3 「ここだね、507号室、俺も入っていい?」 「ん、もちろん。何もないと思うけど。あ、でも家具はだいたい揃ってるって言ってたな…どうぞ」 俺のあとに続いてケーイチも中に入る。扉が閉まると自動的にガチャンと鍵が閉まる音がした。 オートロックかよ…設備完璧だな… 部屋の中に入ると思った以上に広い室内に驚いた。 一人暮らしにしては贅沢な広さだ。それに先生の言っていた通り家具はひと通り揃っていて今日から暮らしますと言っても問題無さそうだった。 キョロキョロ辺りを見渡す俺に、ケーイチの笑う声が響く。 「睦人驚きすぎ。やっぱり初めて見るとビックリするよね。寮って感じしないもんね」 「うん、家賃すごい高いマンションみたい…いくらするんだろ」 「さあ…俺も特待生だから無償で借りてるんだよね。でも寮だからそこまで高くは無いと思うよ?」 ところで、とケーイチがカバンを近くの机の上に置く。 「睦人も家賃知らないってことは…何かの制度を利用してるの?」 ドキリ、と胸が鳴った。 「それは…」 俺は返答に詰まりケーイチと目を合わせることができないまま、きっちり結ばれた制服のネクタイを見ていた。気まずい沈黙が流れる。 周りが静かなだけに心臓がばくばくと脈打ってるのがわかった。 そんな俺をジッと見ていたであろうケーイチがこちらに近付いてくる。 ケーイチは俺のすぐ傍まで近寄るとスッと手を挙げた。 咄嗟に身構えてしまった俺の傍で、ケーイチの包み込むような優しい声。頭を撫でる感触がした。 「ごめんね?こんな試すようなこと言って。…実は俺、睦人がΩなの知ってるんだよ」 「…………へ…?」 今、なんて言った? リクトガΩナノシッテルンダヨ Ωなのを知ってる? 「な、なんで……!?」 「とりあえず座ろっか。って俺の部屋じゃないけど」 「うん…」 動揺する俺はケーイチに促されるままリビングに備え付けられていたクリーム色のソファーに腰を落とす。隣に少し距離を開けてケーイチが腰かけた。 この距離感が今の俺にはすごく安心できた。 「実はね、睦人が転入してくる前日に、先生に呼ばれたんだ。転入生が来るから事前に話しておきたいことがあるって」 …嫌な予感がする。 「そこで転入してくる子がΩでさらに男の子だって聞いた。…俺はβだし、委員長だから入ってくる子の世話をしてほしいって言われたんだ」 「マジかよ…個人情報もろバレじゃん…」 サイッアクだ…! 俺は思わず頭を抱えた。 「先生を擁護するわけじゃないけど、クラスで知ってるのは俺だけだよ。先生も俺のことを信用して、良かれと思って言ったんだと思うけど…睦人としては言いたくなかったんだよね。βだって言ったもんね」 「うっ…」 全て知られていた奴に対してβだなんて嘘ついていた事がなんだかすごい恥ずかしくなってきた。 「……知ってたなら言ってくれたら良かったのに…」 「睦人がΩだということを隠していたかったみたいだったから…それなら俺も無理に真実を問いただす必要は無いかな、って。でも…」 でも、とケーイチが初めて言葉を濁した。 ケーイチを見ると複雑そうな顔をしていた。 「佳威が…、あいつが睦人に対していい匂いだって言っただろ?」 「うん…」 あれは俺もビビった。Ωだと匂いでバレたのかと内心ものすごく焦っていた。 「睦人がβだって伝えてるから、まだなんでそう感じるのか気付いてないみたいだったけど、あいつは睦人のΩのフェロモンを感じ取ってるよ」 もどる | すすむ | 目次へもどる | |