3 用意されていたお米を洗い、鍋に移し替えた俺たちはケーイチの言う通りかまどのある場所に来ていた。 「よし、じゃあ…火か?火は…なに?起こすの、か。いや、さすがにそれは時間かかり過ぎるよな」 シュ、ボッ 「えっ」 実は鍋からお米を炊いた事もなければ、野外炊飯なんてのも初めてのことだったので、少しテンパっている俺をよそに有紀がマッチを擦って薪の中に放り投げた。 「?どうかした?」 「…それ、どこにあったんだ?」 「さっきのとこから持ってきたよー?いるかと思って。あ、やりたかった??もう1本する?」 普段テキトーな有紀の方が、今は俺よりよっぽどしっかりしてて悔しい。 優しい心でマッチを手渡されそうになったが、そっと断わった。 「いや、大丈夫だ。とりあえず沸騰するまで待機だったよな」 「そうだっけ?じゃあ、座って待っとこ!」 待つ用なのか、近くにベンチが設置されていたので、俺たちはそこで火の番をすることにした。 周りの生徒達も俺たちと同じように座っておしゃべりしたり携帯を弄ったり、男子同士ではしゃいだりしている。 火を使ったり重い鍋を持つからか、女の子もちらほらいるものの比較的かまどの近くには男子ばかりだった。 「なんかすっげーフリーダムだねー」 「俺も同じこと考えてたよ。てか、お前も俺じゃなくてもっと他の人たちとも交流した方がいいんじゃないの?これ一応1年と2年の交流会だぞ」 「あれ、またそういうこと言ってくるわけ?」 「……俺、変なこと言った?」 「てかさー」 有紀が足を組み替えて、体重を後ろへ掛けた。 「もうあれからだいぶ経つけど、俺、まだ待て状態なのー??」 「は…!!?」 突然の話題転換と、その内容にびっくりして大きな声が出てしまった。 周りの視線がこちらに向く。それに対して恥ずかしい気持ちになりながら、有紀に向かって小声で問い返した。 「お前っ…こんなとこで何言ってんだよ!」 「聞こえてないからダイジョーブだよ。俺、リクに言われた通りちゃんと我慢してるでしょ?」 「我慢って……そりゃ、まあ、…そうか?」 何度も抱き付いて来ていた気がするが。あれはカウントされないのか。 「リクも男の子だよね?気持ちいいことしたくない?俺、リクのことすっごく気持ちよく出来ると思うんだけどなあ〜」 「待て待て待て待て。有紀。待ちなさい。今何時だ?」 「んー、えー。…11時20、あ、21分!」 「うん、まだ午前中だな。それは午前中のこんな明るい時間に話す話じゃないだろ!」 「曇ってるけど」 「揚げ足を取るんじゃない」 ビシッと言うと、有紀が苦い顔する。 「うえ〜、俺、欲求不満でしんじゃう〜」 チャラ過ぎる発言にドン引きしていると、後ろからポンと肩を叩かれた。 「?」 後ろを振り向くと、えらいガタイのいいやつが立っていた。 なんだかーーー久しぶりの顔だ。 別に見たくもなかったけど。 「うわ、矢田…とミ、ミキちゃん…っ」 「うわ、とは酷い言い様だな。久しぶりの再会だというのに、あんまりじゃないか。睦人」 「…睦人って呼ぶな」 立っていたのはインテリ眼鏡のくせに女好きΩ大好きな、めちゃくちゃ筋肉質な矢田が立っていた。隣には今にも折れてしまいそうな可憐な美少女ミキちゃんも立っている。 矢田よりもミキちゃんの姿にビクついてしてしまった。 しかし今日のミキちゃんはそんな俺を見ても睨み付けてこない。 それどころかふんわり花のように微笑んでいて俺は懲りずにドキッとしてしまう。 「あれー?誰?リクの知り合い?」 知らない顔に有紀が興味を示して、身を乗り出してくる。 それに気付いて矢田が声を上げた。 「おや、君は黒澤の弟じゃないか。…随分と凄いのを連れてるんだな」 「俺のこと知ってんの?……あ、アンタαか」 「ああ、そうだ。俺も桐根に居たからな」 「ふーーーん」 有紀が相槌を打つが多分こいつ全然ピンと来てない。覚えてないんだろうな。 「別にいいけど、一応こいつ先輩だからな有紀」 本当にどうでもいいけど、念の為に言っておいた。それにアッという顔をして有紀が俺を見る。 「マジ?敬語使う?もう遅い?」 「同じαだ。気にすることはない。それよりも、今日はひとつ報告があってきたんだ」 「報告?」 矢田が俺に報告するようなことなどあっただろうか。 「ミキ」 矢田がぐいと隣に居たミキちゃんの肩を抱き、引き寄せる。 こいつ、前もこうやってミキちゃんを紹介してきたな。いちいちスキンシップが激しい…というかやっぱり見せつけてるんだろうか。くそ、 「実はだな、俺とミキは番になったんだ。あの時色々と迷惑をかけたようだから、一応伝えておこうかと思ってね」 そう言って矢田は満面の笑みで微笑んだ。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |