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食堂に行くって言われた時点でなんとなくこういうことになるんじゃないかとは思ってたんだよね。


食堂には昼時ということもありたくさんの生徒たちが集まっていた。
律は様々な生徒に声をかけられ、その度に笑顔で反応を返す。

これはいつものことだ。

律は顔が広く知り合いが多い。
いつの間にそんな人達と!?というような生徒とも仲良くなっていたりして、律のコミュ力の高さにはいつも驚かされる。顔が良くてさらに人当たりいいとか、そんなやつ人気者にならないわけがないもんな。律のくせに羨ましい。


話し掛けてくる連中の中で、特に律の所属しているバスケ部のメンバー達とはよく出くわすことが多い。
今日の部活はあれをやろうとか次の試合の〇〇校は女マネがいるらしい!とか楽しそうに話し掛けてくるのが毎回の事だ。


そしていつもと違ったのは、話し掛けてきた奴らがその都度織田の存在に気付き目を見開きその場で固まり、その後ポッ…と顔を赤くする、というのを繰り返していたということだ。


「おい、浅倉」

「なーに、玲哉」

「アンタのトモダチどーにかならないのか。いちいち顔赤くされても困るんだけど」

織田が思った通り不機嫌そうにお茶を啜った。
パスタがこんなにも似合う男はいないんじゃ無いだろうか、というくらい似合ってる。パスタが。片手にワインとか持ってたら様になりそうだ。

「ごめんねー?多分最初だけだとおもうから許してやって」

「………」

律の優しい物言いにそれ以上言えなくなったのか、織田はそっぽを向いた。
向いた先に俺が居たので、ついでのように俺のお弁当を見下ろす。


「…それ、アンタが作ったの?」

「そうだけど…なんだよ」

「べつに」

聞いてきといて、なんだその興味無さそうな返事は!
と言いたいがこんな人の多いところで騒ぐのも嫌なのでぐっと堪える。


「あっ、今日卵焼きあるじゃーん。俺、卵焼きすき」


すると、律がヒレカツ定食を食べていた手を止めて俺の方に身を乗り出してきた。

「お前のカツと交換なら食わしてやらんこともない」

「いいよいいよ!はい、あーん」

「ん。……はふ、うま」

すぐに目の前にカツが差し出され、俺はそれをパクッと口に入れた。
揚げたてであろうそれはまだ温かく衣もサクサクでかなり美味い。
なかなか揚げ物とかは自分でしないから、特に美味しく感じる。

「ほらよ」

俺も約束通り自分のお弁当箱に入っていた卵焼きを箸で掴むと口を開けて待つ律に押し込んだ。

「んまーい」

律はもぐもぐしたあと満足そうにへらっと笑う。
それを隣で織田がジッと見ていた。
特になんの表情も浮かべていなかったが、なんとなく不機嫌オーラを感じる。

な、なんだ?今度はなにに文句を言ってくれる気だ…!?


「玲哉もカツたべる?」


律は織田がカツを食べたがっているんだと思ったのか、にこにこと話しかけるが、それに対して織田は静かに首を振った。

「いや、大丈夫だ」

「あ、じゃあ俺の卵焼きは…」

「いらない」

「ですよね!」

律の時とは大違いで即答されて、やけくそで残りの卵焼きを口に放り込んだ。



「誰だ…あの美人…」

「隣のクラスの奴だろ。転入してきたって…」

「あんなん…抱けたら…最高だな」

「バッカ、お前なんか相手にされるかよ。しかも浅倉と一緒にいるんだぞ」

「ってことはあいつらもう付き合ってんのか?」

「入ってきたの昨日って聞いたぞ。昨日の今日でそれはないだろ…」

「やだー、律くん別れたって聞いたから次はボク立候補しようと思ってたのに」

「あんな綺麗な人じゃ無理だよ。でも、まあ…


いっつも引っ付いてるあの子よりはだいぶお似合いだよね」


ふいに遠巻きに聞こえる会話から嫌悪感を含む言葉が聞こえて、またか…と溜め息を吐いた。

いくら男しか居ないと言っても、嫉妬はどこに行っても受ける。顔面偏差値と人気の高い奴の傍に、明らかに毛色の違う俺なんかが居たらおかしいと思うんだろう。

でも何度も言うが俺の顔面偏差値は平均的だ。なんなら、律に習って髪の毛も眉もそれなりにしているから見れるもんだと思う。

だけど、この俺の位置というのは周りから見れば羨ましいらしく小学校中学校、そして高校とこのくらいの悪口は安定だ。
最近は周りも俺の存在を見慣れたのか、あまり聞こえてこなかったが今回織田というさらに美人が増えたことで、再熱されたらしい。


あー……面倒臭え。


「俺、先に教室戻るわ」

「え、なんで?」

「トイレ行きたい」

「食堂の使えばいいじゃん」

「察しろよ!バカ!」


律のアホ発令。こいつはいっつもそうだ。周りに何かを言われても気付かない。気付いたとしても、気にしない。勝手に言わせとけば?スタイルだ。

俺だって気にしてるように思われたくないが、悪口なんてあんまり聞きたくないので、律を無視して席を立った。
いつもなら、1人にさせるのも悪いので我慢して待っているが、今日は別だ。

律の想い人、織田がいる。

むしろ2人にさせるのは律にとっても好都合だろう。


しかし、

「人がまだ食ってんだから、待っとけよ」

「えっ」


まさかの隣に居た織田に腕を掴まれた。


初めて織田に触れられて、ビックリしてしまった。

殴られたのは触れたとは言わないしノーカンだ。

嫌っているであろう俺に自ら触れてくるなんて予想外過ぎて一瞬固まってしまう。律も俺同様少し驚いたみたいだった。


「玲哉の言う通りだよね。もうちょっとで俺らも食べ終わるから待っててよ、智ちゃん。そしたらトイレ行こ?」

「…………しょうがねえな」


別にそこまでトイレに行きたいわけではないが、やはり律は気付いて居ないらしい。

織田は…どうなんだろう。

聞こえてないのか、こいつはよく分からない。ただ少し笑われた気がして、ゾワ…と背筋に寒気が走った。



午後の授業も終わり、律が足早に部活に走って行くのを見届けたあと俺も今日はさっさと帰ろうと教室を出る。


「おい、イインチョー」

「は?」


イインチョー、と少し小馬鹿にしたように呼ばれ後ろを振り向くと、織田がカバンを手にして立っていた。

「織田か。なんだよ」

「アンタ、イインチョーなんだから転入生の何も分からない可哀想な俺に学校案内とかしたらどうなの?なんのためのイインチョーだよ」

「…お前な…それが人にものを頼む態度かよ」

「あっ、センセェ、イインチョーに学校案内断られましたー」

「え!?」


「なんだあ、末吉。そんな冷たいこと言わずに案内してやってくれよ。先生が案内してやりたかったんだが、職員会議が入ってな…お前確か部活にも入ってないだろう?部活のこととかも教えてやってくれないか?」


教室から顔を出したハッシー先生の後ろで織田がニヤリと笑った。

まさかの先生に頼まれていたパターンのやつか…。てゆかハッシーめ!学校案内なんて織田じゃなかったら絶対してないだろ!マジで贔屓やめろ!


「………分かりました」


ここで断ると完全に俺が悪者になると思い、仕方なく頷いて織田の元へ歩いて行った。

クッソ!なんだよ、その勝ち誇った顔は!俺とは一緒に居たくない、のスタンス貫けよ!ブレンなよ!


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