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午前の授業を終え、昼食を摂り終えた俺たちは朝のホームルームで言われた通り体育館に向かっていた。

体育館に近付くにつれて、どんどん人の数が増えてくる。
同学年の奴らの中には見たことのある生徒達も居るが、転校してきた俺にとってはだいたいが見たことのない奴らばかりだった。
それに加えて1年生も居るわけだからなかなかの数だ。

体育館に足を踏み入れると1年生だろう小柄な女の子達が佳威に気付いてキャアキャアと色めき立った。
ちなみに佳威はいつものように無反応で、俺の横を歩いている。

「うわ〜…いっぱい居るな」

がやがやと賑やかな体育館の中には、もう既にかなりの人数が集まってきていた。

全体を見渡すとどうやら左側が1年生、右側に2年が集まっているみたいだ。

右側に向かって歩きながら1年生の方へ目を向けると、ところどころ周りと群を抜いて綺麗な子や堂々とした振る舞いの高身長なイケメンたちが目に入る。

多分彼らはαだ。当たり前だが、1年生にもαは存在しているらしい。
αの周りには基本的に人が集まってくるから、纏う雰囲気など見なくてもだいたい分かってしまう。

チラリと隣を見ると、他と触れ合うのが相当嫌なのか目の据わってしまった佳威がいた。
多分、佳威が特殊なだけだ。


佳威は気に入った人間しか傍に置かない。


その中に昔からの幼馴染であるケーイチがいるのはもちろんのことだが、最近出会ったばかりの自分がいることがちょっと嬉しかったりもする。


「佳威…目、やばいって」

さりげなくそう伝えると、佳威がこちらを向いた。それを見てケーイチまで声を上げる。

「うわ、なにその顔。怖すぎ。やめてよ佳威。一緒にいる俺たちまで変な目で見られるだろ」

「ケーイチてめぇ…」

「あ、あー!そういえばさー!きの…」

またもや喧嘩をし出しそうな2人の意識をこちらに向けるため、昨日のテレビの話でもしようかと口を挟もうとしたところに、後ろから聞いたことのない声が飛んできた。


「あー!佳威クンじゃん!おーい、佳威クーン!」


その声に俺たちは揃って振り返る。佳威だけは少し面倒くさそうにゆっくり振り返った。



「ヤッホ〜」

振り返った先には、制服を着崩した派手な男子生徒が大きく手を振っていた。

ネクタイもせず、第二ボタンまで開けられたシャツの下には色鮮やでサイケデリックな柄のTシャツが覗いている。

ワックスでオシャレに盛った髪の毛も金髪に近い明るい色合いで、よく似合っていた。

ニコニコ笑うその顔は、猫のように弧を描き人懐っこそうで、笑う口端からは犬歯がのぞいている。

両手をポケットに突っ込んだままモデルのようなスタイルの良さで、俺たちのすぐ傍まで来たそいつは、細めていた目をぱちっと開けて佳威を指差し、


「やっべ!なにその顔!超こえーんだけど!佳威クンやめなよ、それ〜」

と、爆笑した。


「!?」


この佳威の不機嫌面にそんなこと言えるのは、ケーイチぐらいなものだと思っていたが…。

突然現れたこの超絶派手なイケメンオシャレボーイ、一体何者だ。


「うるせーよ、有紀」

「なになに〜?なんかあったん?」

「なんもねぇし1年はあっち側だろ。こっち来んなよ」

「やだー!久しぶりに会ったのにそんな冷たいこと言わないで〜」


ユウキと呼ばれたそいつは、無邪気に笑った。

なんだろう。
明らかにチャラそうな雰囲気なのだが、笑うと犬歯が覗いて、ちょっと可愛い。

そんなことを思いながら、1年生だというユウキとやらを見ていると、彼がこちらに気付いたようでパッと視線を俺に向けた。



「あれー?珍しいね!佳威クンが渓センパイ以外を連れ、ある、いて……………………、………………アレ?」


最後まで言うことなく、彼はずいっと俺に近付いて顔を覗き込んだ。

ち、近い…!


「アレ?アレレ?…………え?」


目の前の近い顔が混乱しているように、瞼を何度もパチパチしている。

俺は突然のことに、とにかくできるだけこいつから身体を離そうと後ずさるが、前方からガシッと両腕を掴まれてしまった。


「ヒェ!?な、なに…?」

「おい有紀、やめろよ」


佳威が割って入ってきてくれようとしたところで、目の前の顔がそれはもう嬉しそうにキラキラと輝いて、一瞬で目を奪われた。

そんなことあるはずないって分かってるのに、まるで彼の周りにキラキラのエフェクトが掛かっているみたいだ。


満面の笑みで相変わらず俺の両腕をつかんだままの彼は、声高々に言った。


「リクだよね!?リクでしょ!?やばい!絶対リクだ!!」


聞いておきながら最後は自分で断定した彼は、そのまま勢いよく俺を抱きしめてきた。

「ぉわ!!ちょっ…!?」

「有紀!?何やってんだよ!!」

佳威が俺たちを離そうと手を伸ばしきたが、それに気付いたのか彼は俺を抱き締めたままグルンと佳威に自分の背を向けた。


「リク!リク!会いたかったよ!!!本当に本当に会いたかった!!!」


そう言って痛いほど抱き締めてくる彼の甘い香りに包まれながら、リクという懐かしい呼び名で呼ばれている事に気付いた。


昔、自分のことをそう呼んでいた可愛い弟分がいた。


『リクの机だ〜。えへへ』

三人で休みの日に学校に忍び込んで、俺が普段使っている机に座り嬉しそうにしていた姿がふと浮かぶ。

その時の3人というのが、俺と、渥と、そして渥の弟、有紀だった。


そういえば佳威は彼をユウキと呼んだ。



つまり、
もしかして、こいつ…



「お前、まさか、有紀…か?」


俺がそう問いかけると力強かった力がほんの少し緩まってガバッと彼が顔を上げた。


「そうだよ!リク!あああ、久しぶりだね!久しぶり過ぎるよ!リク〜〜!」


そういえば笑った顔が人懐っこく猫みたいになるのは、渥と有紀の唯一似ている特徴だった。

軽く興奮状態の有紀は、また勢い良くぎゅうっと抱きついてきて、俺はその体重を支え切れず後ろに倒れてしまった。


「わ!睦人!」

ケーイチの心配する声が飛んで来る中、まるで俺を押し倒しているような有紀はさすがに佳威に怒られ問答無用で離された。




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