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「#幼馴染」のBL小説を読む
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午後の授業もようやく終わって俺たちはそれぞれ帰る支度をしている所だった。

「浅香ちょっといいか?」

先生が教卓からこちらに手を挙げている。
俺は帰る支度を終えた鞄を机の上に置いて先生の元に向かった。

「ちょっと悪いんだが、渡し忘れてたもんがあってな職員室まで一緒に来てくれないか」

「あ、はい。分かりました」

後ろを振り返りこちらを見ていたケーイチと佳威に先帰っといて、と伝えると俺は先生と一緒に教室を後にした。



先生は職員室の前でここでちょっと待っててくれと一旦1人で入り、何かの書類と鍵を持ってもう一度廊下に出てきた。

「隣の生徒相談室が空いてるからそこに行こう」

なんだろう。職員室じゃできない話なんだろうか。
不思議に思いながらついて行くと、黒張りのソファと机が並んだ生徒相談室へ通された。

「まあ、座って」

先生がそう言いながらエアコンのスイッチを入れる。すぐに冷たい風が流れ込んできた。

お互いソファーに腰掛けると、先生が少し皺の入った穏やかな顔で話し始めた。

「浅香、学校はどうだ?まだ2日目だし分からない事も多いだろうがなにか困ったことはあったか?」

「いや…特には。友達が色々教えてくれるので助かってます」

「そういえば委員長と仲良くしてるみたいだな。彼ならわたしも安心だよ。…ああ、それと」

なんとなく何を言われるのか予想のついた俺はゴクリと唾を飲み込んだ。



「番探しは順調かな?」



ーーーほら、やっぱりだ。
俺は膝に置いた手のひらをギュッと握り締めた。

「話によるとさっそく光田とも仲良くなってるみたいじゃないか。彼は優秀なαなんだけど、どうも他人を寄せ付けないところがあるみたいでね…少し心配をしていたんだよ」

「カ…光田くんも良くしてくれてます。番とかはまだよく分からないですけど…」

「そうか。まあこの学校には他とは比べものにならないくらいα生徒が在籍しているからね、きっといい子が見つかるよ。意外とΩ生徒を求めてる子はいっぱいいるからね」

「………はい」

小さく答えて、俺はそっと下を向いた。



そう、俺のバースはβなんかじゃない。
10歳のあの日、届いた検査結果にはこう書かれていた。


【検査結果:Ω-オメガ-】


そして、指定の病院で詳しい教育を受けるように、とも。

Ωはαとは違って専門の学校はない。
そんなところに通っているのが知られれば性犯罪に巻き込んでください、と言っているようなもの。

なのでΩに関する知識はいたるところにある病院のどこかで学ぶようになっていた。

それも桐根学園のように数年に渡って学ぶことはない。
ただ、発情期のことやその際の対処の仕方などだ。ちなみに俺はバース検査をした病院でそれらについて学んだ。


そしてこのαがたくさん集まるこの高校への転校は、父の転勤が関係してるのはもちんのこと、αである渥が在籍しているであろう可能性と、俺がΩだということも大いに絡んでいる。


この国は優秀で国を引っ張っていくαの数を増やすことに物凄く重点を置いている。
他国に負けない産業と技術の発展。企業の進出、それにはαの力がどうしても必要であった。


α同士は高確率でαの子が産まれる。α同士の結婚なのでどちらもエリート、政略結婚なども多々行われていた。またαの血を残すことに誇りを持っていて今でも純潔を守るなんて言ってαとしか交わらない人達もいる。

αとβでいうと、これはほぼβであり、まれにαやΩが産まれることもあった。

β同士では、これもほぼ95%の確率でβの子が産まれる。


そしてαとΩ。これに関しては100%産まれてくる子はαとなる。


どういう遺伝子が関係しているのかはまだ判明されてはいないが、この事実が発見されてからΩの地位は少し上昇した。

もちろん、発情期などのせいでなかなか社会進出できないのもまだまだ実情ではあるけれど、国としては100%αが産まれ、番としても契約ができるこの二つの性を貴重な組み合わせだと発表したのだ。


だからか、この学校ではα性とΩ性の番探しを積極的に推奨していた。
学校案内にもそのことに関して書かれているのを見つけた程だ。

この学校はα贔屓はもちろん、Ωに対しても優遇してくれる点が多々ある。
ただΩはどうしても性の対象にされやすいため、Ωの優遇制度の内容はΩにしか伝えられない。逆にαはαだとΩが気付きやすいように、優遇内容が全体に広まっているみたいだった。


「それでだな、浅香は隣の生徒寮の存在は知っているか?」

「生徒寮…あ、あの大きい寮のことですよね?」

「ああそうだ。聞いたとおもうがαには無償で部屋が提供さされるんだが、実はΩもその対象でな。浅香の家は学校の近くだし、家から通うと言っていたからな」

言うのが遅くなって悪かった、と言って先生は職員室から持ち出した銀色に輝く鍵を机に置いた。
カチャンと金属音。

「Ω性の子達は発情期(ヒート)があるからね…いくら三ヶ月に一度と決まっていても突然周期がズレることもある。家に帰れない時に逃げ込む場所も必要だろう」

「ヒート……そうですね」

俺は現在17歳だが、未だヒートが起きた事がない。
早い子だと15歳くらいから始まるらしいが、それが始まる気配も無かった。
でも俺がΩであることには変わりない。いつかヒートが来た時の為に逃げ込む場所があるのは心強かった。

「一度部屋を覗いてみるといい。場所の確認も必要だしな。家具はある程度揃っているから」

「分かりました。この後行ってみます」


俺は机に置かれた冷たい鍵をそっと握り締めた。




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