1 「んー!うま〜い!やっぱり智ちゃんのオムライスが一番美味しいよねー」 「一番ってどこと比べてんだ」 「元カレが一回作ってくれたことがあったのよ。作ってくれるって言うから美味いのかと思ったら、これがまた全然で…まあ気持ちが嬉しいんだけどね〜」 ちょっと嘘臭いフォローを入れながら律がほんと美味しそうにオムライスを口に入れて行く。 俺の予想通り19時を少し過ぎて晩御飯ができ上がった頃に律は部屋にやってきた。 そのタイミングで織田も目を覚まして、ソファーに織田と律、自分の机に俺、という位置でオムライスを食べているのが現在だ。 一方織田は美味しいも不味いもとくにコメントは無く無言で食べ進めている。まあ食べているので不味いということはないだろう。 こいつを旦那にする女の子は可哀想だな。何作っても感想無しだと、作る方も気合が入らない。 「そういえばー、玲哉のこと部長に話したら、いつでも入ってくれって言ってたよ」 「へえ。…じゃあ明日橋本に入部用紙貰ってくるか」 「マジ?智ちゃん聞いた〜!?玲哉バスケ部入ってくれるって!やばいね、玲哉と部活一緒なんて最高じゃん」 「最高って…過大評価し過ぎだろ」 こちらまで笑顔になるような爽やかな笑顔で笑う律に、素直じゃないことを言いながらもつられるように織田が優しい笑みを見せた。 その瞬間固まる律ーーーと、俺。 待って。ちょっと待って。 なんじゃその笑顔!? そんな顔で笑えるんなら俺にもそういう顔しろよ!そしたら口喧嘩もせずに済んだのに、というほどの凄まじい破壊力の笑顔だ。 まさに天使そのもの。 男に興味の無い俺でさえ、あんな笑顔を向けられたら好きになってしまいそうだった。 案の定、天使のごとく美しい笑顔を向けられた律は、ポカーンと口を開けて呆然としている。 ああ〜イケメンが残念なアホ面に… 「おい、律!顔!顔!」 呼び掛けると律はハッと我に返ってブンブンと首を振った。 「あっぶなー…!昇天するとこだった」 本当にな。意識どっか行ってたぞ。 律があまりにも分かりやす過ぎて思わず顔が緩んでしまう。 「お前ホント織田のこと好きなのな」 笑いながら、つい口から出た台詞。 シンと静まり返った部屋に、2人を見ると2人とも、え?みたいな顔。 「…………」 あれ? 俺いま何を口走った? 「智ちゃん…」 「アンタ…今なんつった?」 あ、 うん。 やばい。 やらかした。 律が呆れた顔で此方を見ている。 織田は眉を寄せて俺を凝視していた。 これはあれだよね。 本人目の前にして、律の気持ちをバラすという本来あってはならないことをやらかしてしまったんだよね、俺は。 「!!!」 余裕をぶっこいてる場合じゃない。 顔から血の気が引いていくのを感じた。 俺の馬鹿!どうしよう!! どうやって誤魔化せばいい!?というかこれはまだ誤魔化せるレベルなのか!?冗談で流せるやつ!? 織田の顔からして無理だよね!! 上手いフォローの言葉も見つからずただひたすら青ざめる俺を見て、律がハァ…と溜め息をついた。 そして、お皿をテーブルに置くと織田に体ごと向き直る。 「玲哉、ちょっと変なタイミングになっちゃったけど…俺、玲哉のこと好きなんだ」 「………」 「もちろん昨日の今日で信じられないと思うし、すぐにどうにかなりたいわけじゃ無くて…「いいよ」………え?」 「いいよ。付き合う?」 「………マジ?え、男、イケるの?」 「お前ならイケる気がする」 織田が冗談混じりでも何でもなく、いつものトーンでそう答えた。 うそ、付き合うの? 織田と律が?出会って2日目にして?俺の目の前で…? 「おおおめでとう!!」 多分律も想像していなかったであろう怒涛の展開に、一瞬室内が静かになった。俺は慌てて祝福の言葉を口にして、ついでに力一杯両手で拍手もする。 「……あ、ありがと、智ちゃん」 それに律がなんとか返事を返してきたが、顔は未だ信じられない…といった感じだ。 「今日からよろしく、律」 織田は綺麗な顔に似合う極上の笑顔で、初めて口から音として出たであろう律の名を呼んだ。 やらかした本人が言うのもなんだし、急展開過ぎてちょっとついていけないが、とりあえず俺、まさかの恋のキューピッドっていう解釈でオッケーだろうか。 呑気なことを考えつつもホッと胸を撫で下ろした。 高校に入学してから最大の焦りだと言っても過言ではないほど超焦ったが、2人の様子に早まっていた心臓が落ち着いていく。 これで振られでもしてたら…考えるだけでも恐ろしい。 今回はどうなんだろ。 長く、続くのかな。 今まで律が誰かと付き合って3ヶ月以上長くもったところは見たことがない。 でも今回見た目だけなら天使の域をいく織田だ。 今までの奴らも充分可愛い容姿をしていたが、織田は秀でて別格。可愛い子好きの律がそうやすやすと離す気はしない気もする。 …まあ、先のことを色々考えたって仕方がない。分かってる。俺が思うことはただ一つだ。 どうなろうと律が幸せならそれでいい。 俺は未だ実感が湧かないのか不思議な顔をしている律を見ながらそんなことを考えていた。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |