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5

19時を少し回った頃、玄関から鍵を開ける音がして、睨めっこをしていたノートから顔を上げた。
自分の机で明日の予習をしていた俺は、よいしょと腰を上げる。

どうやら織田が帰ってきたようだ。
制服のネクタイを緩めながら部屋に入ってきてカバンをテーブルの脇に投げた。

「おかえりー」

「ん」

短く返事をした織田はシュルリとネクタイを外すと首元のボタンを二つほど外して、すぐさまソファーに倒れ込んだ。

「え?…おい。大丈夫か?」

「……」

「織田?」

「………うるさい…」


駄目だこいつ。
心配している俺に向かって、うるさいとは何事か。

話し掛けるのはやめて俺はキッチンに向かい、味噌汁の入っている鍋に火を付けた。
一応織田が帰って来るのを待っていたが、もう腹ペコだ。

ほとんど出来上がりのミソがかかった鯖も最後の数分だけ煮込む。冷蔵庫にストックしている常備菜も小皿に盛った。

自炊を始めてから世の主婦たちが常備菜常備菜と口を揃えていう気持ちがわかるようになった。あと一品欲しい、野菜も取りたい、そんなときに作っておくと超便利。
いくら料理をするのが好きだと言っても毎日一から作るのは面倒臭い時があるしな。


今日の晩御飯である鯖の味噌煮を中皿に置いて、温め直した味噌汁も器に注ぐとそれを織田が倒れているテーブルの上にどんどん置いていく。
自分の分は自分の定位置の机に置いていると、やっと織田が起き上がった。


「…………サバ……」

ボソリと呟いて目の前に並べられた晩御飯達を眺めている。

「飲み物は自分で入れろよ」

「……アンタ……ほんとに男か?」

「なんだその男女差別的発言。いまどき男も料理できねえと結婚できねえぞ。つーか、この学校そういうの推奨してんの。知らずに入ってきたわけじゃないだろ?」

「俺、お茶がいい」

「無視か。てか自分で入れろって言っただろ!」

とは言いつつも冷蔵庫の近くに居たので、仕方なく織田の分のお茶も入れてテーブルに置いてやった。



「そういえば律は一緒じゃねーの?」

「…部のやつらに誘われて食堂に連れてかれた」

「あー、なるほど」


バスケ部の人達、律のこと大好きだからな。今までも俺と飯の約束してないときは基本バスケ部と飯食いに行ってたし。

心なしか不機嫌そうな顔つきになる織田。やっぱ恋人とは一緒に飯食いたいよな。


「…お前が一緒に食べようって言えば、律はお前のこと優先してくれると思うけど」

「…は?なんだそりゃ。イタダキマス」


口を歪めたかと思うと織田は行儀良く両手を合わせた。


「え?…いや、せっかく付き合いだしたのにバスケ部の奴らに取られて寂しいのかなと思って」


思ったままを口にすると織田は味噌汁を啜りながら、こちらを上目遣いで見る。
あんまり和食とか似合わないな、こいつ。


「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺付き合ってもそんなベタベタしねえから。依存もしねえし束縛も執着もしない」


「そうなの?」

「ライトな関係がちょうどいいだろ。束縛とかマジ勘弁して欲しいし」

でもきっと織田と付き合うと相手は束縛したくなるんじゃないだろうか。律だって束縛とは行かなくても俺なんかに嫉妬したくらいだ。
こんな美人をちゃんと捕まえられとけるか、俺だったら不安になる。


……て、いや!なに自分に置き換えてんだ!ありえねえ。

自分の考えに鳥肌が立った。

いやもう怖い!危ない!
俺は女の子が好きなんだ!

織田はどうも見た目が中性的だから、やりづらい。
これ以上変なことを考えないように俺も晩御飯に手をつけることにした。


今日も相変わらず織田は美味しいも不味いも言わず、しかしあっという間に完食した。
最後もきちんとゴチソウサマと手を合わせて自分の食べたものを流しに持っていく。


「あ、そうだ。織田!」

「なに」

「今日俺、部屋の掃除したから今度お前よろしくな。んでした日にはカレンダーに印しといて。交互にやっていこうぜ」

「……りょーかい」

カレンダーをチラリと見た織田は素直に頷いてくれた。
まあ、文句言われても問答無用でやらせるけど。


「俺、先風呂行くけどソレ食べ終わったら流しに置いといて、洗うから」

「…え!?マジ!?どしたの、そんな優しい台詞吐くなんて…た、体調悪いとか?そういや今日部活初めてだもんな!?疲れ過ぎってやつ!?」

織田から初めてじゃないかと思うくらい、優しい言葉をかけて貰えて俺は衝撃のあまり言わなくてもいいことまでべらべらと聞いてしまった。

後で冷静に考えると別にそう優しい台詞でもないし、俺が作ったんだから後片付けを織田がするのは至って普通のことだったのだが、今までが酷すぎてその時は感動してしまったわけで…

だけど俺のセリフに案の定イラッとした表情になった織田はスッと目を細めて俺を見る。


「…アンタってほんと俺を苛立たせる天才だな」


そんな褒められても。


しかし本当に疲れているのか織田はそれ以上突っかかって来ることはなく、風呂場に引っ込んでしまった。

怒られなくてラッキーだったが、織田らしくない。
そんなに部活ハードだったのかな。



はてなマークが浮かびながらも、俺は残りのご飯を食べ終え織田の言う通りお皿を流しに置いた。
別に洗うことに抵抗が無いので、自分で洗ってもいいのだがわざわざやってくれると言ってきたんだ。

すごい進歩じゃないか。
ここは素直に甘えるほかない!


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