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4

「末永ー…は、いるかー?」

「へ?あ、はい!いますいます」

朝のホームルームが終わった直後ハッシー先生がキョロキョロしながら俺の名前を呼んだ。いい加減俺のいる場所を把握してほしい。

教卓にいる先生の元へ小走りで向かうと、先生はいつもの黒縁メガネと気怠げな表情で俺の存在を確認する。

「今日の帰りのホームルームで球技大会の種目分けするからよろしく頼むぞ、委員長」

「もうそんな時期なんですね」

「そうそう。来週だからなー。面倒臭いよなー。席順の紙いるか?」

「いります!お願いします」

面倒臭いって言うのは多分教師が発していい言葉ではないと思うが。
それでもクラスメートの顔を完全に把握していない俺にとって席順の紙は非常にありがたい。ハッシー先生は、黒い名簿のファイルから一枚ピラッとA4ほどの紙を手渡してくれた。

「助かります」

「いい加減クラスメイトの顔くらい覚えろよ?」


先生にだけは言われたくない。

去年俺の顔と名前を把握したのだって半年くらい経ってからだった。未だに俺はあの日受けたショックを忘れてないからな。

「ところで球技大会って何々あるんでしたっけ?」

「あーーー…その紙もやるよ」

ハッシー先生も覚えてないのか、あるいは言うのが面倒臭いのか定かではないが、またもやファイルの中から1枚紙を出して来た。

「ありがとうございます」

サッカー、バスケ、バレーにドッチボール、卓球か。

去年は律がバスケにすると言ったのでバスケにしたものの、足手纏いにしかならなかった。律のおかげで何とか勝てたが、バスケは向いてないと再確認したようなものだ。

…今年は何にしようかな。


そんなことを貰った用紙を手に考えていると、ハッシー先生がジーと俺を見ている事に気付いた。


えっ、なに?コワ。



「な、なんでしょうか…?」

「いやー、お前も見かけによらずやり手なんだなーと思って」

「…なんのことです?」


意味がわからない。


首をかしげるとハッシー先生はチラッと俺の肩越しに窓際の辺りに目をやってから、もう一度こちらを見た。


「お前、織田と付き合ってるんだろ?めちゃくちゃ手ぇだすの早いな」


「は!?…あ、いや、先生。それ誤解です!俺は織田と付き合ってなんかないです。というかどこからそれを…?」

「違うのか?職員室でもその話題で持ちきりだったぞ。…でも違うなら良かった。俺にもまだチャンスがあるってことだな」

「へっ………」

うわ、いきなり男の顔すんな!気持ち悪!つーか狙っちゃ駄目だろ。犯罪だぞ。


ハッシー先生のギラついた男の顔を目撃してしまって、物理的に数センチ引いた。

「いやいや駄目ですよ先生。チャンスなんてないです。あいつはもう律と付き合ってるんで」

「ほう…浅倉と?マジか」

心底残念そうな顔をするハッシー先生。

俺、この先生そんなに嫌いじゃなかったけど本気で生徒である織田を狙ってたんならちょっと引くわ。というか絶賛ドン引き中だわ。


「まあ、でもあれだ。浅倉なら諦めもつくな。んじゃ、球技大会の件よろしくー」


そう言うとハッシー先生はさっさと教室を出て行ってしまった。

諦めって…やっぱり本気で狙ってたんかい。

ゾゾゾ…と背筋が寒くなるのを感じた。
美人過ぎるのも考えものだな。


「智ちゃん?ハッシーなんて?」


ドン引き顔でハッシー先生の去ったあとを見ていたら、いつの間にかそばに来て居た律が俺の顔を覗き込んで来た。


「ハッシー先生…ホモだった…」

「?そんなの今さらじゃない?」

「しかも、織田を狙ってたっぽい」


「あー」


「あー、て!気をつけろよ」

「ハッシー先生より俺の方が魅力的でしょー」

「まあ、そりゃそうだけど…」

「………」


律が何かを言おうとしたのか口を開いたが、すぐに閉じて自分の席に戻ってしまった。

「?」

なんか最近こういうの多いな。変な律だ。


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