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3


そのあと離れたくないと駄々を捏ねる有紀を何とか説得して一旦俺たちは別れたのだが、俺は再び有紀に抱き付かれる羽目になっていた。


「あのさ…有紀…」

「なあに?リク!」

「さすがに皆見てるから離してくれない?これじゃ話進まないし…」

「やだやだやだー!無理ー!」

「有紀…」

俺を横から抱き締めたまま座り込む有紀の名前をたしなめるようにゆっくり呼ぶと、ちらっと俺の様子を伺ったあと、う〜…と頭を俺の肩越しに擦り付けて渋々離れた。

しかし、そのままピタッと俺に体をくっ付けて、そこからは動く気配が無かったので、仕方なくそのまま反対側の隣にいたケーイチに目配せした。

ごめん、こいつもう以上無理だ。話進めてくれ…

俺の思いが通じたのか、ケーイチが苦笑いをして前を向いた。


「はい!じゃあここは気にしないで、みんな揃ってるかな?一応名前呼び上げるから返事してね。じゃあ1年生から、内川さん…」


午後のフレンドキャンプ顔合わせが開始し、それぞれのグループの2年生が事前に学校側で用意されていた数字の書かれたプラカードを手に持ち、その番号の元に1年生たちが集まってくるというシステムで行われた。

みな、一様にグループが振り分けられた用紙を手に持って集まる中、俺たちのグループには、まさかまさかの有紀が居たのだ。

俺がグループにいると分かった途端、スキップをするかのように走ってきてそのまま俺にダイブしてきた。
グェッとカエルが潰れたような声を出した俺はまたもや床に倒れてしまう。

さらに、有紀がグループにいると分かったほかの女の子達は嬉しそうに頬を赤らめたが、有紀が他には目もくれず俺にダイブしてきたものだから明らかに機嫌が悪くなってしまった。


負の連鎖が…


佳威の苦労が別の方向で分かってしまった瞬間だ。


「うん、みんな居るね。1年生の子達はみんなフレンドキャンプについてある程度聞いてきた?」

点呼が終わりケーイチが朗らかに話しかけると、1年生達は素直にコクコクと頷く。集まったメンバーは男女それぞれ4人ずつでちょうどいい数になっていた。


「ちなみに今年みんなで作るのはカレーだよ。去年もカレーだったけどね」

それに2年の女の子達がぷっと吹き出した。

俺は知らないが、やはり野外炊飯といえばカレーなんだろう。カレー好きだから全然いいけど!

「今日決めるのは、当日誰がどの担当で作っていくか、だよ。カレー担当4人、ご飯担当2人、サラダ担当2人で分けよっか。とりあえずこれしたいってのあったら言ってね」

「はーい!俺、リクとご飯担当しまーす!」

ケーイチの言葉に即座に一年生の有紀が反応した。

いや、聞いてないぞ。
勝手に挙手するなよ!

「早いね。…他にご飯したい子いない?…居ないか。じゃあ、睦人と黒澤くんはご飯担当ね」

「わーい!やった!リク一緒にがんばろ!」

「お、おー」

口を出す暇もなく決まってしまった。

グループの女子から嫉妬の炎をメラメラ燃やされてる気がするが、断じて俺は何もしていない。
全部勝手に有紀がやってるだけだ。


そのあと、ケーイチは自ら一番大変そうなカレーを担当すると言って、それに残りの1年生3人が手を上げ、残った2年生の女子2人がサラダ担当となった。


ケーイチのリーダーシップのおかげで、すんなり担当決めが終わってしまった俺たちは、それじゃあまた当日に、と言い合って解散した。

体育館にはまだグループに分かれて話し合ってるところがあったので、俺たちも佳威のところが終わるまで体育館で待つことにした。



「振り分けの用紙見た時に、もしかして仲良いのかな〜て思ったけどこれ程までとはね」

ケーイチが苦笑いをしながら俺に言う。

「用紙に書いてたのか?ちょっと、見せてくれ。…………あー、ほんとだ」

用紙を受け取って23の数字の部分を一人一人確認すると確かに、そこには黒澤有紀の文字があった。

「有紀は俺がグループに居るって気付いてたのか?」

隣で相変わらず体をくっ付けたまま離れない有紀にそう問いかけるとコテンと首を傾げた。

「ううん?俺はリカコちゃんに23番で一緒だよって言われてついていったらリクが居たの」

「あっそ…」

どいつもこいつも、どうして俺の周りにはこうもモテる男ばっかり寄ってくるんだ!
しかもそのリカコちゃんとやらは有紀と一緒なことに胸をときめかせていたかもしれないのに。すまん、リカコちゃん…。

先程居た1年生の女子2人のうちどちらかに心の中で謝る。どっちがリカコちゃんだったんだろう…。


「そういえばどうしてリクはここにいんの?もしかして最初から居た!?」

「ああ、いや。俺は最近ここに転入してきたんだよ。ちょうど…二週間前くらいだったかなあ」

「二週間も前から居たの!?うそ!?なんで言ってくれなかったんだよ〜!!」

有紀が大袈裟じゃないのかと思うくらいビックリしたあとショックを隠し切れないという顔で俺を見つめてきた。

「有紀の連絡先知らないし。てか、そもそも俺もお前がここに居るなんて知らなかったんだよ」

「ええええええ?じゃあ今交換しよ!すぐしよ!携帯出して!」

急かすように手を出してくる有紀に苦笑いを浮かべながらも、俺は自分の携帯を出す。
ケーイチ達と交換したSNSアプリを開き同じように有紀とも連絡先を交換し合った。

「やば、携帯にリクの連絡先がある…感動!」

何に感動したのか不明だが、有紀がそれはもう嬉しそうに目を輝かせながら自分の携帯を見つめていた。
そこまで喜ばれると俺もなんだかちょっと嬉しい。


「良かったね。黒澤くん」

その様子にケーイチもほっこりしたのか、優しいトーンで有紀に話しかけた。

「あざーす!てかセンパイ俺のこと有紀でいいよ!あ、いいですよ!いや〜、今日ガッコ来てて良かった〜!フレンドキャンプとか訳わかんないイベントだと思ってたけど、リクと同じグループなら最高じゃん」

ペラペラと饒舌に喋りながら、猫のようにすり寄ってくる有紀の頭を無意識に撫でていた。それに気持ちよさそうに目を細める。
脱色したであろう髪は、軋むことなくサラサラだ。

あの頃と見た目はだいぶ変わっているが、渥と違って有紀は昔と変わらず人懐っこく甘えたな様子に俺は安堵していた。

「てかさ、リク!渥にはもう会った?」

「うん、もう会ったよ。同じクラスだったし」

「は!?マジ!?いっつも渥ばっかズリー!しかも俺にはリクのことなんにも言ってなかったし、サイアク」

有紀が頬を膨らませてぷりぷり怒っている。
その姿につい笑みが零れた。

「ズリーって…仕方ないだろ?俺と渥は同学年で有紀は一個下なんだから」

「うー…それが嫌なんだってば!ちょっと生まれるのが遅かっただけで学年も離れるし教室も離れるし…渥ばっかズリーよ」

しょんぼりしている有紀が、少し可愛くて元気出せよと肩を叩く。それをチラリと見て有紀はパッと表情を明るくした。

「あ、でも!今はまたこうしてリクに会えたしグループ一緒だし幸せだよね」

「立ち直り早いな、お前は」

立ち直りの早さは昔から変わらないようだ。


「あ、佳威だ。終わったのかな?」


横でケーイチがそう言うので、ケーイチの向いている方向を見ると少し離れた場所から佳威がこちらに歩いてきているのが見えた。




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