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6


小さい頃って何故かカルピス好きなんだよな。大きくなってからは飲む機会がグンと減ってしまったが久しぶりに飲む爽やかな甘みが体に染み込んでいく気がする。

うまーい!

そんな俺の横に近距離で腰掛けた有紀は両足を上げこちらに体を向けた。まるで体育座りのような格好だ。

「リクーほんと久しぶりだね!全然変わってないから俺すぐ分かったよ?」

「全然変わってないことはないだろ。7年も経ってんだぞ?」

「確かにあの頃よりは大きくなったけど…ん?でも俺よりは小さくなってね?」

「それは……成長には個人のスピードといものがあってだな…」

痛いところを平気で突いてくる有紀に言葉が詰まった。

「まあいいや!それよりそれより!リク!」

俺が何か上手い返しは無いかと頭を捻っていたというのに、あっという間に話題を変えた有紀はキラキラと目を輝かせながら前のめりになる。



「リクは!?リクは、バース検査なんだった??俺はさっきも言ったけどαだよ!」


「!?」


突然の質問に飲んでいたカルピスを吹き出しそうになった。
なんとかすんでのところで抑えて、グラスを机に置く。


「きゅ、急だな…」

「だって…!ほんとはあの場で聞きたかったんだけど、佳威クンとか周りにも人いっぱい居たし聞いたらダメかなあ〜と思って我慢したんだよー!」

えらいでしょ?と言わんばかりの顔をする有紀に、そこはよく空気を読んだと褒めてやりたいが、これはこれ、それはそれだ。

「ねー!リクー!教えて??」

首を傾げてこちらを見つめる有紀。
そのキラキラした瞳に思わず本当のことを言いそうになった。

有紀は昔からの知り合いだし、別にバレたっていいのかもしれないが…悩むところだ。

ここは、やはり無難にやり過ごすか。


「俺はふつーにβだったよ」


そう言った途端に、分かりやすく有紀の表情が曇った。

「βなの?」

「うん」

「本当に?」

「う、うん」

「ってことは、番になれないってこと?」

「番?…まあ、そうだな。番はαとΩにしかできない契約だからな」

ん?ちょっと待て、どうしてそういう方向に話しが行くんだ?

「………」


「有紀?」

今までテンション高く喋っていたのに、一気に静かになり俯き何も喋らなくなってしまった有紀。
不思議に思って顔を覗き込もうとすると、腕を引かれた。

「わっ、ちょ…!?」

ぐんっと体が有紀の方に倒れそうになって、咄嗟にもう片方の手で体にブレーキをかける。


「あっぶな…、有紀いきなり引っ張ったら危ないだ、ろ……」

文句を言おうと顔を上げると、予想よりも近くに有紀の端正な顔があった。
さらに言えば今までの喜怒哀楽が分かりやすい表情豊かな有紀からは想像できない程の無表情だ。

冷酷な雰囲気さえ感じ取れて、渥と一瞬ダブる。

目が離せられない。

「ゆ、うき…?」



「ウソつき」



俺の視線を捉えたまま、有紀は静かに低いトーンでそう呟いた。


「ん、む………!!?」


言葉を返す暇もなく、突然唇を塞がれた。

柔らかい感触を認識すると同時に、舌がぬるっと滑り込んでくる。


え?え…いやいや……
えーーーーーーーー!?!?

キスをされながら脳内がパニック状態だ。

なぜ?え、なぜ!?
なんで俺は今有紀にキスされてるの!?


グルグル考えながらも何とかこの状況から抜け出したくて、掴まれていないほうの腕で有紀の肩を押し返す。

「ゆぅ、っ……!」

しかし、その腕さえも掴まれてしまって抵抗の術を奪われてしまう。

有紀のつけている香水か、αのものかどちらとも分からないむせるような甘い香りが鼻腔に広がった。

嫌いな香りじゃない。
むしろ、好きな香りだ。

でも、今はそれが少し重たく感じた。

「ん、んん!!」

心臓がドクドクと、いつも以上に早く脈打つ。
この間、部屋でされた渥のからかうようなキスとは違い、有紀のキスは濃厚で執拗だ。
そして俺の動きを封じたまま上体を寄せてくる。

もちろん慣れていない俺は、深く貪るような口付けのどこで息を吸えばいいのかが分からず、空気が足りない状態に陥っていた。


「………ふ、…っ」


頭がクラッとした。


ドサッと背中がソファーに沈む感触を感じ、やっと有紀が唇を離してくれた。


「はぁっ…!、はっ…」


流れ込んでくる空気を胸いっぱいに吸う。
キスされて空気をうまく吸えないなんて、これじゃみんなに童貞、と馬鹿にされても仕方がないな…。

目尻にじわっと熱いものが広がるのを感じた。多分、ちょっと涙目になってしまった気がする。


「ゆ、ぅき……おまえ…!」


いつの間にか有紀に跨られている状態になっていて、俺は上にいる有紀を息も絶え絶えに見上げた。

相変わらず表情のない有紀は、そっと俺の口から零れ落ちた唾液を拭った。



「はは…なにその顔。泣いてるの?リク…かわいいね。…それに、…あは」



そうドロッドロに甘い声を出して俺を見下ろす有紀は、今までの無表情を一気に崩して、ーーー心底嬉しそうに笑った。



「こんなフェロモン出すβいないよねぇ?……やっぱりリクはΩだ」



その笑顔に脳内が危険信号を出した。




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