3 「いや、なんで、お前も、一緒にくんの…っ?」 「今日の勘違いも絶好調だな。俺が出るタイミングとアンタの出るタイミングが同じなだけだろ」 「………はい、そうですね。じゃあ、お先にどうぞ」 「は?」 「え?いや、だから、先に行けって」 「アンタ俺と一緒に行くのが嫌なわけ?」 「それなんか前にも同じような台詞聞いたな!そもそも最初の日、先に行ったのお前だろ!」 「気が変わったって昨日言っただろ」 い、言いましたけどぉ… 俺たちは狭い玄関の前で文字通り押し問答をしていた。 律に一緒に登校しないで、と言われたので俺はなんとしてでもこいつと一緒に行くわけにはいかない。 それに変な噂が立ってる今、2人で居るとこを見られるのは噂の助長になって良くないと思うんだよ。俺はね。うん。 なのに、こいつときたら。 何がしたいんだ、ほんと。 「昨日噂が立ってたの忘れたわけじゃねえだろ!?お前だって俺とデキてるなんて言われて嫌じゃないの?」 「そもそもどうでもいいだろ。噂なんて。ただの噂なんだから。いいから行くぞ」 「いやなんか格好良い風の台詞吐いてっけど分かってるんだからな!お前が、俺が悪口を言われて楽しんでることくらい!」 「…なんだ気付いてたのか。じゃあ余計気にすることないな」 ヒイイイイイイ鬼かよおおお グイと腕を引っ張られて引き気味の腰が浮く。どこにそんな馬鹿力が眠って居るのか問いただしたい。 織田は俺の腕を掴んだまま目の前の扉を開けた。 「待って待って!俺!忘れもんした!」 「なにを」 「えっ、えっと……………あ!」 廊下に出て往生際悪いとは思いつつも、何とか別々に行く道はないかとウダウダ言っていると、廊下の向こう側から背の高い生徒が歩いてきているのに気付いた。 あんな爽やかで目立つ奴、俺の知ってる限りーーー 「律…!」 律しかいない。 朝練に行ったはずなのに、何故ここにいるのかは謎だが、助かった! 「律!おはよう!」 そう言いながら掴まれていた腕を勢い良く振り解くと、律の登場に気が逸れたのか今度は簡単に離れた。 俺はそのまま律の元まで走り寄る。 「珍しいな、朝練の後にこっち来るなんて」 「うん、早く終わって暇だったから」 短く返すと律は俺から離れて、扉の前にいた織田の元に歩いて行った。 ……ん? 「おはよー、玲哉」 「おはよ。朝練行かなくて悪かった」 「んーん、いいよ。強制じゃないし」 「電話も。サンキュ」 「電話ね〜。何回も切られてビックリしたよ」 俺の時とは違って穏やかに話す織田に、律も笑顔を携えたままにこやかに話している。 いつも通りの2人だし、別に普通だ。 だけど、俺は2人から離れた場所で先程感じた違和感にそわそわしていた。 「じゃあ、行こっか」 「ああ」 2人がこちらに向かって歩いて来る。 織田は言うことを聞かなかった俺のことを綺麗な顔で睨んできた。 やだなー、もう絶対あとでなんか言われるよ… でも今はそれよりも気になるのはこっちの方だ。 「あの、律…」 「?どーしたの、智ちゃん。行かないの?」 「行く、けど…」 横に並んだ時に思わず律の袖を掴んだ。 そんな俺を見下ろして笑みを浮かべる律。なんだかいつもの笑顔と違うような気がするような…そんなこともないような…なんだろ。 袖を掴んだままこの違和感を何と言葉にすればいいのか悩んでいると、律がふっと表情の和らげた。 いや、元から笑顔ではあったので、和らげたというのは違うのかもしれないが、まるで力を抜いたかのように見えた。 「…今日のお弁当なーに?」 「弁当?今日は鯖の味噌煮。昨日の晩の残り物だ」 「えー、いーなー。一口貰お〜」 「……しょーがねーな」 鯖という単語に律の向こうで織田がピクリと反応した。魚好きだもんね。昨日のそんな美味しかったのかね。 袖を離して、もう一度律を見上げる。 そんな俺の顔を見降ろし、目を合わせて、 ーーー律はいつものように爽やかに微笑んだ。 「……なーに?相変わらずイケメンって?」 「お、おお。イケメンな。うん、イケメンイケメン。腹立つくらいイケメンでつい見いちゃってたわ」 「そんな連呼したら適当なのがモロバレなんだけど」 …うん、やっぱり気のせいか。 先程、目を合わせてくれなかったような気がしたが今はしっかりと視線が合う。爽やかな笑顔だっていつも通りだ。 俺の気にし過ぎかな。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |