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「#幼馴染」のBL小説を読む
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8


あまりに今まで接してきた傍若無人な渥からは想像できない、感じの良い態度に口の端がひくついた。

しかも、だ。
プリンなんていう可愛らしいスイーツを食べてるっていうのに、嫌にさまになる。
動作が綺麗なんだよな。
その上にあの顔だ。

何を食べたらあんな色気のある男前になれるんだよ…。

遺伝子か、やっぱり。



「亮太さんビール、美味いですか?」

プリンをぱくぱく食べながら渥が父親に話しかける。
渥は昔から俺の両親を下の名前で呼ぶ。
それは昔、母親がおばさんと言われることを嫌がって冗談で、私たちのことは名前で呼んで!なんて言ったからだ。

また、元々渥の家は親父さんが不在なことが多く、隣の家だった俺の父親は渥を実の息子のように可愛がっていたし、渥もよく懐いていた。

だからか俺の両親の言うことは素直に従う節があったのだ。

それを成長した渥の口から聞くのはなんだか少し不思議な感じだったが。


「んー、そうだなあ。美味しいっちゃ美味しいよ。疲れてグビッといく最初の一杯が美味しんだ!」

「へえ。いいな」

「でもまだ飲んじゃ駄目だぞ〜。渥くんがお酒飲める年齢になったら、りっちゃんと一緒に晩酌してくれるか?」

「もちろんです。…楽しみだな」

渥が人懐っこい笑顔をさらにへにゃと緩めて笑った。
あまりに嬉しそうなその笑顔にドキッと胸が鳴る。
母親が、やだー、かわいいわあーなんてキャッキャしている。親父も嬉しそうにヘラヘラしていた。


「あ、渥…!俺のこと待ってたんだろ?部屋行く、か?」

駄目だ!
これ以上渥のこんな顔見てたら変な気持ちになってしまう!

俺は渥と目を合わせないようにそう呼び掛けた。

「あ、そうだった。じゃあ、ご馳走様でした。久しぶりに美味しいご飯食べました」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね!渥くんならいつでも食べに来ていいのよ」

「そうそう、渥くんさえ良ければまた一緒にご飯たべような」

「また、来ます」


渥は自然な動作で自分の食べた食器を重ねた。母親がそれに気付いて、いいのよ、置いておいてと優しく笑いかける。


「あ、りっちゃん!お茶あるから持って上がって」

「…うん」

母さん…俺にももっと優しい声のトーンで話しかけろよな!
渥とのあまりの差に少し悲しい気持ちになりながら、お茶とコップが2つ乗ったお盆を持って、二階にある自分の部屋に向かった。

渥は一度来たことがあるから、特に何かを言うこともなく素直に俺のあとをついてくる。

自分の部屋の扉を開けて電気をつけ、お盆を部屋の真ん中に置いてあるテーブルに置いた。


「………えーと、…お茶、飲むよな?」

「飲む」

短くそう答えると渥は普通にベッドに腰掛けた。

あ、当然のようにお前がそこ座るのね…

仕方ないので俺が床に腰掛けた。
お茶をコップに入れて渥に手渡す。

「お前今まで何してたんだ」

「え、何って…飯だけど…」

「あいつらと?」

「うん」

「ふーん」

聞いときながらあまり興味の無さそうに返事をする渥。というか、さっきまでの温和な好青年はどこ行ったんだよ!

俺と2人っきりになった途端、今での冷たく淡々と喋る渥に変わった。というか戻った、というのが正しいのか。

「やっぱ猫被ってたのか…」

なんだかイラっとして、そう呟けば渥が位置的に下にいる俺を感情のない瞳で見下ろした。

「んな面倒臭いことするか。…あの人たちと一緒にいると穏やかになれるんだよ。二人とも変わってないな」

表情は相変わらず無表情だったが、そう言う渥の言葉尻からは慈しむようなあたたかさを感じた。
言葉に嘘は無いみたいだ。

「…そっか」

俺も自分の親をそう言う風に言われて、嫌な気持ちになるはずも無く、むしろ少し嬉しくなった。

「…りっちゃん、お前は違うぞ」

「わ、わわわかってるよ!!いちいち言うなよ。てかりっちゃんって呼ぶな!」

どうせ俺といても穏やかな気持ちにはならないんだろ。お前の態度見てたら分かる。


「で!?何の用があって来たんだよ」


話を変えたくてそう切り出すと、あからさまに嫌な顔をされた。

「は?さっき亮太さんの話聞いてなかったのかよ。二度も説明させるな。俺は亮太さんに連れて来られただけだ。お前に用は無い」

「え………そうなの…?」

「睦人がもう少しで帰ってくると思うから待っててと、香織さんに言われたから待ってただけで、本当にお前を待ってたわけじゃない」

「…………」

なに、この恥ずかしい感じ。

俺は手に持っていたコップを握り締めて、そのあとそっとテーブルに戻した。


「親が色々とその、強引に悪かったな…」

「亮太さん達は悪くない。俺もあの人達には会いたかったし、飯、美味かった」

「そ、そか…ならいいけど。…その態度俺にも向ける気ないの…?」

「は?」

「あっ、いや!なんでもない!」

親への態度が俺と180度正反対なことを目の当たりにしてちょっと悲しくなったのかも知れない。

渥は昔の渥とは違う、と自分に言い聞かせてきた部分もあったから、昔のように懐いている渥を見てしまうとどうしても昔の仲の良かった頃が恋しくなってしまう。

だけど、今そんなことを言ったって、
きっとーーー



「俺は大切だと思う人しか大切にしない」


ほらな。
帰ってくる言葉はいつも辛辣だ。

でも、さすがにこれは胸が痛いんだけど。




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