!!?」 もはや半泣きでゴシゴシと頬っぺたを拭く俺を見て、そんな嫌がるの智ちゃんだけなんですけどーと不満げにぶーぶー言ってくる律を心の中で3回くらい殴った。 と、まあこんな感じに俺に多大なる被害が及ぶのだ。迷惑極まりないだろ。マジで。 なに考えてんだこいつ、て感じ。 なので以前「なんでこんなことすんだ!」と問い詰めたら、律は何のためらいもなく、 「彼氏居なくて寂しいからさー、智ちゃん俺に落ちてくんないかなーて」 とそれはもう不純で不愉快な動機をサラリと言ってのけやがったのである。 好きだから、と言われたならまだしもなんだその理由。いや、好きだと言われても正直困るがそれにしたってなんだその理由。 果たしてクズなことを言ってる自覚はあるのだろうか。 そもそもお前は可愛い子が好きだろ!平々凡々な俺は範疇外だろ!例外なんて作ってくれなくていいんだよ!!! 「あーあー、いつになったら智ちゃん俺に落ちてくれるの?」 「そんな可愛く首かしげたって、可愛けれりゃ誰でもいいなんてやつには絶対落ちません」 「誰も智ちゃんのこと可愛いなんて言ってないけど」 「もうお前とは一生口聞かない」 「やだー!智ちゃんのバカ!そんなんじゃ一生童貞処女のまんまだよ!」 「童貞は嫌だけど一生処女でいいわボケ!」 お母さま。これがあなたのお気に入りの律くんと息子の最近のお戯れですよ。 なんだかんだで、律はウザイけど今日も平和です。 とりあえず早く律に彼氏を見つけないと俺が食われそうです。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |