4 いきなりの発表に言葉が出ずミキちゃんを見る。 ミキちゃんは否定することなく、可愛らしい笑顔で矢田に体を預けていた。 どうやら矢田が勝手に言っているだけでは無さそうだ。 「番…って…??え、マジで?」 「へー!パイセンやるぅ〜!ってことはこの子Ωなんだね〜、ずいぶん可愛いネ。羨ましい〜」 そう言いながらチラリと見てくる有紀を無視して、俺はミキちゃんを見た。 …てか、この子って。 ミキちゃんもお前にとっては先輩だぞ。 「ミキちゃん……あの、佳威、は?」 「…佳威くんがどうかしたの?」 不思議そうな顔で首を傾げるミキちゃんに、え?え?と頭が疑問でいっぱいになる。 「いや…だって、前……」 佳威と付き合いたい、番になりたいって言っていなかっただろうか。 気になって仕方がないが、既に番契約を完了した矢田の前で言わない方がいいのかもしれない…とそれ以上聞くのを躊躇う。 しかし、そんな俺の気持ちを察したのかミキちゃんが話し出してくれた。 「あの時はね?ヒート前で、きっとどうかしてたんだと思う…もちろん佳威くんは素敵な人だけど、やっぱり私には春行くんしかいないってわかったの!ごめんね、春行くん…」 そう言って潤んだ瞳で矢田を見上げる。矢田も満更でも無さそうにミキちゃんに微笑み返した。 「気の迷いというのは誰しもあるさ。気にしないでくれ、ミキ。こうして番となれたんだ、もう一生離さないよ」 「春行くん…!」 「………」 なんだ、この茶番は。 いや、当人たちは真剣なんだから茶番とか言っちゃダメなんだよな。 胃が重たくなるほどに甘い雰囲気にグッと堪える。 「いいないいな〜!もうあとは結婚して子作りじゃん!うーらーやーまーしーイ」 一方有紀はこの空気を特に気にした様子も無く、興味津々だ。 羨ましいの部分を強調してくるのが気になるが。 「もちろんだ!早く結婚して早く子供を作ろう、ミキ」 「子供だなんて、春行くん気が早いんだから。でも…ミキがんばるねっ」 そう言ってミキちゃんが、小さな両手の拳をギュッと握り締めた。気合いを入れるみたいなポーズに思わずキュンとしてしまう。 あー…だめだ俺…しっかりしろ。 「じゃあまあそういうことだから、佳威にも言っといてくれないか?」 矢田が俺に向き直って言った。 「俺が?なんでだよ。自分で言えばいいだろ」 「この間の件で俺は随分嫌われてしまったようでね、取り合って貰えなかったんだ」 「この間って…」 それはあれのことか。 俺が矢田の部屋に連れて行かれた時のことだろうか。 佳威、そんなに怒ってくれてたのか… 「え?リク、この間ってなに?佳威クンと何かあったの?」 有紀が目ざとく反応して、俺の顔を覗き込んでくる。 「いや、近い近い近い!なんでもないよ!」 「あー!目ぇ逸らしたー!うそだ!嘘つき!」 「お前の顔が近いから逸らしただけだよ!嘘じゃないって!ほんと別に大したことじゃないんだって」 「ヤダ!教えてよ!リク」 なおも食い下がる有紀に、説明するのが面倒くさくてどうしたものかと考えている俺を見下ろしながら矢田が眼鏡を押し上げた。 「……君を探せば必然的に佳威にも会えると思ったんだが…、佳威はいないうえに、まさかの黒澤の弟がいるとはな。君たち一体どういう関係なんだ?」 「将来を約束しあった仲だよねー」 「お前こそしれっと嘘つくなよ!有紀はただの幼馴染だし、佳威はグループが違ったからここにいないだけだから。変な勘繰りやめろよ」 そう言う俺と有紀を交互に見て、矢田がにやりと笑う。 「へえ…そういうことか。俺から見たら君はどこにでもいるような子なんだが…やはり君はあちらが凄いのかな」 「あちらってどっち?リクはアッチが凄いの??俺にもアッチの方教えてよ!」 「ア、アッチもコッチもねえよ!!てか、どいつもこいつも真っ昼間から下ネタ言うな!」 有紀に至っては絶対分かってて乗っかってきている。くそ、後で覚えてろよ! 「そうだよ!春行くん!ミキ以外の子に興味持っちゃダメって言ったのに…っ」 「ああっ、すまない、ミキ。だけど、俺が興味があるのはミキだけだ。感違いしないでくれ」 何故か嫉妬しているミキちゃんをギュッと大きな体で包み込む矢田。体格差があり過ぎて抱き締めるとミキちゃんの姿がほとんど見えなくなった。 そもそもこいつは俺に興味なんて持ってないよ。どこにでもいるようなやつって言われたのしっかり聞いてるからな。 「…ハァ。俺から佳威に伝えとくからもう他所でやってくれないか?」 ゲンナリしながらそう伝えると矢田とミキちゃんはやっと離れたが、仲良く手は繋いだままだ。 「そうか!ならば、よろしく頼んだぞ。では、またな」 「じゃーねー!おしあわせに〜」 手を繋いで戻っていく矢田とミキちゃんに、無邪気にブンブン手を振る有紀。 俺は心の中で、もう二度と会いませんように…と全力で願った。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |