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5

振り向こうと体を動かすと、何故かストンとしゃがみ込んでしまった。

身体が力が抜けたように動かなかった。
いわゆる腰砕けというやつだろうか。

「……やべ…」

仕方なく首だけ後ろを振り返るとケーイチと佳威がそこにいた。

「睦人、」

ケーイチが不安そうな顔で俺の名前を呼ぶ。
一方、佳威は険しい顔でこちらに歩いてきた。それに慌ててケーイチが着いて来る。

「ちょっと、佳威、変なことしないでよ」

「…………しねえよ」


佳威は俺のそばまで来ると、グイッと腕を持って持ち上げてくれた。
すぐには足に力が入らず、そのまま佳威にもたれかかるように倒れてしまった。

「…う、佳威…ありがと……」

「………」

佳威はチラリと俺を見ただけで何も言わない。
すぐに向かいにいる渥に顔を向けた。



「こいつに何したんだよ」

「聞く必要があるのか?相変わらず鼻がキクんだな」

「あ?」

「どんなに可愛いΩが擦り寄ってきてもお眼鏡に叶わないグルメ、だろ?」

「…喧嘩売ってんのか」

「まさか。お前みたいなバックのデカイやつと殴り合う気なんてさらさらないね」

「ハッ。バックがデカイのはお互い様だろ。笑わせんな」


2人の間に不穏な空気が流れる。
見かねたのかケーイチが俺たちの間に入ってきた。

「やめてよ、佳威。…そんなことより睦人が女の子に引っ張っていかれたって聞いたけど、その女の子はどこに行ったの?」

「矢田の女だよ。ヒートが始まって矢田が連れて行った」

「ヒートって…やっぱり島山さんだったか」

「分かっててこいつを一人にさせたのか?優しい友達だな」

渥がケーイチに向かって冷たく言い放つ。


「渥…!ケーイチにそんな言い方やめろよ…」


思わず言い返してしまった俺を見てケーイチが少し苦い顏をした。

そんな顔をしないで欲しい。


だって勝手に走り出したのは俺だし、ミキちゃんの手を無理矢理に振りほどくことは不可能では無かったはずだ。
いくら強引だったとしても相手は華奢な女の子。
自分のタイプの女の子だったことに気を許してしまっていた。

今更ながら恥ずかしい。



「…そろそろ行こう。睦人歩けるよね?」

「あ、うん」


「睦人」


渥が俺を呼んだ。
ドクンと心臓が高鳴る。


「またな」



「………え」



また。

それはつまりまた俺と会ってくれるってことか。
もう話しかけるな、なんて言われないってことなのか。

もう近くにいるのに遠ざけられることはない?


俺はうまく回らない頭で、ただそれだけを考えて、ゆっくりと首を縦に振った。




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