3 初めての売店にやって来たが、店内の品揃えはコンビニみたいに豊富だった。白を基調にした店内は明るく清潔感に溢れている。雑誌から食料品、日用品までさまざまだ。 お昼時ということもあって、店内には結構な数の生徒達が居たが食堂が隣接されているからか、すれ違え無いほどの混雑ではなかった。 そうして俺たちが2人で弁当を物色していると、後ろを何度も通ったり横からチラチラとこちらを伺う視線に気付いた。 男女関係なく視線を送ってくるようだ。 とは言ってもその視線はほぼ佳威に注がれていた。 「佳威…さすがだな」 「あ?何がだよ。つか、俺これにしよー。睦人も早く決めろよ」 当の本人は慣れているのか気付いていないのか全く気にしている様子は無い。 そんな佳威に苦笑いをしつつ、俺はシャケ弁当を手に取った。 「俺はこれにする。早く戻らないとな」 「ああ、あいつ多分食べずに待ってるだろうし。早く帰らないと文句言ってくるぜ、きっと」 「そうなんだ!ほんと佳威たちって仲良いよな。いっつもそんな感じなのか?」 「あー、まあいわゆる幼馴染ってやつ?あいつは俺の家のこと気にしねえし、俺がαだからって媚びてくるわけでもねえから楽なんだよな。だからなんか気付いたらよく一緒に居る、みたいな」 そこで一旦会計をするために二手に別れた俺は、先に会計が終わって売店の外で佳威を待つ。 そのあと会計の終わった佳威がお弁当の入ったビニール袋をぶら下げてやって来たので、俺たちはケーイチのいる教室に並んで歩き出した。 「確かにケーイチはそういうこと気にしなさそうだよな。誰とでも対等に向き合ってくれそうだ。主席だっていうのにアホな俺にも気さくだし」 「あんま褒めると調子に乗るから本人には言うなよ、それ」 「なんでだよ」 思わず笑ってしまった。 そんな俺の顔を佳威がジッと見る。 「…ん、なに?」 「いや…つか、睦人も別に俺に媚びてこねえし、家のこと…気にしてねえよな」 「あー、そういえばそうかも。家のことなんて実感湧かないし。まあでも実際佳威の家とか見たらビビっちゃうかもよ。多分。俺結構ビビリだからさ」 そう言って笑って答えると佳威が一瞬キョトンとした顔をしてそれから破顔した。 「そういうことはもうちょっと隠しとくもんじゃねえのかよ」 「隠しててもしょうがないだろ。ビビリなのは本当のことなんだから」 楽しそうな佳威の笑顔にこちらまで楽しくなってくる。 多分周りから見たらめちゃくちゃ楽しそうな二人に見えているに違いない。 実際ものすごい視線は感じる。多分今まではずっとケーイチと一緒に居たのに、そこに突然知らない奴が混じって仲良くしているのだから、興味を持たれるのは仕方ないことだと思う。 佳威がどこまで人気があるのか分からないが、αと仲良くしているというだけで結構嫉妬されそうだ。 でも佳威はαだからといって俺に対して辛辣な態度を取らないし、家のことも表に出してこない。 むしろただ普通の格好いい友達だ。見た目は少し怖いかも知れないが。 「じゃあ今度の休みに睦人を俺の実家に連れて行くわ」 「え!?マジかよ。…よ、よし。ビビらないように頑張るな」 「頼むぜ。…まあビビってる姿見るのも面白そうだけど」 さらりとS発言をされて、返す言葉を探していると、横から突然知らない声に呼び止められた。 「お!どこの男前かと思ったら佳威じゃないか!今日は珍しい子を連れているんだな」 おっさんの茶番台詞みたいなのが聞こえてきて、パッと前を向くと前方からひときわ大きく目立つインテリ系な男子生徒と小柄で可愛らしい女生徒のペアがこちらに歩いてきていた。 その男子生徒は一目見ただけで、αだと分かった。αは纏う雰囲気とその整った顔立ちですぐに分かる。 その横に立つ女の子は近くに来れば来るほど美少女だと分かった。 「矢田か」 矢田、と呼ばれたその生徒は佳威の次に俺を見て高い鼻にかけてある眼鏡を中指で持ち上げるとニコッと笑った。 「君が噂の転校生か。会えて良かった」 「へ?噂?」 そんな噂を立てられるほど目立った覚えは無いが。 「ケーイチ以外を連れ歩かないあの佳威が、転校2日目の転校生と一緒に登校してきたって朝から話題で持ちきりだったんだよ」 「そ、そんな噂が…」 あれを他の生徒にも見られてたのか、うちのクラスの奴らが周りに言い回ったのかは知らないが、そんなに早く校内に広がったのか。 まあ、そもそも噂というか事実なので、なんとも言い難い気分なのだが。 「もしかして、その子がきみの番候補かい?」 「は!?」 思わず大きい声が出た。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |