7 渥は酷く残酷な言葉が吐き出したあと、すぐに俺の横から立ち上がった。 すぐ横にあった温もりが早急に離れていく。雨が降っているせいか肌寒さを感じた。 「そういうことだから。邪魔したな」 離れていくその姿に俺は思わず手を伸ばしていた。 グイッと渥の離れかけた腕を掴む。 「待てよ…!そんなのいきなり言われたって俺は納得できない。…なんでだよ?お前がαだからか?俺と知り合いだと思われたくないからか?」 「そうだと言ったらどうする」 渥がこちらを振り向かず返してくる。 違う、そう言ってくれると頭のどこかで思っていたのかもしれない。予想外の返答に一瞬息が詰まった。 ギュッと渥の腕を掴んでいた手がほんの少し緩んだ。 「………渥はそんなことを言うやつじゃない…」 「じゃあなんで聞いてきた?少しでもそう思ったからじゃないのか。それとも俺に、違うと言って欲しかったのか」 「…!」 心の中を見透かされたような発言に顔が熱くなった。 遠慮なく心を突き刺してくる言葉たち。ああ、嫌だ。こんな場所早く逃げ出したい。 でも… 緩みかけた手をもう一度ギュッと握り閉めた。 「そうだよ。…俺はお前と友達でいたい」 「…なんでそんなに俺にこだわるんだ。お前今日ケーイチと仲良くしてただろ」 「俺は……!」 俺は。 なぜだか次の言葉が出てこなかった。 俺はどうしてここまで渥にこだわってるんだろう。 言葉に詰まる俺に対して渥が俺の名前を呼んだ。 「………睦人。俺はαだ。αじゃないお前は俺に惑わされてるだけだろ。俺に対するお前の気持ちは感違いだ」 「言い切るなよ…」 感違い…本当にそうだろうか。 確かに力のあるαには人々を惹きつけ、まとめあげトップとして舵を取っていくことができる力がある。 今日学校で渥から感じたものは他を圧倒するものがあった。 その力に俺はただ惑わされてるだけなのか。 俺の気持ちが揺れたのを感じ取ったのか渥は感情の無い声色で言う。 「とにかくもう話すことはない。じゃあな」 わりと強い力で腕を引き抜かれ、渥はその長い足でさっさと部屋を出て行ってしまった。 呆然と渥の出て行った扉を見つめていると、ドアがガチャンと閉まる音がした。 ああ、出て行ってしまった。 また渥は俺から去ってしまった。 だけど今回は転校して行ったわけでは無い。きっとまた学校で会える。 それなのに俺の胸は10歳の時に離れ離れになったときよりズキズキと傷んだ。 ギュッと胸あたりを掴む。 そうすることによってすこしは気が紛れるような気がした。 「…つーか…俺がαじゃないの確定事項かよ…」 自嘲気味に呟いた言葉は窓越しに聞こえる雨音に掻き消されていった。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |