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5

何とかお米が炊けたのでケーイチ達の元へ戻ると、カレーもサラダももうほとんど完成に近付いていた。

「うわー、いい匂い」

「あ、おかえり睦人。お米上手く炊けた?」

カレーをかき混ぜながらケーイチが振り返る。その姿があまりにも似合い過ぎていて、ふふっと笑みが零れた。

「上手くいったかどうかは分かんないけど多分食べられるとは思うよ」

「食べられるなら問題ないよ。早いとこはもう食べてるみたいだし、俺たちもそろそろ食べる準備はじめよっか。山下くんもお腹減ったって言ってたし」

「やったー!俺もうお腹ぺこぺこだよ」

「ですよね!俺カレー久々なんではやく食べたいっす!」

ここにきて初めてもう1人の一年男子、山下くんと口をきいた。

今までずっと有紀が隣に居たから、話す機会が無かったのでなんだか嬉しい。



「山下くんも寮で自炊してるらしくてね、野菜切るのとか凄い手慣れてて助かったよ」

「えっ、そうなんだ。スゴイね」

「いや、全然っス!渓先輩の方がテキパキしててスゲーすよ!」

「だってさ、ケーイチ」

「え〜、そんな褒めても何も出ないよ」



「……山下くんこの笑顔ほんと癒されると思わない?」

「…正直めっちゃ癒されてます…」

「仲間だ」

俺が山下くんとガシッと握手を交わしている後ろで、有紀はグループの女の子達4人に周りを囲まれていた。


「おかえり、有紀くん!」

「有紀くん、カレーもう出来てるよ。いっしょに食べよ?」

「あたし達のサラダも完成よ。はやく食べちゃお!」

「てか、なかなか戻ってきてくれないから、寂しかった〜。有紀くん居ないと元気でない〜」


「あ、ほんと?じゃあもう元気出たでしょ?」


「うん、出た出た〜!それに有紀くんの炊いてくれたご飯食べれるなんて、やばいよね」



「ねー、やばいよねー。俺もやばーい」


俺に接する以上に適当な相槌を打ちながらも、猫みたいに目を細めてヘラヘラ笑う有紀に、女の子達は可愛い可愛いとはしゃいでいる。

有紀だけじゃなくて俺も炊いたとも言えるのだが…まあいいか。


そんな有紀たちを取り囲む女の子を他のグループの子達が、羨ましそうに見ていたり、怖い顔で見ていたりとなかなか刺激の強そうな空間が出来上がっていた。
今あの場に居なくてよかった、と心底思う。なんだろう、言うなればこのケーイチ達と一緒に居られる場所こそが、最も安全な場所というか…



女の子達は有紀に夢中みたいなので、放っておくことにして俺たちは用意した皿にできたものたちをよそっていった。


「いやー、それにしても、黒澤ってほんとスゴイっすよね」

「有紀?」

「はい、だって勉強はできるし運動もソツなくこなす、オマケにあんなイケメンときたら…正直クラスの女子ほとんどあいつ狙いですよ。やってらんないっす」

山下くんがお皿にご飯をよそいながら、ため息をついた。
それを受け取ったケーイチはカレーを上からおたまでかけていく。


「まあ、彼αだしね、大抵のことはできるだろうね」


佳威のことでも思い浮かべているのか、ケーイチが、ああ分かる分かるみたいな顔で頷く。

「しかも、あいつの兄貴がまたスゲー人じゃないっすかー?俺βだけど、あの人のそば通ったらなんかめっちゃいい匂いするしドキドキするんすよね」

「すごいのは認めるけど…ドキドキするのはさすがに俺には分からないかな」

ケーイチが珍しく苦笑いを浮かべた。



「………そういえば、渥、来てないよな」



実はバスに乗った時点で確認済みではあったが、わざわざ言うとまたケーイチに黒い笑みを向けられる気がして黙っていたのだ。


「…そういえばそうだね。まさか2年でも来ないなんてちょっと意外、と言うかぽいというか…さすがだね」

「ちょっと俺会うの楽しみにしてたんすけど、残念ですよー」

「…山下くん結構、黒澤渥のこと好きだね」

「いやー!憧れるっていうかー、あんな男になれたら美女はべらせられんのかなーって!羨ましいんですよ!ぶっちゃけ俺も可愛い子とヤリまくりたいんス!いや、もうほんと黒澤先輩も黒澤もαだからってチートすぎてズルイんだよおぉ!」

「山下くん!本音が!本音がダダ漏れだよ!?」


露骨な表現にあわあわと目の前で手を振ると、山下くんはハッと我に返ったように目を見開いた。


「す、すんません。つい」



「なーに?山下クン?もしかして俺の悪口ぃ?」



「うっ、ぐえ!」

突然頭に重みを感じ、ついで全身にずしっと体重を掛けられ動けなくなった。
頭上から聞こえる間延びした声と甘ったるい香りに、犯人は有紀だとすぐに分かったが、何故俺は頭に顎を乗せられなければならないのだ。カエルみたいな声が出たじゃないか。恥ずかしい。


いきなりの有紀の登場に目の前の山下くんが分かりやすく慌てた。


「く、黒澤!?いやーっ俺は別になんも悪口とかは言ってねえよ…?そうっすよね!?先輩!」

「そうだよ!ただイケメンで羨ましいって言ってただけだ!むしろ山下くんはお前を褒めてたんだよ、つーか重いから離れろ!」



山下くんに縋るような目で見られて俺の中の兄貴魂に火がついた。それに俺の言った事もあながち違っちゃいない。嘘は言ってないはずだ。


「なに、いつの間に仲良くなったの?早くない?」


しかしなにが気に障ったのか有紀は離れるどころか、さらに後ろから腕を回して来て悲鳴を上げそうになった。

やめろ!こんな人の多いところでスキンシップを測るんじゃない!俺が目の敵にされるだろおおお


「はいはい、ジャレつくのはそこまでにして、黒澤くんも手伝ってくれない?じゃないとカレーにお肉入れてあげないよ」

「え!?ヤダー!お肉食べたい!です!手伝う手伝う〜」


見兼ねたケーイチが助け舟を出してくれたおかげで、コロッと機嫌を戻した有紀は素早く俺から離れた。
有紀くんがやるなら私達も…とグループの女の子達も手伝い始めてくれる。

というかケーイチ、お肉入れてあげないなんてそんな可愛いこと言うのやめてくれ。
ほんとに同い年の男子高校生なのかといい意味で疑問に思ってしまった。






「じゃあ、食べようか。いただきます」

「いただきまーす!」

全員で取り組むとあっという間に準備が終わった。
炊飯場のすぐ近くの木で出来たテーブルとベンチにそれぞれ腰掛けいただきますと声を揃えて俺たちのお昼ご飯が始まった。

周りのテーブルを見ると、ケーイチの言う通りもう何組かは食べ始めていたようで、穏やかに談笑している。

まさに交流会っぽい。



俺たちも例にもれず仲良く談笑…

ということにはもちろんならず、有紀はまたもや女の子達に左右を囲まれ、ハーレム状態。
片やこちらはそんな有紀が羨ましいのかスプーンを歯でガジガジしている山下くん、という何とも言えない図が出来上がっていた。

でもなんかもう気にするのも面倒臭くて、俺は目の前の出来立てほやほやのお昼ご飯だけに集中することにした。

多分ケーイチと山下くんがメインで作ってくれたであろうカレーをパクリと口に入れる。
カレー特有のスパイシーな刺激と、懐かしい味わいが口いっぱいに広がった。ゴロゴロ入っている野菜達は大きめに切られているのか食べ応え抜群だ。

「美味い!家で食べるのとはまた違うな〜」

「外で食べるとなんだか違う気がするよね。まあカレーなんて失敗のしようがないけど、うまくできて良かったよ」

そう言って穏やかに微笑むケーイチ。


ああ…癒される。
ケーイチはきっといい旦那さんになるよ。俺が保証する。間違いない。


俺達がひとしきり食べ終え、有紀との会話に夢中で食べるのが遅かった女の子達もやっと食べ終えた頃。

もともと悪かった天気がさらに雲行きが怪しくなってきていた。



「これ…なんだか降りそうだね」

食べ終わったお皿を片付けながら、ケーイチが空を見上げてそう呟いた。
俺も同じように空を見上げる。どんよりと先ほどよりも黒い雲が空全体を覆っていた。

確かに今にも降り出しそうな天候だ。




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