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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「智ちゃん、おは……え!?なにその顔!?」

「なにって…普通の顔だけど」

「平凡顔は元からでしょ!そうじゃなくて!頬っぺ!何事?まさか殴られたんじゃないよね?」

「誰も平凡顔とは言ってないだろ!うるせーな、なんでもねえよ」

部屋を出ようとした時、ちょうど玄関の扉が叩かれて開けると律がいた。
顔を合わせた途端、俺の口端に青タンができているのを見てギョッとして冒頭の会話に戻る。

「つーか、なんでいるんだよ。朝練は?」

朝練のない日は俺と一緒に登校しているが、確か今日はあるはず。だって昨日無かったから一緒に登校したんだ。

それがなぜ、今日も玄関の前に立っているんだろう。

「いや、待って待って。それどころじゃないでしょ。どうしたの?マジで殴られたの?誰にやられた?」

「殴られたんじゃないって。俺が喧嘩なんかするように見えるか?それよりお前ホントなんでいるんだよ。言っとくけど織田はもう先に出たからな」


織田に寝惚けて殴られたなんて言えるわけがない。話がややこしくなるし、わざわざ説明するのも面倒臭くて、話を逸らそうと靴に足を入れていると律が真面目な顔をして部屋に入って来た。後ろで扉がガチャンと閉まる。

「うわ、ちょ、入ってくんなよ!ただでさえ狭いのに…靴履けねえだろうが!」

律みたいなでかい奴が入ってくると一気に玄関は満員状態になって身動きが取りづらくなった。
押し出そうと肩を押すが、逆に律は俺の手首を掴んで押し返してきた。


「智!!」

「っ」


「怒るよ。誰にやられたんだよ」


なんだよ…
いっつも智ちゃん、とかふざけた呼び名で呼ぶ癖に。

腕を掴んだまま上から俺を見下ろしてくる律をそろりと見上げる。


「………」


はぁ…
怒るよって、もう怒ってんじゃん。


だいたい律が俺のことを「智」なんて愛称も何もなく呼ぶときは大抵怒っている時だ。


「……別に殴られたわけじゃない…。ただ、今日久しぶりに朝風呂入ったんだよ。そしたら寝惚けて転んで、床に顔からダイブした」

「……はぁ?」

「信じてないな?ホントだぞ!お前も顔からダイブしてみろよ!マジで痛いから!」

「…痛いのは痛いだろうけど、そんなんで普通そこまでなる?」

「なったんだから仕方ないだろ!つーか、もういいから離せって。打った後すぐ冷やしたから大した事ねえし、すぐ治るよ」


「………」


「い゛っ」


やっと納得してくれたのか腕を離してくれたと思ったら、律の手が顔に伸びて来て俺の口端に触れた。

ちょうど青アザのある部分だ。
律の顔を見上げると、なんとも言えない複雑そうな顔をしている。

なんだその顔は。
イケメンなんだからもっとシャキッとしろよ!

というか、それよりもちょっと嫌な予感がするんだが…


「………おい…やめろよ…痛いんだから…押すんじゃねーぞ。フリじゃねーからな…」


無言で青アザの跡をなぞる指先に、いつ予感が的中するんじゃないかとヒヤヒヤしながら言うと、やっと律の口元が緩んだ。


「それ、どう考えてもフリでしょ?」


「ッッいってェーー!!?痛えわ!ありえね!離せ!馬鹿!最悪!もおおお」


力一杯とはいかなくてもまあまあな力で青アザを押され、痛みにしゃがみ込んだ。

やると思った!絶対やると思った!

「なんでお前はいっつも俺の青アザ押したがるんだよ!ドSかよ!」

「そんな面白すぎる反応する智ちゃんが悪いと思いまーす」

「面白がってんじゃねえよ!?もうほんと最悪!お前なんて犬のうんこ踏めばいいのに」

「校内に犬居ないし。てか心配した俺に対して酷い言い草じゃない?もう俺ショック…。バイバイ、智ちゃん俺は先に行く」

ガチャと扉を開けてワザとらしく出て行こうとする律に、思わず俺はそのジャケットの裾をガシッと掴んだ。

「いや、ここまで来たんなら一緒に行けばいいだろ!なに拗ねてんだよ」

「拗ねてねーしー?俺は智ちゃんに怒ってんの!俺は智ちゃんが誰かに殴られたのかと思って心配してあげたのに、風呂場でこけるとか鈍臭過ぎて信じらんないし、なんでもねえとか言うし…」

怒ってると言いながら智ちゃんと呼ぶ律は多分怒ってない。
俺は急いで靴を履いて律と一緒に廊下に出た。

「俺こそ青アザ押されて怒ってもいいと思うんだけど……まあいいや。心配してくれてありがとな、律」

「…………」

素直にお礼を言うと、律は俺を見てハァ…と溜息をついた。

「もー、朝から疲れた〜…。てか玲哉先行ったのかー……智ちゃん、鍵」

「あっ、忘れてた!よく言ってくれたな」

律に疲れ気味で指摘され慌てて鍵を掛けた。危ない危ない。

「やっぱりお前織田目当てだったのか。ほんとに好きになったら一直線なのな」

「…んー、まあね。そりゃそうでしょ。でも同室なのにわざわざ別で行くんだね〜」

「いやー、やっぱ俺まだあいつに綺麗って言ったこと根に持たれてる感じすんだよな〜。あんま気が合わねえのかも」

「そんなんで同室やってけんの〜?」

「………部屋変わる?」

「いや、無理だし。まだ寝ぼけてんの智ちゃん。また床にダイブするよ?」

手厳しく否定されて俺はガックリ肩を落とした。



「玲哉ー、お昼ご飯一緒に食べよ」

午前中の授業が終わり、お昼休憩に入ると律はすぐに織田の元へ向かった。

「えっ、お、おい…律」

いつも2人で食べていたのに、俺になんの相談も無く織田を誘い出す律に戸惑いの声を上げた。


お前が織田と食べるなら俺は一体どうしたらいいわけ?
やっぱここは気を利かせて違うとこで食うべき、か?
しかし、俺は律以外にお昼を共にするような仲の良い友達も居ないので、必然的にぼっち飯となる。

究極の選択だ……


織田はなんて返事するんだろう。
それによって俺の今後のお昼ぼっちが左右される。
でもなんか普通に断りそうだけど…なんて思いながら織田を見ると、バチンと目があった。

う…目が合っちゃった…。

しかし直ぐに目が逸らされて織田は律を見て少し笑った。


「いいよ」

「やった」


いいんかーーーーい!!!

く、…仕方ない…
ぼっち飯決めてやるわ!


俺は心の中で叫び、お手製の弁当を持って教室を後にしようとすると

「あれー?どこ行くの、智ちゃん。今日お弁当じゃないの?」

と、律に呼び止められた。


「へっ?……いや、弁当だけど」

「じゃあみんなで行こ〜」


律は織田を引き連れて俺の元に向かってきた。

「え…おう…て、いやいやいや!お前は織田と食うんだろ?」

わけが分からずそう返すと、これには織田が食いついて来た。

「は?なに、アンタ俺とは飯食いたくないの?」

「そんなこと言ってないですううう」

そんな美しい顔で、飯とか言わないでえええええ

しかも昨日は俺が居るから飯行かねえとかウダウダ言ってたのに、どういう風の吹き回しだよ。


「行くよ?」

律が俺たちのやりとりを見て教室の外へと歩き出した。
慌てて律の横に並ぶ。いっつも教室で食べていたというのにどこに行くんだ?


「おい、律。今日は教室で食べねえの?」

「玲哉が弁当無いんだって〜。俺も今日は買うの忘れてたから食堂行こ」

「あ〜、なるほ」

後ろから織田が窓の外を眺めながらゆっくり着いてくる。俺は律に近寄って耳打ちした。


「…つーか、いいのかよ。俺が居て。俺なら別に違うとこで食ってもいいんだぞ…」

「えー?俺以外に友達いたっけ?」

「うざ!居ねえよ!だからぼっち飯でも決めよかと腹をくくってだな…」

「智ちゃんトイレでご飯食べるとかさすがの俺も引くんだけど…」

「誰も便所で飯食うなんて言ってないだろ!?そこまで根暗じゃねえわ!」

思わず大きな声で返すと後ろから、うるせぇ、と言われた。


もう!ほんと織田さんの俺に対しての当たり強過ぎな!!


「はいはい!すいませんでしたー!」


ワザとらしく大きい声で返すと、明らかにイラッとした顔をされたが知るもんか!
しかし顔のいいやつのイラッとした顔はちょっと迫力があるので、すぐに顔を逸らして律の横を歩く。

「………」

「?なんだよ、律」

「ううんー。なんでもなーい」

律の視線を感じ目線を合わせたが、にこりと笑われただけでそれ以降なにも言わなかった。

なんなんだ、一体。変なやつ。


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