1 翌朝、突然頭上からけたたましい音量の電子音が聞こえ、俺は言葉通り飛び起きた。 「なんら!?」 寝起きで舌が回らない。 ひとまずベッドから降りると、その電子音は織田の方から聞こえていることに気付きベッドの上部を窺った。 アラームかと思ったが織田のかけていたアラームとは違う音だ。 しかし音量設定が同じなのか、非常にうるさい。 「おーい。携帯鳴ってるぞ」 あまりのうるささに目が冴えてしまった。下から織田に呼び掛けると、アラームの時と同じように素早く手が伸びて音が消えたので、ホッと一息ついたのも束の間、再び携帯が鳴り出した。 消したのに即座に鳴るって…電話じゃね? 「織田ー!アラームじゃねーぞ!電話だ、電話!…多分」 俺の予想が正しければ誰かが織田に電話をかけているものの、織田がアラームと勘違いして切ってるんだ。 その後も鳴っては消すという作業を3回ほど繰り返したあと、4回目が鳴って、さすがに俺はハシゴを登って上段のベッドに顔を出した。 掛け布団を抱き枕代わりに抱いた織田の滑らかな白い足が見える。これがほんとに同じ男の足なのか…とか一瞬考えてしまったがそれどころじゃない。この調子で電話を鳴らされたんじゃ俺が寝られない! 「もー!うるせーから早く出ろよ!」 バシバシと布団を叩きながら叫ぶと、織田はムクリと起きて虚ろな瞳で俺の顔を見ると、自分の携帯を投げてよこしてきた。 「わ、」 一瞬また殴られるんじゃないかと思い背筋が冷える…こいつの寝起きは油断ならない。 ボトッと目の前に投げられた携帯を見ると、やはり着信だったようで画面には律の文字が表示されている。 「あっ、律じゃん!おい、織田!律だって…………んん?」 そういえばさっきまでうるさいくらいに鳴っていたのに目の前の携帯は静かだ。 よく見ると通話中になっている。 こいつ! うるさいからって、通話ボタン押して俺に渡してきたな!つか、律じゃなかったらどうするつもりだったんだ! 織田の適当な対応に若干イラっとしながらも多分俺の声は既に向こうに聞こえていると思い織田の携帯を手に取った。 「律!俺だけど…」 『……智ちゃん?』 「あ、分かった?良かった。ごめん。ちょっと待ってな、すぐ織田起こすから」 『智ちゃ…』 「織田!!お前ほんとにいい加減にしろよ!お!き!ろ!」 「…………うるさい」 「うるさいじゃねえ!」 「朝から…そんな…デカイ声で喋るな…殴るぞ…………」 ボソボソと喋る言葉に冗談じゃない台詞が含まれていて俺は瞬時に織田から身を離した。 やばい、もうやめよ。 俺は知らん。 「もしもし、律」 『…はぁい』 「織田駄目だ。全然起きない。なんか急用、だよな?」 『んー、急用というか。朝練、昨日参加するって言ってたんだけど、まあ起きないなら仕方ないや』 「あ〜!朝練か!…行かなくて大丈夫なのか?」 『うん。朝練は自由参加だから。試合前じゃないし、厳しくは言われないよ……てかさ』 「ん?」 『……やっぱなんでもない。じゃあまた学校で〜』 「お、おお。気になるな。…あとで話せよ!じゃあまた」 やっぱなんでもない、って一番気になるやつじゃん。 歯切れの悪い言葉を残して律は通話を切った。昨日から律と電話してばっかだな。織田の声が聞きたいだろうに、俺でごめん。 携帯のホームボタンを押して画面を元に戻すと、一応かろうじて意識があるでろう織田に声をかける。 「織田。朝練あるらしいけど、今日は行かないでいいんだな?」 「……ん」 「あと、携帯ここに置いとくから」 「………」 返事をしなくなってしまった。 多分もう夢の中だ。人を起こしておいていい気なもんだよ。 …まあ実質起こしたのは律なのだが、律はなんら悪くない。悪いのはさっさと出ないこいつだ。 俺はハシゴを降りてもう一度眠るために、自分のベッドに戻る。 また織田の超絶うるさいアラームで起きる羽目になるのか…と思ったら少し憂鬱な気持ちなった。 ああ、そうだ。しまった。 音量設定勝手にしとけば良かった… もどる | すすむ | 目次へもどる | |