×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

9

グダグダ話している内にだいぶ体力が回復してきたので、俺はよっこらせ、と重く感じる腰を持ち上げた。

「どこ行くの??」

「帰るんだよ」

「えーー!?泊まって行かないの!?」

言いながら腰に腕を回してくる有紀の頭をグイッと押し返す。

「こんな危険なとこに泊まれるか!」

「なにもしないもん!てか、俺別に危険じゃねえしー!」

「今んとこ俺の中で最高に危険な人物だよ!」

前までは矢田だったが、矢田はミキちゃんしか眼中にないと分かったし、だいぶ危険人物ランクは下がった。
そういえばそろそろ1週間終わるから、ミキちゃんのヒートが終わって学校に戻って来る頃ろう。


「せっかく再会できたのに……リクとまだ一緒に居たい!…だめ?」

寂しそうな表情を浮かべて俺を見上げてくる有紀に、俺の意思が若干グラつきそうになったが、ぐっと堪える。

「駄目!遊ぶって言ったのに嘘ついたの誰だ?」

目的は遊ぶ事では無かったし、まんまと騙された感も否めない。

「う………だあってぇ……」

「俺は嘘つくやつ好きじゃないよ」

「!!!」

分かりやすくショックを受けたような顔をして、有紀は腰に回していた腕をゆっくり緩めた。

「………じゃあ、家まで送る」

「いいよ、別に。すぐだし」

「送る!泊まってくれないならリクと少しでも一緒に居たいもん!!」

「……………じゃあ、ここの下まで送ってよ」

「えー……」

「えー、じゃない!嫌ならお前はここに居ろ!」

「分かった!下までにする!」

分かったと言いながらも、ものすごいふてくされた顔をしている有紀につい吹き出してしまった。


「お前な、そういうのは俺じゃなくてもっと可愛い子にしてやれよ」

きっと喜ぶから、と続ける前に目の前のふてくされていた奴にギュッと抱き締められ言葉が喉の奥に落ちた。



「だから大好きって言ってんじゃん……リク以外の可愛い子なんて興味ない。リクだから一緒に居たいんだよ。そんなこと…言わないでよ」



有紀の顔は見えなかったが、掠れた声が耳元で聞こえ、何故だか胸がギュゥと締め付けられる。

どうしてだろ。

正直、お前とは縁を切る、なんて言ってやってもいいくらいのことはされたと思うのだが、そんな声を出されてしまうと…


いつの間にかすごく広くなった背中に腕を回し、小さい子をあやすようにポンポンと優しく叩いた。

それに反応するかのように、抱き着く力が強くなる。




「…また同じ学校になったんだから、これからまた一緒だよ。…大丈夫」


大丈夫、と口をついて出た言葉。

なんとなく…ただ、なんとなく有紀は、渥と離れ離れになってしまった俺のような気持ちになっているんじゃないかと思ったのだ。

ずっと親友で居られると思ってた大切な相手と離れたくないのに、離れてしまって、やっとの思いでまた会えた。

もうあの日みたいな思いはしたくない。


有紀の場合は、それが友愛じゃないと言ったが、不安を感じた気持ちは同じなはずだ。


そう思うと、安心させてやりたくなって、そんな言葉が出た。


「ん!」

有紀は、俺の言葉にパッと顔を上げて、猫みたいに人懐っこい笑みを浮かべた。

「リク好き〜〜!」

「あー、はいはい…じゃあ、そろそろ行くぞ」

「はーい」

今度こそ物分りよく返事をした有紀に、呆れ気味に笑った。



その夜、俺は懐かしい夢を見た。

まだ転校する前の、9歳ぐらいの時だ。
場所は渥と有紀が普段暮らしている家だった。

渥の親父さんは一流企業の代表取締役なんていう、肩書きを持つような人だったからそれ相応の立派な家を建てていた。


部屋数なんて俺の家の倍はあるんじゃないかと思うくらい多く、まだ小学生の渥と有紀の部屋も既に一つずつ与えられていた。

同じ会社で働く共働きの渥の両親は不在なことが多く、遊ぶと言ったらもっぱら我が家だったが、隠れんぼをする時だけ隠れる所の多いこちらの家で遊んでいたのをよく覚えている。



「じゃーんけん、ぽん!」

「あ…」

「アッちゃんが鬼だー!」

アッちゃんなんて懐かしいアダ名で渥を呼ぶ有紀は、まるで天使のような可愛さだった。
パッと見、女の子でも通用するような可憐な雰囲気を纏う有紀は、くりくりの目を嬉しそうに細めて、じゃんけんで負けた渥を指差した。

一方の渥は悔しそうに自分の出したチョキを見つめている。
幼さはあるものの渥は渥で目を見張る程の美少年だ。艶のある黒髪を少しだけ耳にかけ、視線を下げたことで長い睫毛が影を作る。

「やっとあつが鬼か!10数えるまで目ぇ開けちゃダメだからな!行くぞっ、ゆうき」

「うん!」

「りくと!部屋の鍵閉めるのはナシだぞ!」

「わかってるよー!」

見つかるのが嫌で一度カギを閉めて隠れるというズルをしてから、渥にそう念を押されるようになったのを思い出す。

渥は近くの壁に凭れかかるように片腕で目を覆った。


「いーーーち、にーーーーい…」

カウントを始めたのを確認すると、俺は自分より小さい有紀を引き連れ、音でバレないように忍び足で二階に駆け上がる。

ちなみに俺は、まあ普通の小さい男の子って感じだ。
この二人と並ぶから多分際立って劣って見えるだけで、不細工ではない。なんなら小さいってだけでかわいく見えてくる。


「よし、おれはあっちの部屋に隠れるからな。ゆうきも見つからないようにしろよ」

「ぼくもそっちにいく〜」

「えっ?」

「だってひとりさみしいもん。だめぇ?」

有紀のこのおねだり攻撃にこの頃の俺は一度たりとも打ち勝てたことが無かった。

「しかたないなあ、もう。じゃあいくぞっ」

「やったあ」

仕方ないので、有紀の小さな手をとって、隠れようと思っていた部屋に飛び込んだ。

「どこにかくれるー?」

「クローゼットのなか、か…ベッドのしたか…ベッドのしただ!!」

考えていると、下から「はーーーち、きゅーーーう」というカウントが聞こえて慌ててすぐに隠れられそうだったベッドの下に滑り込んだ。

ちゃんと有紀を先に入れてから自分が入るという兄貴ぶりを発揮する俺。


「もっと奥いけ、ゆうき!」

「はぁーい」

今はもうベッドの下になんて入れないが、この頃はすんなり入れたなあ…なんて懐かしく思う。


「じゅう!」


渥がカウントを終えた声が聞こえて、俺たちはまだ渥が近くに居ないにも関わらず声を潜めた。




もどる | すすむ
| 目次へもどる |