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「………え…?」


「……と…も…」


織田が俺を呼ぶ。

アンタ、としか呼ばないその口が苦しそうに、切なそうに、俺の名を呼んだ。


訳のわからない展開に困惑してしまう。

いきなり殴られたかと思えば、抱き締められ、名を呼ばれた。それも強気な織田からは想像出来ないような弱々しい響きだ。

俺は声を出すことも出来ず、顔だけ上げたまま織田の強く抱き締めて来る力に固まってしまった。


「っわ…!」

しかし、暫くそうしていると突然織田の体がグンッと重くなり、それを支え切れず後頭部を軽く打ってしまった。

今度は何だ!?と、ビックリしていると織田からはスー…スー…と規則正しい寝息が聞こえてくるではないか。

「…寝んのかよ!!」

さすがにイラッと来て怒鳴るが、織田は起きる気配さえ無かった。


なんだよ。意味が分かんねえ。
もしかして、今までのは寝惚けてたってことか?

だとしたら俺可哀想すぎじゃない…?


「んぉー…痛い。ありえない。信じられない」

織田の寝起きの悪さに、カナコちゃんとの入浴シーン以上にドン引きしながら、何とか織田の下から這い出る。
ヒリヒリと痛む頬を冷やすため、棚から氷嚢を取り出し氷水を入れた。

「〜〜っ、こいつ本気で殴るんだもんな…イテッ」

口の中を切ったらしく舌で探っていると痛みが走った。

というか一瞬のことでちゃんと見れなかったが、多分あいつグーで殴りやがったぞ。
グーで殴られたことなんて初めてだよ、クソ!つーか普通にパーで殴られたこともねえよ!?

苛々しながらも、頬に当てた冷たさに痛みが和らいでいく。

それと同じようになんとか気持ちも落ち着いてきた。


「…ったく。おい、織田!そんなところで寝てたら風邪引くぞ!」

あまり近寄りたくは無かったが、仕方なくしゃがみこんで織田の体を揺さぶる。
うーん…と唸りながら、形のいい眉が不愉快そうに潜められ、そしてようやくゆっくりと織田の瞼が動いた。


「……あ゛?」

「あ?じゃねーよ。朝だよ。起きろよ」

織田が起きたのを確認すると、キッチンに戻り牛乳とヨーグルトを手に持ち自分の机に向かった。

少し冷めてしまったが、やっと朝ご飯だ。

織田も目をこすりながら、のそのそと立ち上がる。

「取り敢えずなんか着たら?朝メシ出来てるから食えるなら食えよ。冷蔵庫のヨーグルトも勝手にどうぞ」

「は?」

こいつさっきから、あ?と、は?しか言ってないな。

「……なんでアンタが朝メシなんか作るんだよ」

「時間があったからに決まってるだろ。…別にいらないなら食わなくていいけど」

「………」


ムスッとしながらも織田は俺の言葉を通りハンガーにかけてあった黒のパーカーを羽織り、ソファーに腰掛けた。

美少年がヒョウ柄パンツに黒パーカー。
なんだかこいつには、昨日からことごとく期待を裏切られている気がする。


織田は無言のまま俺の用意した朝ご飯をジーと見つめたかと思うと、「イタダキマス」と小さな声で呟いた。

なんだよ、意外と礼儀正しいな。


綺麗な動作でパンを口に運ぶ織田を見て、俺も食パンを口に頬張る。


「……ッテ…」

しかし口の中を切っていることを忘れていて、痛みに顔を顰めてしまった。
それに織田が気付いて顔をこちらに向けた。


「…アンタそれどうしたんだ?」

「……お前にやられたんだよ!織田は寝惚けてて覚えてないんだろうけどな!」


俺の異変に全く覚えてないのか不思議そうな顔をしながら尋ねてきた織田に、隠す必要もないと思いありのままを話した。


「……………俺が?」


「お前が。結構ガチでやられたんだけど」

「…………相当アンタの顔がウザかったのかな。悪い」

「………」


謝ってくれたのはいいけど一言多いし、顔がウザくて殴られるとか俺これから毎朝殴られるってこと?


「勘弁しろよ…」

「なに?」

「なんでもないです」


とりあえず俺はもう二度とこいつに朝ご飯なんて作ってやらないと強く心に決めた。


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